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ドイツの健康保険&新しい電子健康保険証

1カ月前にドイツに来ました。健康保険の仕組みは日本と同じでしょうか? 前任者から新しい電子健康保険証の話を聞きましたが、これまでの健康保険カードと利用法に違いがあるのでしょうか?

Point

  • 検査・薬剤に一定の制限がある公的保険
  • プライベート保険でも全て保険適用とは限らない
  • 公的保険の保険料は所得と連動
  • 新しい健康保険カード(eGK)の多彩な役割
  • 患者の診療情報も入れることが可能(ePA)
  • ePAとしての利用は患者の同意が必要

日本と異なるドイツの保険制度

● 公的保険とプライベート保険

法律で加入が定められている「公的保険」と、任意で加入する「プライベート保険」により成り立っています。ドイツに暮らす人の約9割は公的保険に加入していますので、健康保険(疾病保険)という場合には一般に公的保険を意味します。

● 保険料で成り立っている健康保険システム

ドイツの疾病保険システムのほぼ全てが加入者の保険料(Beitrag)により維持されてきました。新しい検査、薬、治療法の登場とともに医療費の増大が課題となっており、医療費抑制のためさまざまな制限が設けられています。

● 保険収載項目なのに保険適用外?

公的保険は疾病金庫が認めた範囲内での薬、検査のみが適用となります。一方、プライベート保険はより幅広い範囲の項目で適用されますが、契約内容や保険料により異なるため、よく確認しましょう。

公的保険のQ&A

● 公的保険はなぜ法的保険と呼ばれるのですか?

ドイツに住む人は何らかの疾病保険に加入していなければなりません。そのため、疾病金庫(Krankenkasse)が運営する公的疾病保険のことを「法的疾病保険」(gesetzliche Krankenversicherung、GKV)と呼びます。

● 公的保険の保険料は全て同じですか?

保険料は加入者の所得が増えるほど高額になります。性別、年齢による違いはありません。高収入の場合はプライベート疾病保険の保険料よりも高額になることがあります。

● 家族の保険料は誰が支払いますか?

公的疾病保険の加入者の扶養家族(収入のない子ども、配偶者)は、無料で公的保険に加入できます。収入を得るようになった場合は、自身で保険料を支払わなければなりません。

● 公的保険で希望の検査を全て受けられますか?

治療に必要な検査は疾病金庫が認めた範囲内保険でカバーされます。それ以外を希望する場合には自費扱いとなることもあります。

● 公的保険で必要な薬がもらえますか?

薬剤の選択は基本的には疾病金庫が認めた範囲内で、ジェネリック薬が主体です。ジェネリック薬と共存するオリジナル薬を希望する場合には、その差額が自己負担となります。

● 薬剤費の自己負担はありますか?

薬剤1品当たり10%の一部負担(Zuzahlung)があります。ただし最大10ユーロで、5ユーロ未満の薬は全額自己負担。例えば、80ユーロの薬なら8ユーロ負担します。

プライベート保険のQ&A

● プライベート保険に入る条件はありますか?

所得が一定以上の人は公的保険の保険料が高額になります。過去数年間の所得が基準を満たしている場合は法的保険である公的保険の加入義務が免除され、プライベート保険に加入することが可能です。

● 公的保険に残ることもできますか?

プライベート保険の保険料は公的保険に比べて高額となっているため、数年先の収入が不確かである場合には、自分の意志(freiwillig)で公的保険に留まることもできます。

● プライベート保険では、全てがカバーされるのでしょうか?

公的保険より広い範囲での検査や治療薬の選択が可能になります。しかし契約内容、保険料の額により異なるため、高額な検査や特殊な治療が必要な場合には、まず保険会社に相談すると良いでしょう。

● 日本で受けていた治療は継続できますか?

プライベート保険加入時に治療中の疾病の有無を申告することが大切です。病気なしを選択して署名(Unterschrift)すると、後に保険でカバーされなかったり、保険料が高くなったりすることがあります。

● 薬剤費はどの程度負担されるのでしょうか?

