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Mo. 20. Feb. 2017

難民急増でドイツが直面する試練

9月5日にメルケル首相(キリスト教民主同盟=CDU)が、ハンガリーで足止めされていたシリア難民らをドイツで亡命申請をさせるという、歴史的な発表を行ってから約1カ月が過ぎた。この決定については、「欧州の良心」を体現するとして世界中の人が称賛した。

難民
ミュンヘン中央駅に到着した難民たち(筆者撮影)

悲鳴を上げる市町村

だが現在、ドイツの保守勢力や市民の間では懸念の声が高まりつつある。ドイツ連邦移民難民局(BAMF)によると、今年1~7月までにドイツで亡命申請をした外国人の数は、約22万人。前年同期の2倍を超える数だ。9月中旬にドイツ政府は、同国で亡命を申請する難民の数が今年末までに100万人に達するという見方を示した。昨年(20万2834人)の約5倍だ。

ドイツ国内で最も大きな負担を強いられているのは、各市町村である。メルケルは、9月5日の難民受け入れについての決定を、全国の州政府に事前に連絡せずに発表した。そのため州政府や市町村は、時には24時間以内に難民の宿泊場所を見つけなければならなかった。州政府からは、「もはや対応しきれない」という声が連邦政府に寄せられた。

保守勢力からは、にわかにメルケル批判が高まった。キリスト教社会同盟(CSU)のゼーホーファー党首は、「多数の難民をノーチェックで受け入れるという決定は間違っている。この決定はドイツの将来に悪影響を及ぼす」と述べ、メルケルを公に批判した。

バイエルン州の農村部では、州政府から突然多数の難民の受け入れを命じられたことについて、不満や当惑が広がっている。

国内での批判に応えてメルケル政権は9月13日、オーストリアから入国する外国人に対して国境検査を始めた。ただし、難民の受け入れを停止したわけではない。オーストリアからドイツに入って、亡命の意思表示をした外国人は、国境付近で難民として登録され、ミュンヘンには行かずに、他都市の宿泊施設に送られる。国境検査は、あくまで難民流入の速度にブレーキをかけ、地方自治体の負担を減らすための措置だ。

メルケルはCSUの批判に対し、「現在は緊急事態。困っている人々に援助の手を差し伸べたことについて、私が謝罪しなくてはならないとしたら、ドイツは私の国ではない」と、珍しく感情を露にして反論した。メルケルは「私は何度でも言う。ドイツは多数の難民が入って来ても十分に対応できる」と強調した。

亡命審査期間の短縮を目指す

とはいえ、ドイツは大きな試練に直面している。BAMFが1人の亡命申請者を審査するのに要す時間は、約5カ月。このため、処理されていない亡命申請の数は約25万件に上る。対応する審査官の数は550人に過ぎず、BAMFはこの数を今年末までに1000人に増やすとしているが、焼け石に水という感じがする。

重要なことは、シリアなどの紛争国から逃げてきた難民以外の、いわゆる「経済難民」を早急に祖国へ帰還させることだ。今年1~8月までにドイツで亡命を申請した約23万人のうち、38.1%は戦争が起きていないバルカン半島の国々の市民だった。これはシリア人の比率(22.9%)を上回る。バルカン半島の国々では景気が悪く失業者が増加しているため、ドイツへの移住を希望する人が増えている。スイスでは、紛争国以外の国から来た亡命申請者は、48時間以内に送還される。このためスイスでの亡命申請者はドイツよりもはるかに少ない。

社会への統合と自立が鍵

また、多数の難民に言語を習得させて、一刻も早く社会に溶け込ませ、経済的に自立させるという大きな課題もある。西ドイツは1950~60年代に労働力不足を補うため、トルコから多数の労働移民を受け入れた。しかし、ドイツ語の習得義務を課さなかったために社会に溶け込まず、この国に住み始めて30年以上経っても、ドイツ語を話せないというトルコ人は珍しくない。ベルリンなどには、ドイツ人と関わりを持ちたがらないトルコ人がコミュニティーを作る「二重社会」が生まれている。ドイツは、今回入国する難民たちについては、この失敗を避けなくてはならない。

ナーレス連邦労働相は、「シリア難民のうち、直ちにドイツで働ける資格を持つ者は、10%に満たない」と悲観的な見方を打ち出している。行政側は、難民たちに原則としてドイツ語を7カ月受講させるが、企業などで働くのに必要なドイツ語を身に付けるには、不十分だ。

中東情勢の安定化が不可欠

9月22日に欧州連合(EU)加盟国の内務相たちは、12万人の難民を28の加盟国に割り当てることを決定した。割り当ては、各国のGDPや失業率などを勘案した比率に基づいて行われる。今年8月の時点では、EU全体の亡命申請者の約40%をドイツ1国で受け入れていた。EU内相会議が行った決定は、この偏りを是正するための第一歩である。

だが、難民危機の解決にとって最も重要なシリアでの内戦終結の兆しは見えない。ドイツのフォン・デア・ライエン防衛相は、「外交手段による解決が不可能な場合、ドイツは軍事貢献も行う」という姿勢を打ち出した。欧米諸国は、内戦に終止符を打つために、ISに対する空爆だけでなく地上部隊の投入にも踏み切るだろうか。難民危機を根本的に解決するには、中東地域の安定化が不可欠である。

2 Oktober 2015 Nr.1011

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
Toru Kumagai Official Website : http://www.tkumagai.de/
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