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ドイツはアフガンで戦うべきか

メルケル政権にとって、やっかいな外交問題が持ち上がった。きっかけは、米国のゲーツ国防長官が、ドイツのユング国防相に送った手紙である。

米国はドイツに対して、アフガニスタンに派遣している兵力を増強して、パキスタン国境に接する南部地域でも活動するように求めた。現在ドイツは、アフガン北部に約3000人の将兵を駐留させている。連邦議会が派兵を認めたのは、北部が南部に比べて安全で、ドイツ兵が戦闘に巻き込まれる危険が少ないからである。それでもすでに30人近いドイツ兵が、自爆テロなどによって死亡している。

これに対し南部地域では、タリバンの抵抗勢力が活発になりつつあるため、米国、英国、カナダの部隊は激しい戦闘を展開しており、戦死者の数も増えつつある。このためNATO(北大西洋条約機構)のリーダーである米国は、ドイツに対して「南部にも兵を派遣してほしい」と要請しているのだ。さらに、現在はノルウェーが担当している緊急反応部隊(QRF)を、ドイツに担当してほしいという要請も出ている。QRFは、人数の少ないNATO部隊が突然敵襲を受けたときなどに応援に駆けつける機動性の高い部隊で、ドイツがQRFを担当すれば、タリバンと銃火を交える局面が増えることは間違いない。

メルケル首相は、NATOと米国の要求を拒絶している。ドイツ軍がアフガンにいる理由は、復興支援やNGO(非政府機関)保護などの任務のためであり、タリバンとの戦闘のためではないというのが政府の主張である。第二次世界大戦後、旧西ドイツは話し合いによる国際紛争の解決を重視し、軍事介入には消極的な姿勢を貫いてきた。国民の支持も減る一方だ。ある世論調査によると、6年前には回答者の51%がドイツ軍のアフガン駐留を支持していたが、現在では29%に急落している。来年には連邦議会選挙が迫っており、大連立政権としては、アフガンで危険な任務を担当して戦死者が増える事態は、何としても避けたいところだ。

だが、ドイツは同時に、NATOの結束にも配慮しなくてはならない。多くの戦死者を出しているカナダ政府は、他の国が南部地域での戦闘に加わらない場合、2500人の戦闘部隊を来年で撤退させることも示唆している。NATOのアフガン作戦が失敗に終わった場合、他の国々は「ドイツの利己主義のために、NATOの結束が崩れた」として、メルケル首相に責任を押しつけようとするだろう。NATOは、「タリバンがアフガンで政権を奪った場合、この国が再びアルカイダの出撃拠点として悪用される危険がある。そのときは、9月11日事件のような大規模テロが繰り返される恐れがある」と考えている。米国や英国がタリバンと戦っているのはそのためだ。

だが同時多発テロから6年経ち、その記憶は薄れつつある。各国の国民の間で、「なぜアフガンで若者が死ななくてはならないのか?」という疑問の声が強まることは避けられない。メルケル政権は、国内政治と安全保障の間で、難しい綱渡りを迫られている。

15 Februar 2008 Nr. 701

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
www.facebook.com/toru.kumagai.92
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