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ロンドンのゲストハウス
Do. 21. Nov. 2019

2012年をドイツから展望する

新しい年が明けた。多くの人々が昨年を振り返って、「2012年はもっと良い年になって欲しい」と願っているに違いない。

失われた信頼の回復を

2011年は、日本が第2次世界大戦以来、最も深刻な危機を経験した年だった。巨大地震、大津波、原子炉事故という三重苦が突然日本を襲い、日独修好150周年を祝うべき年に黒い影を落とした。

被災地の復興は、まだ本格的に始まってはいない。震災から9カ月以上が経った今も、33万人を超える人々が避難生活を余儀なくされている。

福島第1原発で発生した大事故は、4基の原子炉が重大な損害を受けて大量の放射性物質が環境にばらまかれるという、世界で初の事故である。福島の原発事故は、「日本では重大な原子炉事故は起こり得ない」という「安全神話」を打ち崩した。この事故によって、政府や電力会社が高さ15メートルの津波を想定せず、非常電源が完全に失われて原子炉が空焚きになる事態を全く考えていなかったことが明らかになった。

かつてドイツを始めとして世界各国は、日本に対して「技術大国」という信頼を寄せていたが、粉々になった原子炉建屋の映像によって、この信頼感は失われた。事故から時が経つにつれて、米や野菜、牛肉や魚介類だけでなく、粉ミルクまで放射性物質で汚染されていたことが明らかになった。チェルノブイリ原発事故の経験から、放射性ヨウ素やセシウムの人体への影響が現れるのは、数年経った後であることがわかっている。2012年は、日本について失われた信頼を回復するための第一歩を記す年だが、その道程は長く険しい。

ドイツ人の連帯に感謝する

ドイツのマスコミが東日本大震災と福島原発事故について行ったセンセーショナルな報道に、衝撃を受けた日本人は多い。そこから日独の国民性の違いを改めて痛感した人も少なくない。だが、ドイツ各地の友好団体や個人が、多額の義捐金を集めて日本に送ってくれたことも、我々は忘れてはならない。多くの親日家が、被災地からの映像を見て心を痛め、日本に対する連帯感を示してくれた。我々日本人は、この「財産」を大切に守っていかなければならない。

ユーロ危機という「炉心溶融」

だがドイツ、そしてヨーロッパも現在、深刻な事態に陥っている。メルケル首相は、ユーロ圏の公的債務危機を、「第2次世界大戦以来、ヨーロッパを襲った最も深刻な事態」と呼んだ。ギリシャの債務危機が表面化してから3年目になるが、EUは緊急融資などの対症療法に追われるばかりで、債務危機の病根を切除することに成功していない。

すでにポルトガルとアイルランドがEUに支援を要請したほか、危機はスペインやイタリアにも広がる様相を見せている。私は20年前から欧州通貨同盟について取材してきたが、まさかユーロ圏がサラ金の多重債務者のような国によって崩壊の瀬戸際に追い込まれるとは、予想できなかった。

また2011年には、金融業界を仰天させる事態が起きた。EUは、ギリシャの国債に民間の投資家が投資した元本の50%について、ギリシャ政府は返済しなくて良いという決定を行なったのである。ギリシャは、借金の半分を踏み倒すことを公に認められたのだ。かつて国債は、安全な投資手段と見られていた。政府は紙幣を新しく印刷してでも、借金を返すと信じられていたからだ。

だがギリシャの借金の半分が帳消しになったことは、この常識を打ち崩した。民間の投資家たちにとっては、想定外の事態である。ギリシャの借金踏み倒しによって、今後ヨーロッパの国債を買う投資家は大幅に減るだろう。各国政府にとっては、これまで以上に借金による資金調達が難しくなる。今年ユーロ圏加盟国が返済を迫られる借金と利子は85兆円を超えるが、前途は多難である。

EU諸国は、12月の首脳会議で、ユーロ圏加盟国を中心として財政規律を強化するための条約を締結することを決めた。これはメルケル首相が求めていた「財政同盟」、そして政治統合の強化への重要な一歩である。本来は20年前に行われるべきだった政治統合の強化が、今ようやく始まろうとしているのだ。あまりにも遅いスタートではあるが、方向性は正しい。

今年は、ユーロが救済されるかどうか、一部の国がユーロ圏を脱退しなくてはならなくなるかどうかを見極める上で、重要な年になるだろう。

極右テロの徹底解明を!

昨年は、ドイツ国内でも暗いニュースが多かった。ネオナチ組織NSUが過去10年間に全国でトルコ人やギリシャ人ら10人を射殺し、爆弾テロや銀行強盗を繰り返していたことは、我々日本人にとっても衝撃的な出来事である。極右が組織的なテロを繰り返していたことに、捜査当局が全く気付かなかったというのは、大きな不祥事である。1992年に極右が外国人を多数殺傷した時に比べて、ドイツ社会の反応が鈍いのも気になる。当時は今よりも多くのドイツ人が、外国人への連帯を表明した。今回は、非常に静かだ。捜査当局は汚名を返上するために、事件を徹底的に解明して再発を防いで欲しい。

筆者より読者の皆様へ
新年明けましておめでとうございます。今年も頑張って書きますので、よろしくお願い申し上げます。

6 Januar 2012 Nr. 900

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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