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薬が効かない?! 多剤耐性菌という脅威

「多剤耐性菌」が時々問題になっていますが、そもそも耐性菌とは何でしょうか?

耐性菌とは?

本来は効果のある抗菌薬(抗生物質)が効かなくなった細菌を、「耐性菌」と言います。多剤耐性菌とは、多くの抗菌薬に対して耐性を獲得した細菌のことで、代表的な多剤耐性菌にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)があります。

ペニシリンの発見と耐性菌の始まり

1929年に最初の抗菌薬であるペニシリンが発見される前は、細菌感染症の根本的な治療法はなく、自己の体力を頼りに自然回復を待つのみでした。そのため、ちょっとした傷をもとに命を落とす人もいました。ペニシリンが発見されてから数年後、ペニシリンに対する耐性を獲得したペニシリン耐性菌が出現します。これは、ペニシリンを無効化してしまうペニシリナーゼ(β- ラクタマーゼ)という酵素を作る菌でした。1959年には、ペニシリナーゼの影響を受けないメチシリンという抗菌薬が作られましたが、それに対しても2年後には耐性を持つメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)(後述)が出現。その後も、細菌と抗菌薬のイタチごっこが続いています。

図1 抗菌薬と耐性菌の関係

なぜ耐性菌が増えたのでしょう?

背景には、医療現場での抗菌薬の使い過ぎ(乱用)や抗菌薬の不適切な選択があります。また、抗菌薬の過度な開発・販売競争もその一因とされています。診療レベルで大切なことは、医師が抗菌薬を正しく使い、患者が処方された抗菌薬の服薬回数を勝手に変えたり、中断したりしないで、指示に従って服用することです。

耐性菌は誰に感染しやすいですか?

耐性菌は、健康な成人の抵抗力を前にしてはほぼ無力ですが、抵抗力が弱い子どもや病人には生命を左右する脅威となり得ます。耐性菌に感染すると、薬が効か ず、感染症が治りにくくなるのです。耐性菌の中でも感染力が弱い緑膿菌やアシネトバクターは通常、抵抗力が弱っていて、長期にわたって抗菌薬を使用している入院患者が感染します。一方、皮膚の常在菌である黄色ブドウ球菌は、健康な子どもの「とびひ」の起因菌です。表皮ブドウ球菌感染症のほとんどはペニシリン耐性で、まれに治りの悪い「とびひ」ではMRSA が疑われることもあります。また、乳幼児の鼻咽頭に常在し、時に中耳炎をきたす肺炎球菌についても、最近は耐性菌であるペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)が見付かっています。

耐性菌の診断法は?

感染部位からの検体(皮膚の創、血液、尿、痰など)を細菌培養し、抗菌薬の感受性テストを行うことにより判断します。テストには数日を要するため、現在MRSAを1日程度で判定できる迅速診断テストも開発されつつあります。

多剤耐性菌の保菌者の治療は?

抗菌薬の感受性テストによって保菌者(細菌に感染している)であることが判明したとしても、細菌に感染することと、症状を伴う感染症を発症することとは同じではありません。明らかに感染症をきたしている場合は治療が必要ですが、全く症状がない状態ならば、必ずしも治療が必要になるとは限りません。

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌とは?

患者から採取分離した黄色ブドウ球菌に占めるMRSA の割合は、国や地域によって差があります。ドイツは20%未満、イタリア・ギリシャは30~40%、 イギリスはやや高く40~50%、米国が約50%、日本は50%以上と推測されています(2006年のイギリスの医学雑誌の報告)。徹底したMRSA対策に取り組んでいるスウェーデンとオランダでは、3%以下に抑えられています。

MRSA の頻度は?

