ジャパンダイジェスト

ドイツからの出張・旅行前の予防接種

今年春に仕事で中央アフリカへ出張する予定です。渡航前にどのような予防接種が必要になるでしょうか? 1日で全ての予防接種を済ませることができるのか、どのくらい時間に余裕をもっておくべきか、教えてください。

Point

  • 予防接種は感染症から身を守るため
  • 訪問国(地域)により感染リスクが異なる
  • 事前に感染リスクを調べる
  • 黄熱ワクチンは指定の医療機関で
  • 十分な時間的余裕をもって早めに相談
  • 破傷風、A・B型肝炎は10年ごとに追加接種

予防接種の目的

感染から自分や家族を守る手段

渡航先によっては、日本やドイツにはないウイルス感染症が流行しています。治療法も限られていることが多く、予防接種が最も効果的な予防方法です。また、周囲の人々への二次感染の防止にも役立ちます。

渡航先によっては接種証明書が必須

主にアフリカや南米の一部の国々への入国に、黄熱の予防接種証明書の提示が求められることがあります(後述)。赴任先の国によって、入園や入学に子どもがその国の基準回数の予防接種(例えば、麻しん、風しん)が済んでいることが求められる場合があります。

予防接種を受ける前に

渡航先にかかわらず受けるべき予防接種

どこに行くかにかかわらず、B型肝炎、麻しん、風しん、水痘、破傷風の予防接種は済ませておくことが望まれます(ロベルト・コッホ研究所[RKI ]、WHO)。また、インフルエンザの流行は南半球では北半球の夏期になるため、渡航時には留意が必要です。

渡航先によって考慮すべき予防接種

旅行・出張・駐在などで渡航する先や滞在期間によって、必要な予防接種の目安が異なります。下図はその一例です(2023年4月のRKIの疫学レポート 14/2023 、厚労省検疫所「FORTH」の情報)。

望まれる予防接種の一部(1カ月以上の滞在の場合) ●必要 ◎推奨 ◯リスクがある場合に検討 △ワクチン入手可能であれば
黄熱 A型肝炎 B型肝炎 髄膜炎 狂犬病 ポリオ
北アフリカ ▲※
東アフリカ
中央アフリカ
西アフリカ
南アフリカ
西アジア
東南アジア
南アジア
中央アメリカ
南アメリカ
※スーダン南部は必要(厚労省検疫所「FORTH」の資料を元に改変作成)

予防接種の優先順位

今までの接種記録と推定有効期間を考慮して必要なワクチンを選びます。感染頻度の高い感染症、重症化のリスクや命に影響する未接種の感染症に対する予防接種が優先されます。

リスクの高い病気と予防接種

黄熱(Gelbfieber)接種は特定の医療機関にて

ドイツでは指定された旅行医学(Reisemedizin、Tropenmedizin)専門の医療機関でのみ接種可能です。2016年7月より黄熱ワクチンは1回接種で「生涯有効」となったのに伴い、予防接種証明書も生涯有効になりました。接種証明書は接種10日後から有効になります。なお、黄熱ワクチンは生ワクチンです。

トランジットで必要な場合も

黄熱は予防接種証明が必要な国(左下参照)があるほか、感染する危険のある国の空港にトランジットで12時間以上滞在した渡航者も、予防接種証明が求められる国(アルジェリア、アルバなど)があります。事前にチェックしておくことが大切です。

A肝炎(Hepatitis A)主な感染源は食品

アジア、アフリカ、中南米を中心に世界中にみられます。A型肝炎ウイルスに汚染された食品(特にカキ、アサリどの魚介類、野菜や冷凍果物[2023年の食品安全委員会ファクトシート])、性的接触(性器→口)、注射の回し打ちも感染源になります。

ワクチン接種の効果

接種1カ月後には被接種者の95~99%に効果がみられ、少なくとも10年以上の予防効果が得られます(前記のRKIの報告書)。10年に1度の追加接種が勧められています(Illing著「Impfunge」第3版、エルゼビア社、2002年)。

B肝炎(Hepatitis B)感染後は大きな影響

B型肝炎は世界中にまん延しているウイルス感染症で、慢性肝炎、肝硬変、肝がん(HepatozelluläresKarzima、Hepatoma)を引き起こします。渡航先でのけが、性的接触、注射、歯科処置、手術、血液製剤の使用などで感染することがあります。

ワクチン接種は複数回必要

ワクチン製剤によって異なりますが、Engerix B®(あるいは混合製剤のTwinrix®)の場合は0・1・6カ月の3回接種、急ぐ場合には0・7・21日、12カ月後の4回接種を受けます。10年に1度の追加接種が推奨されています。

日本で接種した場合の留意点

成人において、一部の国産B型肝炎ワクチンによる抗体上昇が不十分との報告があります(名鉄病院予防接種センター、宮津光伸先生)。高リスク地域に長期滞在する場合は、抗体価を確認するとよいでしょう。

破傷風 トキソイド(Tetanus)破傷風菌は土の中に

破傷風菌はウイルスではなく、細菌が神経毒素を作って生じる病気です。毒素のため、抗菌薬(抗生物質)は効きません。世界中に存在する破傷風菌は土で汚れた傷から感染し、空気(酸素)に触れない体内で毒素を産生します(嫌気性菌)。

ワクチン接種は10年に1度

破傷風トキソイド(Toxoidimpfstoff、Tetanol®など)を接種します。感染予防の抗体価維持には10年に1度追加接種が大切です。

そのほかの病気狂犬病(Tollwut、Rabies)

狂犬病ウイルスを保有する犬、ネコ、コウモリを含む野生動物にかまれたり引っかかれたりして、感染します。特に感染リスクの高いのはアジアとアフリカ(2014年のLancet誌、2015年のPLoS Negl Trop Dis誌)で、中南米、中東、インドも要注意地域です。

腸チフス(Typhus)

サルモネラ属のチフス(Salmonella Typhi)による全身疾患で、命を脅かす感染症です。衛生状態が悪く、安全な飲み水が供給されていない流行地域へ旅する場合には予防接種が勧められます。

マラリア(Malaria)

ハマダラカが媒介するマラリア原虫による感染症です。マラリア原虫を有する蚊が血を吸うことで体の中に入り、赤血球に寄生してさまざまな症状が起こります。マラリアの予防にはワクチンではなく抗マラリア薬としてMalaron®(マラロン配合錠®)が最もよく用いられます。出発の1~2日前から服用を始めドイツに戻ってからも1週間ほど薬の服用を続けます。

 
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馬場恒春 内科医師、医学博士、元福島医大助教授。 ザビーネ夫人がノイゲバウア馬場内科クリニックを開設 (Oststraße 51, Tel. 0211-383756)、著者は同分院 (Prinzenallee 19) で診療。

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ドイツニュースダイジェスト編集部
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