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ドイツのアフガン撤退はいつか

7月20日にカブールで開かれたアフガニスタン国際会議で、同国のカルザイ大統領は「2014年までに、自国の軍隊と警察を強化し、欧米の力を借りずに治安を守れるようにする」と約束した。欧米の駐留軍は、来年にはアフガンの一部の州から撤退を始める。NATO(北大西洋条約機構)は、今年秋にリスボンで開かれる会議で詳細を決める予定だ。

ドイツでは国民の約7割が、連邦軍のアフガン戦争参加に批判的な意見を持っている。このためカブールでの合意内容は、撤退の方向性を示すものとして市民やマスコミから歓迎されているだろう。

しかしアフガンの現実は、はるかに厳しい。つい最近、グッテンベルク国防大臣はアフガンの最前線で戦うドイツ兵たちを激励するために、防弾チョッキに身を固め、ヘリコプターで初めて戦闘地域を訪れようとしたが、タリバン・ゲリラの攻勢が激しかったために、訪問をあきらめて引き返さざるを得なかった。

また、アフガン会議に出席した国連の事務総長とスウェーデンの外務大臣は、タリバン・ゲリラのテロ攻撃に対する懸念から、カブール空港ではなく米軍のバグラム空軍基地に着陸し、そこで数時間待機しなくてはならなかった。

アフガンに駐留する国際部隊ISAFの最高司令官スタンリー・マクリスタル将軍が、今年6月末にオバマ大統領によって事実上更迭されたことも悪いニュースだ。マクリスタル将軍は、オバマ氏ら米国政府の指導層がアフガン問題を重視していないことについての不満を雑誌記者にぶちまけたため引責辞任した。

マクリスタル将軍は、米国の新しいアフガン政策を体現する人物だった。彼はアフガン市民の駐留部隊への支持や信頼感を得るために、市民を巻き込む恐れのある空爆を極力禁じた。そして欧米軍の兵士に対して基地に閉じこもるのではなく、なるべくアフガン軍の兵士とともにパトロールを行うことを求めた。基地の外で存在感を高めることによって、タリバン・ゲリラの影響力を減らし、治安を回復させるためである。これは米軍がイラクで行った手法で、治安回復に大きな効果を発揮した。その結果、現在では米軍の戦闘部隊の大部分がイラクから撤退している。マクリスタル氏の更迭は、米国政府内でアフガン政策をめぐる不協和音がいかに強いかを浮き彫りにした。彼の上官であるペトレウス将軍を後釜に据えたことも、米国の危機感を表している。

アフガニスタンは、イラク以上に外国勢力に対する反感が強い国だ。カルザイ氏が言うように、アフガン政府は4年間で独り立ちできるのだろうか。カルザイ大統領自身、選挙に勝つために得票数を操作したことがあり、クリーンな男ではない。彼の親族には、麻薬取引の疑いがある人物もいる。ほかに人材がいないので欧米諸国が腐敗した政治家を支援するということも、本来は欧米の大義にもとる行為だ。この点はしばしば、うやむやにされているが、いつかそのツケが欧米諸国に回ってくるのではないだろうか。

メルケル政権は、来年には「連邦軍がいつ撤退を始められるか」のめどを付けたいとしているが、アフガンの現実は楽観を許さない。パキスタンの過激派勢力から支援を受けているタリバン・ゲリラの戦術は高度になる一方であり、ISAF軍にさらに出血を強いるだろう。カブールでの合意内容に含まれた前向きな文言とは裏腹に、アフガン情勢には今後も様々な紆余曲折(うよきょくせつ)があるに違いない。

30 Juli 2010 Nr. 827

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
www.facebook.com/toru.kumagai.92
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