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ロンドンのゲストハウス
Fr. 15. Nov. 2019

対テロ戦争に突入するドイツ

不吉な戦争の鼓動が鳴り始めた。街角を彩るクリスマスの装飾とは対照的に、欧州は沈鬱な空気に覆われている。

軍事攻撃を間接支援へ

メルケル政権は、テロ組織イスラム国(IS)を攻撃するフランスなどによる有志国連合を軍事的に支援することを決定し、ドイツ連邦議会も12月4日にこの提案を承認した。ドイツ連邦軍は、シリアやイラクのISの拠点に対する空爆には直接参加しないが、トルナード電子偵察機6機や軍事衛星によって、地上の状況をリアルタイムでフランスや英国の戦闘部隊に伝達する。また、空中給油機によって有志国連合軍の戦闘機に燃料を補給し、航続距離を延長する。さらに、シリア沖に展開するフランス海軍の空母「シャルル・ド・ゴール」をISのテロ攻撃から警護するために、フリゲート艦「アウグスブルク」を地中海に派遣する。

ドイツ連邦軍
ドイツ連邦軍は、監視偵察任務や兵站面で支援(写真はイメージです)

メルケル政権は、約1200人の連邦軍将兵をこの作戦に参加させる。来年1月には、兵士たちがシリア・イラク上空での監視偵察任務や、兵へいたん站(後方活動)面での支援を開始する。フォン・デア・ライエン国防相は連邦議会での演説で、「シリアとイラクでの支援任務は危険を伴い、長期間に及ぶだろう」と述べ、この作戦に大きなリスクが伴うことを認めた。同時に「この作戦は、盲目的に行われる冒険ではない。外交交渉と組み合わせることによって、シリアでの内戦を終結させるために必要な手段だ」と述べ、軍事支援と政治的プロセスを並行的に進めるという点を強調した。

「知らん顔はできない」

シュタインマイヤー外相は、同盟国フランスと連帯することの重要性を強調した。「テロリストが町を闊歩しているときに、我々ドイツ人が窓を閉め、シャッターを下ろして知らん顔をしていて良いのだろうか? ドイツはそのような態度を取ってはならない。テロリストの行為がエスカレートし、拡大しつつある今、我々も一致団結してテロと立ち向かわなければならない」

11月13日にパリで起きた同時多発テロでは、ISの戦闘員がコンサートホールやレストラン、カフェで自動小銃を乱射し、市民130人を殺害し、352人に重軽傷を負わせた。オランド仏大統領はこのテロを「戦争行為」と断定していた。

国連安保理は未承認

しかし、電子偵察機や空中給油機の派遣は、ISとの戦いへの関与の度合いを大幅に高めるとともに、リスクも増大させる。たとえばISは、戦闘機を撃墜して捕虜にしたヨルダン空軍のパイロットを焼き殺す模様の映像を、インターネット上に流したことがある。さらにISは、パリで行ったような無差別テロをドイツでも起こす可能性が強まる。

一方で、今回の軍事支援には国際法上の根拠が薄弱だという問題点がある。原則的には、ドイツ連邦軍が外国での武力行使に参加・協力するのは、国際連合の安全保障理事会が、国連憲章の第7条に基づいて武力行使を承認したときに限られる。だが国連安保理は、イラク・シリアでの軍事攻撃を正式に承認していない。唯一の法的根拠は、欧州連合(EU)の基本条約であるリスボン条約の第42条第7項だ。この条約によると、軍事攻撃を受けたEU加盟国は、他の加盟国に対して支援を要請することができる。フランスはこの条約に基づいて、ドイツなどに対して援助を求めた。

メルケル政権はこれまで「軍事攻撃だけでは、シリア問題を解決することはできない」として、英仏、ロシアのシリアでの軍事作戦を批判してきた。このため、当初「マリに駐留している3000人のフランス軍兵士がシリアでの作戦に参加できるように、ドイツ軍の将兵をマリに派遣する」とオランド政権に伝えていた。しかしフランス政府からは、「全く不十分だ」とする不満の声が強まった。このためドイツは、有志国連合軍に対する偵察と兵站面からの支援に同意せざるを得なかったのだ。

フランスとの連帯を重視

ガブリエル経済相は、連邦議会での11月26日の演説で、独仏協調の重要性を強調した。彼は、「ドイツが1945年に第二次世界大戦で敗北した後、フランスは他の国々とともに、我々が国際社会に復帰できるように助けてくれた。我々はフランスに借りがある。そう考えると、我々はフランスを支援しなくてはならない」と述べた。つまり、もしもドイツがフランスに対する軍事支援を拒否したら、独仏関係に修復不可能な傷がつくというわけだ。

しかし、緑の党や左派政党リンケからは、「有志国連合がシリアを空爆して、テロリストだけでなく一般市民にも死傷者が出た場合、ISに加わる者が増える危険性がある。政府は、議会で十分に審議を尽くさずに軍事支援を決めた」という批判の声が強まっている。

さらに、空爆だけではISを壊滅させることはできない。フランス軍など有志国連合軍はいずれ地上部隊を派遣せざるを得ない。ドイツ政府は、フランスから要請があった場合、地上軍の派遣を拒否できるだろうか。

米国のアフガニスタンやイラクでの経験は、この種の軍事作戦に明確な「出口戦略」が不可欠であることを示している。フランスなどの有志国連合は、対テロ戦争の遂行と終結についてはっきりした戦略を持っているのだろうか。2016年は、欧州の安全保障にとって分水嶺となるかもしれない。

18 Dezember 2015 Nr.1016

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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