処方箋による薬剤を受け取る際には一旦全額を支払います。領収金額、スタンプ、署名された処方箋を返してもらいプライベート保険会社に送ると、規定に従って返金される仕組みです。

日本とドイツの健康保険

日本 ドイツ
公的(法的) プライベート
制度 皆保険 皆保険
保険料 所得による 所得による 一定
加入時の告知義務 なし なし あり
加入時の基礎疾患 影響なし 影響なし 保険料に影響
検査 保険適用 制限あり より広く適用
薬剤 保険適用 ジェネリックが基本 ほぼ適用

健康保険カードについて

● 今までの健康保険カード

1995年に導入され、現在も多くの人が用いている健康保険カード(Krankenversichertenkarte)。加入者の氏名、住所、生年月日、保険番号、保険の状態などの基本情報が記録されています。診療の際に提示を求められる大切なものです。

● 新しい電子健康保険カード(eGK)

上記の情報に加え、薬剤処方内容、薬剤過敏やアレルギー歴など救急時に必要な情報、検査記録、医師の診療情報提供書、レントゲン写真の報告書など、多くの診療情報を加えることができます。そのため新しい電子保険カード(elektrische Gesundheitskarte)は、患者自身が携帯するカルテ書類(E-Paitentenakte、ePA)としての機能も加えることができます。将来予定されている主な機能は以下の通りです。

e-診療情報(ePA)
救急医療時に必要なデータ、処方内容、医師の診療情報提供書、ワクチン接種記録、母子手帳、歯科診療記録、小児科での検診記録、さらに介護情報などに対応できるようになる予定です。

病欠の指示診断書(eAU)
病欠の際の指示書(Arbeitsunfähigkeitsbescheinigung、AU)を電子情報として受け取ることができます。

e-処方箋(E-Rezept)
アプリを介して医師の処方箋を発行できます。患者にとっては発行された処方箋を医療機関に受け取りにいく手間が省け、処方箋を薬局に送ることで後日薬剤を受け取ることが可能です。

e-処方記録(E-Medikationsplan、eMP)
患者の処方内容と処方に関する情報を電子健康保険カード上に保存しておくことが可能になります。これにより医師はほかの医療機関での処方内容と投薬量を把握でき、副作用、同様薬剤の重複や薬物相互作用のリスクを減らすことができます。

● 新しい健康保険カードの情報

必ず含まれる情報
氏名、生年月日、健康保険の状態、疾病保険組合・プライベート保険会社名のほか、 処方箋データはどの電子健康保険カードにも必ず保存されます。

患者の同意を得て含まれる情報
そのほかの情報は、患者の同意を得て初めて情報が加えられることになります。ドイツの承諾書の常として、十分な説明を受けて理解した上での署名が必要です。高齢患者も多く、電子情報に関する膨大な説明を理解するのは容易ではないとされています。

● 誰が情報入力をしますか?

ePAの情報入力は医療機関の医師が対応することになっています。しかしコロナ禍でその対策や対応に追われたこと、どの医療情報をカードに入れるか情報ごとに患者本人の同意が必要で、限られた診療の時間内に詳しい説明をする時間を取ることが難しいのが現状です。さらに秘密情報の安全性を懸念する人もおり、ePAの機能の普及には時間がかかることが予想されます。

日本とドイツの健康保険

必ず含まれる内容 同意の上で含められる内容
・氏名、生年月日、住所
・加入保険、保険の状況
・欧州連合(EU)内で有効
・処方内容
・救急時に必要な情報
・診療情報提供書
・病欠時の休業指示書 など
 
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馬場恒春 内科医師、医学博士、元福島医大助教授。 ザビーネ夫人がノイゲバウア馬場内科クリニックを開設 (Oststraße 51, Tel. 0211-383756)、著者は同分院 (Prinzenallee 19) で診療。

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