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ロンドンのゲストハウス
Do. 21. Nov. 2019

戦後70年目に平和を願う 2015年のドイツを展望する

花火や爆竹の音、火薬の匂いとともに、新しい年が始まった。とっぴな連想と思われるかもしれないが、私はこの音を聞くと、1910~40年代に掛けて欧州を覆った戦争の嵐を思い出す。中東やアフリカ、ウクライナでは動乱が続き、死傷者が増加している。今年は、第2次世界大戦の終結から70年目に当たる区切りの年。「穏やかな年であってほしい」と、祈らずにはいられない。

戦後70年目に平和を願う

ウクライナ危機の解決を!

2015年、ドイツと欧州連合(EU)にとって最も重要な外交的課題は、ウクライナ危機の解決の糸口をどのようにして見付けるかだ。

昨年はウクライナで政変が起き、ロシア寄りの大統領が失脚してEU寄りの政権が誕生。これを「西側の陰謀」と考えたロシアのプーチン大統領が激しく反応し、クリミア半島に軍を派遣して占領し、併合に踏み切った。彼は昨年12月に、「エルサレムの神殿の丘がユダヤ教徒とイスラム教徒にとって聖地であるように、クリミア半島はロシア人にとっての聖地」と発言。これまでEUと北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大を屈辱と感じていたロシア人のナショナリズムに訴え掛けた。クリミア併合以来、プーチンへの国民の支持率は高まっている。プーチンは、ロシア系住民が多いウクライナ東部での内戦にも介入し、分離独立を画策している。

これらの事件は、1989年のベルリンの壁崩壊以来、最悪の国際法違反である。欧州大陸で死滅したと思われていた帝国主義は、25年間の冬眠から覚めたのだ。メルケル首相は早い段階で、「軍事力は使わない」と宣言してしまったが、プーチンは戦闘部隊をクリミア半島やウクライナ東部へ送っている。これでは、素手で重武装の暴漢と戦うようなものだ。ゴルバチョフ(ソビエト連邦最後の最高指導者)が昨年、ベルリンで述べたように、欧州に新たな東西冷戦が迫っている。

ウクライナ危機は、領土・軍事問題だけでなく、エネルギー政策にも絡む「火薬庫」だ。一刻も早い歩み寄りを望みたいところだが、ロシアとEUの主張は真っ向から対立しており、解決は容易ではない。安全保障問題を担当する専門家の間でも、ウクライナ危機が長期化するという見方が強い。

欧州版「失われた10年」との戦い

さて、2015年のドイツおよびEU経済にとっての最重要課題は、欧州全体に広がるデフレ傾向に、いかにして歯止めを掛けるかだ。ドイツを除く多くの欧州諸国は、今なおユーロ危機後の不況の影響に苦しんでいる。南欧諸国を中心に失業率が高まり、個人の債務も増えたため、多くの市民が消費を避け、企業は投資を控えている。このため経済活動が停滞して、物価上昇率が低迷しているのだ。

欧州連合統計局によると、2013年12月には0.8%だったユーロ圏の物価上昇率は、2014年9月には0.3%に落ち込んだ。比較的景気の良いドイツですら1%台を割り、イタリアでは物価上昇率が一時マイナスになった。

国際通貨基金(IMF)は、2014年7月に発表した世界経済見通し(WEO)の中で、2015年のユーロ圏の経済成長率を1.5%と予想していた。しかし、わずか3カ月後にその予想値を1.3%に修正した。これは米国の予想成長率(3.1%)の半分以下だ。

EU経済を引っ張る機関車役のドイツでも、景気の先行きに警戒信号が点っている。メルケル政権は2014年10月、2015年の予想経済成長率を2.0%から1.3%に大きく引き下げた。

欧州の経済学者の中には、「ユーロ圏はバブル崩壊後の日本と同じようにデフレに突入し、“失われた10年”を経験する可能性がある」と主張する者も現れている。確かに、1990年代の日本と現在のユーロ圏には、いくつか似た点がある。例えば欧州中央銀行(ECB)の政策金利は、0.05%という戦後最低の水準にあるが、これは90年代以降の日本を連想させる。

ECB、国債買取か

ECBのマリオ・ドラギ総裁は今年前半、ついに「伝家の宝刀」を抜くと予想されている。ドラギ氏は2012年に、「ユーロを防衛するためには、南欧諸国の国債を無制限に買い取る用意がある」と宣言したが、ECBは今年、デフレ傾向に歯止めを掛けるために国債の買取に踏み切る可能性が強い。市場では、ECBが1兆ユーロ(約140兆円)を超える資金を投入すると見ている。米国では不況脱却の兆しが見え始め、国債買取による量的緩和(QE)を終えようとしているのに対し、ユーロ圏は逆にQEを始めるのだ。

しかし、市場に大量のおカネを注入しても、南欧諸国が経済競争力を強化して、成長率を高めなくては、不況から真に脱却することはできない。ドイツ以外の国々にも、成長戦略を打ち立てて実行に移すことが求められている。

ドイツは今年、46年ぶりに財政均衡を達成し、国債の新規発行がゼロになることが予想されている。財政均衡が実現すれば、「政府が借金をしなくても、経済成長は可能だ」というメッセージを全世界に送ることができる。これは快挙だ。しかし、ドイツはEUの中の一国にすぎない。財政健全化の努力をユーロ圏全体にも広げなくては、せっかくの快挙も焼け石に水である。

その意味で2015年は、ドイツに欧州全体の成長を後押しする政策が求められる年になるだろう。

読者の皆様へ
2014年は大変お世話になりました。
今年もよろしくお願い申し上げます。

9 Januar 2015 Nr.993

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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