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子どもの原因不明の急性肝炎

英国をはじめ欧州では子どもがかかる原因不明の急性肝炎が増え、亡くなった子どももいるとニュースで聞きました。詳しいことが分からないのですが、わが家の子どもにもうつるのではないかと心配です。どのような状況なのか教えてください。

Point

  • 主に幼児にみられる重篤な肝炎
  • 原因はまだ不明
  • ドイツや日本でも発症報告
  • アデノウイルスの関わりも?
  • コロナワクチンとの関係はなし
  • 一部で肝移植も必要に

子どもの急性肝炎が流行?

日本を含む世界各地で

今年4月23日に世界保健機構(WHO)は、世界11カ国で生後1カ月~16歳までの子どもの原因不明の急性肝炎(akute Hepatitis)が169件報告され、うち17人は肝移植が必要なほど重篤であったと発表しました。5月27日には、33カ国で疑い例が計650件に増えたと発表されました(WHO)。日本では31名の感染が報告されています(5月27日現在の厚労省発表)。

ドイツ、欧州では

ドイツ国内でも4月28日に最初の報告がありました。欧州域では英国が222名と最も多く、イタリア、スペインでも2桁台の疑い報告がなされています(上記5月27日のWHOの発表)。

何歳ぐらいの子どもに多い?

英国保健安全保障庁「UKHSA」(5月6日)の集計では患者の大半が3~5歳の乳児、WHO(5月27日)も75.4%が5歳未満と発表しています。

主な症状

全身のだるさ、食欲不振のほか、黄疸(皮ふや白目の部分が黄色くなる、Gelbsucht)(71%)、吐き気・嘔吐(おうと)(63%)、便の色が淡い(50%)、下痢(45%)、右上腹部痛(42%)、発熱(30%)などです(前記のUKHSAの集計)。

子どもの急性肝炎の主な症状

  • お腹の痛み、下痢
  • 吐き気・嘔吐
  • 疲れてぐったりする
  • 皮膚が黄色に(黄疸)
  • 時に発熱

診断基準は?

ドイツでは、① 2022年1月1日以降の発症で、②肝機能のAST(GOT)またはALT(GPT)が500 IU/Lを超える、③ 16 歳以下の小児のうち、 ④A型、B型、C型、D型、E型肝炎ウイルスの関与を否定できる場合に、本症の「可能性あり」として届けることになっています(4月28日のロベルト・コッホ研究所[RKI]の疫学レポート)。

肝臓の働き(抜粋)

急性肝炎について

急速な肝細胞の炎症(Entzündung)

肝炎とは感染や薬物などの影響により肝細胞が炎症を起こした状態です。炎症が急速に肝臓全体に生じる場合を「急性肝炎」(akute Hepatitis)と呼びます。

肝機能の低下

炎症で肝細胞が壊れると細胞内の酵素が血液中に漏れ出るために、AST(GOT)、ALT(GPT)などの逸脱酵素の値が高くなります。これを肝機能低下と呼びます。

劇症化とは

肝臓の機能が急激に低下し急性肝不全の病態になり、意識障害など全身に重篤な症状が現れます。劇症肝炎は急性肝炎の一部(1~2%)にみられ、生命を保つために肝移植が行われることもあります。

栄養の代謝・貯蔵 糖質・タンパク質、脂質の処理、グリコーゲンの貯蔵
解毒作用 有毒物を解毒処理するアルコールや薬の処理
胆汁の生成 脂肪の消化を助ける

急性肝炎、慢性肝炎、劇症肝炎の関係

原因はまだ未解明

アデノウイルスとの関係は?

WHOが当初発表した169例の患児の44%に、また英国の調査でも126人の74%(前記のUKHSAの報告書)にアデノウイルス(風邪や胃腸障害の原因となるウイルス)の感染がみられました。アデノウイルス41亜型の関与も疑われていますが、まだ明らかとはいえません(5月12日のLancet Infet Dis誌、5月17日のBMJ誌)。

コロナワクチンとの関係は?

子どもの大半はコロナワクチン未接種のため、ワクチンによる副反応ではないと考えられています。

新型コロナ感染との関係は?

英国の調査(前記のUKHSAの報告書)ではコロナ抗体を検査した61患児の16%で陽性でした。一方、新型コロナに感染した8883名の小児で肝機能(ALT)を調べた2171患児のうち、13名(0.006%)のみにALTの上昇がみられたとしています。

経過や頻度について

大半は回復、肝臓移植も

英国の報告によるとイングランド地方の患児163名の11名が肝臓移植を受けています。肝機能が消失するような重症化も17人に1人みられたことになります。回復後に炎症の慢性化が残るかどうかは分かっていません。

子どもの肝炎は増えている?

前後の比較ができておらず明らかではない状況です。ドイツ国内では原因不明の小児の急性肝炎が増えているという兆候はみられていません(RKI)。

家庭でできること

子どもの衛生面への配慮

アデノウイルスの関与の可能性も想定して、①引続き外出後の手洗いを行う、②病気の人を避ける、③咳やくしゃみをする際は口元を覆うようにする、④目や口、鼻を頻回に触らないことを勧めています(米国CDC)。

十分な睡眠

十分な睡眠によって免疫は保たれています。一般論として感染防御には子どもの免疫力を保つことが大切です。

基本的なワクチン接種

日本とドイツでは推奨ワクチンの種類、接種時期が必ずしも同じではありません。日本で接種が済んでいても、ドイツでは未接種状態とされることも。お近くの小児科(Kinderarzt/-ärztin)にご相談ください。

知られている代表的な肝炎

A型肝炎(Hepatitis A)

貝類などの飲食で感染します。劇症化は少なく、慢性化することはありません。ワクチン接種で予防可能です。

B型肝炎(Hepatitis B)

大人ではタトゥー、性交渉などによって感染します。ワクチン接種で予防可能です。母子感染や幼児期の感染では、慢性肝炎や肝がんに進展することも。薬により進展を防ぐ治療が行われます。

C型肝炎(Hepatitis C)

予防ワクチンはありません。注射針、タトゥー、血液製剤などで感染します。約7割が慢性化し、肝がんに進むことも。薬によるウイルス排除が行われます。

 
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馬場恒春 内科医師、医学博士、元福島医大助教授。 ザビーネ夫人がノイゲバウア馬場内科クリニックを開設 (Oststraße 51, Tel. 0211-383756)、著者は同分院 (Prinzenallee 19) で診療。

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