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Do. 22. Okt. 2020

コロナデモと議事堂突入未遂の衝撃

8月29日の土曜日にメルケル政権のコロナ対策に反対する人々約3万人から4万人が、ベルリンの中心部でデモを繰り広げた。この時、ベルリンから衝撃的な映像が世界中に流れた。連邦議会議事堂(ライヒスターク)の正面階段に、黒・白・赤の旗を持った極右勢力のメンバーら数百人が押し寄せたのだ。

8月29日、ベルリンのブランデンブルク門の前で帝国旗を掲げる人々8月29日、ベルリンのブランデンブルク門の前で帝国旗を掲げる人々

議会前で「帝国旗」を振りかざす

彼らは警察が設置していた防護柵を乗り越え、一部は議事堂の中になだれ込もうとした。だが議事堂を警備していた3人の警察官たちが、入り口の前に立ちはだかり、多数の暴徒が建物に侵入するのをかろうじて食い止めた。やがて応援の警官隊が現場に駆け付け、デモ隊は議事堂の前から解散させられた。

当時ベルリンの中心部では、コロナ政策反対デモのために多数の市民が集まり、警察官たちが警戒・規制措置で大わらわだった。極右勢力はその最中に、虚を突くようにして議事堂を「襲った」のだ。

この時に極右勢力のメンバーたちが持っていた黒・白・赤の旗は、1871~1919年までドイツ帝国の国旗として使われていたため、「ライヒスフラッゲ(帝国旗)」と呼ばれる。ナチスも1933年から2年間にわたり、この旗に鉄十字章を配した「帝国戦争旗」を一時的に使ったことがある。第二次世界大戦中に戦功があった兵士に授与された鉄十字章のリボンには、この三つの色が使われていた。

現在、鉤十字(ハーケンクロイツ)とは違って、帝国旗を公衆の面前で掲げることは法律で禁止されていない。このためネオナチらはデモの時にしばしば帝国旗を掲げる。いわばドイツの極右にとっては、鉤十字の旗の「代用品」。この旗を公衆の面前で掲げる人々は、極右かそれに近い思想の持ち主と考えるべきだ。

民主主義への攻撃

連邦議会議事堂はドイツの議会制民主主義と政治の中心だ。この建物は、1933年のナチスによる放火、1945年のソ連軍による占拠、1961年のベルリンの壁建設、1990年のドイツ再統一などの事件を目撃してきた「ドイツ現代史の証人」でもある。その前でネオナチが帝国旗を掲げ、不法侵入を試みる……。この行為は多くの人の目に「民主主義への挑戦」と映った。

ドイツの政治家たちは、強い言葉で今回の事件を糾弾している。シュタインマイヤー大統領(社会民主党・SPD)は「極右勢力が連邦議会議事堂の前で帝国旗を振るという騒擾(そうじょう)は、われわれの民主主義の心臓部への耐えがたい攻撃だ」と批判。大統領は「政府のコロナ対策について怒り、その必要性を疑う者は、公に抗議したりデモを行ったりする権利がある。しかしデモ参加者が、民主主義を敵視する政治的な扇動者の先棒を担ぐことは、断じて許されない」と述べた。彼はデモに極右勢力が混ざっているのを、デモの主催者や参加者らが黙認することに警鐘を鳴らしているのだ。

連邦議会のショイブレ議長(キリスト教民主同盟・CDU)も、「暴力的な少数派が議事堂への乱入を試みるという行為は、全ての国民に対する攻撃だ。デモが極右勢力に悪用されるのを見過ごすことは、無責任だ」と指摘。彼は「ドイツの憲法(基本法)は、連帯の精神を欠いた少数意見をも守る。さらにデモを行う権利は、重要な市民権の一つだ。しかし発言やデモの自由にも、限界がある。政府が定めた規則に反したり、議事堂に突入を試みて、警察官に挑戦する行為は、市民に許される境界線を越えるものだ」と述べている。

ベルリンの警察当局は「過去のデモの例から、マスク着用や1.5メートルの最低距離などの規則が守られない可能性が強い」として、今回のコロナ対策抗議デモを禁止しようとした。だがベルリン行政裁判所は、「デモの主催者は政府が定めた規則を守れば、実施できる」として禁止措置を差し止めた。蓋を開けてみると、多くの参加者は抗議の意を示すために、わざとマスクを着けず、最低距離も取らなかった。

大半のドイツ市民はコロナ対策を許容

デモの映像はメディアによって拡散されるので注目されるが、ドイツ人の大半はメルケル政権のコロナ対策を必要だと考えている。Yougovが8月7~10日に実施したアンケートによると、「メルケル政権のコロナ対策はやり過ぎだ」と答えた回答者は約10%にすぎなかった。また、「新型コロナウイルスは危険ではない」と答えた人は3%、「コロナ対策の裏には、別の政治的な目的を達成しようとする勢力の意図がある」という陰謀論者は7%だった。

極右勢力は、声高なコロナ政策反対者の抗議行動を利用して、政府への反感を強めようとしている。極右政党・ドイツのための選択肢(AfD)が、2015年のメルケル政権の難民受け入れを利用して市民の不満を煽り、支持率を飛躍的に高めたことと似た点がある。

救済策の強化を!

新型コロナウイルスは、世界全体で経済活動を鈍化させ、第二次世界大戦後最も深刻な不況を引き起こしている。飲食店、ホテル、小売店、旅行業界、イベント業界などで倒産や失業の危機に曝されている市民の数は少なくない。今後コロナ危機は、社会の格差を拡大していくだろう。失業禍が今後深刻化し、困窮する市民の数が増えた場合、難民危機の時と同じように右派ポピュリストへの支持が高まる可能性もある。

ドイツ政府は、社会の安定を維持するためにも、パンデミックによって苦しい生活を強いられる人々のための救いの手をさらに充実させる必要がある。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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