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ロンドンのゲストハウス
Mi. 20. Nov. 2019

パリ同時多発テロと欧州の暗雲

2015年は悲しいことに、欧州でテロの嵐が吹き荒れる年となってしまった。11月13日の金曜日の夜、パリでテロ組織「イスラム国(IS)」が約130人の市民を殺害した事件は、フランスだけでなく世界全体に強い衝撃を与えた。

無差別攻撃へとエスカレート

パリでは1月にも、イスラム過激派のテロリストが風刺新聞「シャルリ・エブド」の編集部とユダヤ系スーパーマーケットを襲撃し、17人を殺害した。だが今回のテロ事件は、1月の事件と大きく質が異なる。

11・13事件で犠牲になった人々は、予言者ムハンマドを風刺するなどしてイスラム教徒を憤慨させたわけではない。テロリストたちは完全に無差別に、市民たちに向けて自動小銃を乱射した。彼らにとって、殺す相手は誰でも良かったのだ。一人でも多くのパリ市民や観光客を殺すことによって、社会に恐怖感を与えることが最大の目的だった。

8人のテロリストが3つの班に分かれて、ほぼ同じ時刻に攻撃を開始するという、長期間にわたって周到に準備された犯行だった。彼らは、フランスで初めて自爆ベストを使って自決した。自爆ベストの製作や調達には時間がかかる。これも、テロ組織による計画的な犯行であることを示している。

フランスは今年9月から、シリアにあるISの拠点に対して空爆を行っていた。ISは、そのフランスの空爆に対し、11・13事件で、パリ市民という「ソフト・ターゲット」に銃弾を浴びせることで報復したのだ。

1月のテロ事件の直後には、数百万人の市民がパリの路上を埋めてデモ行進を行い、外国の首脳たちもパリに駆けつけてフランスへの連帯を示した。

レピュブリック広場
パリ同時テロから1週間後のレピュブリック広場。

オランドは「戦争行為」と断定

だが今回の事態は、はるかに深刻である。そのことはオランド仏大統領が、この攻撃を「戦争行為」と断定して、非常事態を宣言したことに表れている。非常事態宣言によって、集会の自由が制限されたほか、警察は裁判所の令状なしに家宅捜索を行うことができるようになった。欧州の雰囲気は、2001年9月11日にニューヨークとワシントンDCで同時多発テロが起きたときの米国に似ている。今、フランス人たちは、「シャルリ・エブド」事件のときよりも深い悲しみに沈み、テロリストたちに対する強い怒りを抱いている。

オランドは、武力によってテロ組織と対決する道を選んだ。フランスは空母「シャルル・ドゴール」を地中海に移動させ、ISの拠点への空爆回数を増加させた。だが、アフガニスタンの例を見れば分かるように、テロ組織を空爆だけで壊滅させることは不可能であり、地上部隊の投入が不可欠である。このためオランドは、欧州連合(EU)のリスボン条約に基づき、「フランスは軍事攻撃を受けたので、他の加盟国はフランスを軍事的に支援してほしい」と要請。英国は、フランスの空爆を支援する姿勢を表明した。オランドは米国のオバマ大統領、ドイツのメルケル首相とも次々に会談し、支援を求めた。

だがメルケルは、「軍事的な手段によってテロの問題を解決することはできない」として、直接的な軍事支援には難色を示している。同国は、フランスが3000人の兵士を送っているマリにドイツ連邦軍を派遣し、フランス軍の負担を一部肩代わりすることを提案している。アフガニスタンとイラクでの戦争に疲弊した米国も、地上軍の派遣には消極的である。

武力だけではテロ問題は解決できない

フランスでは、極右政党「フロン・ナショナール(国民戦線=FN)」が近年、支持率を増やしている。再来年に大統領選挙を控えたオランドは、同国史上最悪のテロ事件で軟弱な姿勢を見せた場合、FNに多くの有権者を奪われる可能性がある。したがって、彼は米国のブッシュ前大統領が見せたような、「テロと闘う強い指導者」という顔を見せているのだ。

だがフランスの軍事攻撃は、ISの思うつぼである。ISは、欧州諸国をシリア内戦に引きずり込むことによって、「欧州人は中東でイスラム教徒を殺している」というプロパガンダを行い、自分たちの組織の戦闘員をさらに増やすことを目指している。

フランスが抱えるもう一つの大きな問題は、すでに約1万人の過激勢力が国内に住んでいることだ。彼らの大半は、アルジェリアやモロッコなどからの移民の子どもたちであり、フランス国籍を持つ。11・13事件の犯人たちの多くも、フランスかベルギーの国籍を持つイスラム教徒の子どもたちだった。インターネットやイスラム教の礼拝所で過激派の思想に感化され、シリアへ渡って戦闘訓練を受けて、フランスやベルギーに戻ってくる者もいる。つまりISは、すでにフランスやベルギーに多数のエージェントを潜伏させているのだ。フランス政府は、国内の差別問題、移民の多いバンリュー(郊外)と白人の多い地域が分離してしまっている問題(二重社会)について解答を出さない限り、「ホーム・メード・テロリスト」の問題を根本的に解決することはできない。

ドイツでも今年は、約100万人の難民が流入し、外国人の数が急増する。大半の難民は、戦火を逃れてきた善良な市民である。しかし将来、ドイツ社会に失望して過激思想に感化される者が現れるかもしれない。ISが、難民の中に戦闘員を紛れ込ませている可能性もある。ドイツにとっても、フランスの苦境は対岸の火事ではない。

4 Dezember 2015 Nr.1015

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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