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気候変動と私たちの健康 エネルギー不足の今冬のために

地球温暖化をはじめとした気候変動に加え、この冬のエネルギー不足問題も連日話題となっています。私たちの健康に影響するのでしょうか?

Point

  • 耐寒、耐暑の体温調節能は加齢で低下
  • 温暖化で感染症リスク地域が変化 
  • 温暖化で熱中症のリスクが高まる 
  • 秋〜冬は太陽光に当たる工夫を
  • 規則正しい生活、歩行、十分な睡眠
  • 今冬は暖房費にも留意を

体の気温変化への対応

地球の陸地の80%に居住

「地球上で人間が居住している地域」(エクメーネ)は陸地の80%を占めます。これは環境に合った衣服や暖房器具があってのこと。それらなしに人が暮らせる気温の範囲は意外と狭いものです。

体温を一定に保つ仕組み

暑いと発汗により体温上昇を抑え、寒いと末まっしょう梢血管が収縮して体温発散を防ぎます。体内の代謝活動やホルモンにも、体温を一定に保つ働きがあります。亜熱帯や熱帯で生まれ育った人は汗腺数が多く、発汗能が優れています(1978年の日本熱帯医学会誌)。また暑さ、寒さへの適応能は加齢とともに低下します(2017年のAm J Physiol 誌、2012年のGerontology誌、2018年のBio Med Res Int誌)。

至適温度に関わる環境因子

生活上の好ましい気温は17〜24度で、快適さには、①気温のほか、②湿度、③輻

ふくしゃ射温度、④風速が関わります(1978年の人類誌)。外気温が同じでも、日光が当たれば暖かく(暑く)、風が吹いていると涼しく(寒く)感じます。

感染症拡大への危惧

なぜ拡大?

気候の温暖化とそれに伴う降水量や降水パターンの変化により、蚊(Mücke)やダニ(Zecke)など感染症媒介生物の生息域が拡大するためです。

ダニ脳炎(Frühsommer-Meningoencephalits、FSME)

ダニ脳炎のドイツでの感染リスク地域(Risikogebiet)は南ドイツでしたが、ここ数年はアーヘン(ノルトライン=ヴェストファーレン州)近郊でも発症が報告され(6月21日付のRheinische Post紙)、同州にあるゾーリンゲンはロベルト・コッホ研究所(RKI)のリスク地域リストに加えられました。

デング熱(Dengue)

日本においてもデング熱を媒介するヒトスジシマカ(Tigermücke)の分布域の北上が報告されています(日本の環境省の「地球温暖化と感染症」より)が、近年は南ドイツでもヒトスジシマカが確認されるようになりました(6月10日のヴェルト紙)。

マラリア(Malaria)

多くの人が最も恐れているのがマラリアの拡散です。媒介動物のハマダラカにとってドイツの冬は寒過ぎるため、ハマダラカ生息の可能性は考えられていません(6月10日のヴェルト紙)。

暖冬と花粉症(Heuschnupfen)

飛散時期の変化

花粉の飛び交う時期が早まったり、長引いたりする可能性が指摘されています。1月下旬〜2月のハーゼル(Hasel)やハンノキ(Erle)の花粉症が12月にみられたこともあります(2018年12月のSpiegel誌)。

虫刺され(Insektenstich)

ノスフェラトゥ・クモ(Nosferatu-Spinne)

ドラキュラの別称「ノスフェラトゥ」の名を持つ、温暖な地中海域に生息する比較的大きめなクモ(体が1〜2センチ、足が最大5センチ)です。今年はドイツ各地で生息が確認されました(9月8日のReinische Post紙、9月2日のヴェルト紙)。クモの巣を作らずに家の中で生息し、かまれると強い痛みがありますが、血を吸うことはありません。

ヴェスペ(スズメバチ、Wespe)

2022年の夏は特にヴェスペの数が多く、「ヴェスペの年」(Wespenjahr)と呼ぶ人も(8月18日のヴェルト紙)。暖冬の影響で春に多くの女王ヴェスペが巣作りし、さらにヴェスぺは乾いた高温の気候を好むため、この夏に大量に発生したと推測されています(同紙)。