患者から採取分離した黄色ブドウ球菌に占めるMRSA の割合は、国や地域によって差があります。ドイツは20%未満、イタリア・ギリシャは30~40%、イギリスはやや高く40~50%、米国が約50%、日本は50%以上と推測されています(2006年のイギリスの医学雑誌の報告)。徹底したMRSA対策に取り組んでいるスウェーデンとオランダでは、3%以下に抑えられています。

図2 欧州各国のMRSA の頻度(2002年時点)

(2008 EARSS Annual Report より引用)

MRSA はどのように感染しますか?

MRSA感染症は、ほぼ入院患者に限定されてます。医療スタッフの手指、鼻腔、衣服に付着したMRSA がほかの患者に「接触」することで感染が拡がります。そ のため、MRSA が検出された病院では、院内感染予防対策ガイドラインに従って、徹底した拡散予防の処置が講じられます。

図3 黄色ブドウ球菌に占めるMRSA の割合(%)

( 英国健康保健局による1992 ~ 2002年のイギリスでの調査)

しかし、最近は病院とは関係のない市中感染型のMRSA も見付かっています。特に米国では、市中型の黄色ブドウ球菌感染症の12% がMRSA によるものと報告されています(2007年の米国医師会雑誌)。このような市中感染型のMRSA は、ドイツをはじめとするヨーロッパでは、まだまれです。

MRSA の特効薬は?

MRSA感染症の第1選択薬は今も1956年に開発された「バンコマイシン」です。近年はMRSA感染症に対する新しい抗菌剤(ダプトマイシン、リネゾリド、テイコプラニンなど)も開発されています。

ところが困ったことに、近年はバンコマイシンへの感受性が低下したMRSA も散見されるようになりました。1996年にはバンコマイシン低感受性MRSA(VISA)や、2002年には全くバンコマイシンが効かないバンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)も見付かっています。

結核菌も多剤耐性化が進んでいる

最近は、結核菌の耐性化も問題になっています。第1選択の結核治療薬であるリファンピシンとイソニアジドの2剤に耐性を持つ結核菌を多剤耐性結核菌(MDRTB)、さらに第2選択薬のカナマイシンやキノロン系抗菌剤にも耐性を示す結核菌を超多剤耐性結核菌(SMDRTB)、または広範囲薬剤耐性結核菌(XDR-TB)としています。多剤耐性結核の致死率は50% にも達します。

WHO(世界保健機構)は2000〜04年にかけて世界49カ国を対象に調査を実施。その結果、耐性結核菌の比率は結核菌全体の5分の1に達することが分かりました。特にラトビアなど東ヨーロッパ諸国や中央アジア地域では多剤耐性結核菌の比率が高く、WHO は昨年9月、欧州においても耐性結核菌が拡がっているとの警告を出しました。

なぜ多剤耐性結核菌が増加する?

結核治療は、複数の抗結核剤を6カ月以上にわたり根気強く服用しなければなりません。抗結核剤投与が1剤だけ、あるいは結核菌の薬剤感受性を無視した治療、さらには症状が改善すると1カ月程度で抗結核治療を中断し、仕事に戻ろうとする患者が少なくないことも多剤耐性結核菌の増加と関係しているようです。

ヘリコバクター・ピロリ菌の耐性菌って?

胃潰瘍の原因となるヘリコバクター・ピロリ菌についても抗菌薬への耐性菌が増えてきています。除菌がうまくいかない原因の1つになっています。日本ヘリコバクター学会の調査によると、2000年には7%程度であったクラリスロマイシン耐性率が5年後の05年には30%近くまで増加しています。

その他の多剤耐性菌

日本の厚生労働省は、多剤耐性アシネトバクター、ニューデリー・メタロ-β- ラクタマーゼ(NDM-1)産生肺炎球菌などにも注意喚起を呼び掛けています。

 
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馬場恒春 内科医師、医学博士、元福島医大助教授。 ザビーネ夫人がノイゲバウア馬場内科クリニックを開設 (Oststraße 51, Tel. 0211-383756)、著者は同分院 (Prinzenallee 19) で診療。

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