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Di. 18. Sep. 2018

なぜドイツはナチスの犯罪を心に刻むのか

1月30日、ドイツ連邦議会でユダヤ人など、ナチスの暴力支配の犠牲者を追悼する式典が行われた。この催しは、アウシュヴィッツ強制収容所がソ連軍によって解放された1月27日前後に毎年行われている。今年の式典は、ヒトラーが政権を取った1933年1月30日からちょうど80年目に当たる日に行なわれた。

「国民にも責任の一端」

連邦議会のノルベルト・ランメルト議長は、「ナチスによる政権獲得は、Betriebsunfall(事故)ではなかった。これは偶然に起きたものでも、避けられないものでもなかった」と述べた。

ヒトラーという犯罪者が最高権力を握ったのは、クーデターによるものではない。国民が選挙という民主的な手段で彼の政党を選び、当時大統領だったヒンデンブルクが正式に権力を与えたのだ。ヒトラーは権力を握るや否や、社会民主党や共産党などの野党を禁止し、ユダヤ人に対する迫害を始めた。

ドイツ国民が自ら選んだ政治家が、民主政治の息の根を止めて人権侵害に乗り出したのだ。12年間の暴力支配と第2次世界大戦の終着駅が、約600万人のユダヤ人の抹殺(ホロコースト)だった。

史上例のない犯罪

歴史上、大量虐殺は世界各地で、様々な民族によって行われてきた。しかし工場のような施設を建て、流れ作業を行うようにして、罪のない市民を数百万人単位で殺した民族は、ドイツ人以外にいない。ユダヤ人殺害を専門に行っていた親衛隊の「特務部隊(Einsatzgruppe)」の報告書を見ると、彼らが毎日殺したユダヤ人の数を細かく記録して「戦果」をベルリンの本部に伝えていたことがわかる。人間性のかけらもない。ランメルト議長は、「ヒトラーは、偶然権力を取ったのではない。彼を選んだドイツ国民にも、責任がある」と訴えているのだ。現在のような民主社会、法治国家は空気のようなものではなく、意識して守らなくてはならないものだというメッセージである。

過去と批判的に対決

私は、23年間ドイツに住んで、この国の社会や人々について批判したいことも山々ある。しかしドイツ政府が第2次世界大戦の終結から70年近く経った今も、毎年ナチスの犯罪を心に刻む式典を催していることには、敬意を表する。さらにこの国が若者たちに歴史教育の中でドイツ人が犯した犯罪について詳しく教えていること、ナチスの殺人については時効を廃止して、司法当局が今なお強制収容所の看守らを追及していることを、高く評価する。

マスメディアや出版業界も、ナチスの問題を繰り返し取り上げている。今年はスターリングラードでドイツ第6軍が壊滅してから、70年目に当たる。ドイツのテレビでこの戦闘の記録フィルムをご覧になった方も多いだろう。ドイツが欧州連合(EU)の中で指導的な立場にあり、周辺諸国から信頼されている背景には、ドイツ人が続けてきた「自己批判」と「謝罪」の努力がある。ドイツの首相や大統領は、イスラエルへ行くたびに必ず慰霊施設を訪れ、謝罪の言葉を述べる。

ナチズムの犠牲者の広場
ミュンヘンにある「Platz der Opfer des Nationalsozialismus
(ナチズムの犠牲者の広場)」

ネオナチは生きている

ドイツには、数は少ないものの、今なおナチスの思想を継承する者たちがいる。例えば極右政党NPDは、すべての外国人をドイツの社会保障制度から締め出し、雇用を制限することを綱領の中で要求している。旧東独のメクレンブルク=フォアポンメルン州の一部の地域では、市民の4人に1人がNPDを支持している。NPDは同州の州議会で議席を持っているので、ほかの主要政党同様、政府から交付金を受けている。外国人排斥を求める政党が、我々の税金によって援助されているのだ。噴飯物である。

ネオナチは武装し、テロリストとして地下に潜行しつつある。テロ組織「国家社会主義地下活動(NSU)」は、ドイツ全国でトルコ人やギリシャ人など10人を射殺したが、警察は10年間にわたって外国人同士の抗争と思い込み、極右によるテロであることを見抜けなかった。外国人を憎む勢力は、死に絶えていない。

ナチスの過去は現代の問題

NPDやNSUの問題は、ナチスの問題が決して過去の出来事ではなく、今なおドイツ社会に影を落としていることを物語っている。イスラエルやポーランドなど、ナチスの被害を受けた国々は、ドイツの一挙手一投足を常に見守っている。ドイツがナチスの蛮行を心に刻もうとするのは、そのためである。彼らの反省は、主に道徳的な理由によるものだが、それだけではない。貿易立国ドイツにとって、過去と対決することは、歴史から決して消えることのない犯罪を犯した国が生き残る「処世術」でもあるのだ。

アジアの緊張を憂える

わが祖国日本の状況はどうだろうか。東アジアでは、日本と中国、韓国との間で領土問題をめぐる緊張が高まり、貿易にまで悪影響が出ている。その根底には、歴史問題がある。もちろん地政学的な理由から、日本とドイツの状況を単純に比較することはできない。しかし、周辺諸国との間で良好な関係を築いているのは、ドイツと日本のどちらだろうか。ナショナリズムは、最終的にはすべての国の市民を不幸にする。欧州の20世紀の歴史は、そのことをはっきりと示している。

15 Februar 2013 Nr.948

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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