気温上昇、空気の質

熱中症の増加

夏の気温上昇は高い湿度や都市部の地面からの照り返しも加わり、熱中症のリスクが高まります。高齢者では循環器系や呼吸器系への負担も大きく、死亡率への影響も指摘されています(2002年のIPCC報告書)。

大気汚染(Ausschlag)

大気汚染との複合的影響により、地域や国によってはぜんそくやアレルギー疾患の増加が懸念されています。

エネルギー不足と冬の健康(Heuschnupfen)

暖房費・光熱費上昇の可能性

今冬は住宅用暖房用のガスの不足や暖房費の値上げがささやかれています。暖房の設定温度をやや低めに保ったり、日本のように部屋ごとの暖房や足だけを暖めるコタツ的なものを用意したりすることも有用かもしれません。窓からの熱の放散を防ぐには2重窓や3重窓、厚手のカーテンも部屋の保温に役立ちます。

入浴、シャワー

入浴やシャワー回数を減らすことでエネルギーを節約したい場合、シャワーを浴びて体を温め、すぐに寝るという工夫も。冷たいシャワー(kalgen Dusche)を浴びて体を温めることの利点を載せた記事(8月16日のRheinische Post紙)もありますが、慣れないで急に冷たいシャワーを浴びると心臓病や高血圧の人には大きなリスクにもなり得ます。

照明と冬季うつ

寒く暗いドイツの冬は「冬季うつ」(Winterdepression、ウィンターブルー、季節性情動障害)の季節。部屋だけでも明るく過ごしたい場合、効果的な予防や治療法には市販の専門照明器具による強い光量(1万ルクス)を用意すると良いでしょう(本誌1111号参照)。

室内での運動

自宅で行うフィットネスなどの運動は血液の循環を良くし、冷えた体を温めるのにも役立ちます。

今冬の新型コロナ感染、インフルエンザ流行は?

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)

コロナウイルスは冬季に活動が増すため、ドイツでも晩秋からの新型コロナ感染の拡大が危惧されています(6月8日のドイツ政府のコロナ専門者会議報告書)。ワクチン接種者も新型コロナ感染者の抗体価も月日の経過とともに低下するため、高齢者などリスクグループに属する人は4回目のワクチン接種が推奨されています。

インフルエンザ(Grippe、Influenza)

日本感染症学会は、インフルエンザに対する集団免疫が低下しているとして「今季はインフルエンザの流行の可能性が大きい」と警告しています(8月9日更新版)。一方、東京都感染症情報センターの定点調査の報告(第36週[8月末~9月初旬])では、今シーズン(2022〜 2023年)のインフルエンザ流行の兆しはまだ見られていません。

この冬を健康に暮らすために

よく歩く

日常から歩くことは足腰を鍛え、血圧や糖質代謝にも良い影響をもたらします。有酸素運動は加齢に伴う温度適応の低下を防ぐとされています(1994年の日本生気象学会雑誌、2016年の日職災医誌)。

十分な睡眠

睡眠は疲れた身体の疲労回復だけではなく、免疫を高めることにより風邪などの病気にかかりにくくします。睡眠は記憶の定着にも必要です。

太陽光に当たる

日本より緯度が高いところに位置するドイツでは、これからの季節は太陽光により皮ふで作られるビタミンDが不足しがちです。晴れた日は1回15〜 20分、週2〜 3回の日光浴が勧められます。

規則正しい生活

起床、食事、睡眠、体を動かすなど、無理のない規則正しい生活が大切です。デスクワークが多い人は、仕事中も体を時々伸ばすなどの工夫を。就寝直前の食事は好ましくありません。

 
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馬場恒春 内科医師、医学博士、元福島医大助教授。 ザビーネ夫人がノイゲバウア馬場内科クリニックを開設 (Oststraße 51, Tel. 0211-383756)、著者は同分院 (Prinzenallee 19) で診療。

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