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ロンドンのゲストハウス
Di. 19. Nov. 2019

ドイツにも迫る 無差別テロの影

6月2日にカールスルーエの連邦検察庁が行った発表は、ドイツ社会に強い衝撃を与えた。

テロの脅威
欧州、ドイツにテロの脅威が迫っている

デュッセルドルフでもテロ未遂

昨年この国に難民を装って紛れ込んだテロ組織「イスラム国(IS)」の戦闘員たちが、デュッセルドルフの旧市街で無差別テロを計画していたことが明らかになったのだ。昨年1月と11月にパリで起きた無差別テロ、今年3月にブリュッセルで発生したテロの記憶がまだ生々しく残っているだけに、このニュースはデュッセルドルフに住む多くの日本人たちにも、ショックを与えた。

連邦検察庁によると4人のシリア人たちが、ライン川に近いハインリヒ・ハイネ・アレーで自爆ベストによって通行人を殺傷したり、自動小銃を市民に向けて乱射したりすることを計画していた。この地域はレストランやバーが多い繁華街で、地元市民だけでなく観光客にも人気がある。つまりテロリストたちは、昨年11月にパリでISが起こしたような大惨事を、デュッセルドルフで再現することを狙っていたのだ。

難民に紛れ込み潜入

捜査当局によると、テロリストたちの内25歳~31歳の3人は、2014年にISからドイツを攻撃するよう指令を受けた。そして昨年ドイツに押し寄せた多数の難民たちに紛れ込み、この国に到着して亡命を申請。彼らはノルトライン=ヴェストファーレン州(NRW)、ブランデンブルク州、バーデン=ヴュルテンベルク州の難民収容施設にいたところを逮捕された。

この計画が発覚したのは、グループのリーダー格だったサレフ・Aというシリア人がパリのグット・ドール地区の警察署に出頭し、ドイツでテロ計画があることを自白したためだった。一説によると、Aは自分の娘が殺人者の子どもとして一生後ろ指をさされるという良心の呵責に耐え切れず、警察に計画を漏らしたと言われる。テロリズムに詳しい専門家によると、実行グループのリーダーは通常、狂信的なイスラム主義者なので、自ら警察に出頭するというのは極めて珍しい。つまり事件が未然に防がれたのは、捜査当局の努力によるものではなく、テロリストが精神的な重荷に耐えられなかったという、いわば僥倖(ぎょうこう)のためだった。

昨年秋の混乱を悪用

昨年ドイツには、シリアなどから約110万人の難民が流入した。デュッセルドルフのテロ未遂事件が捜査当局にとって衝撃を与えたのは、ISが意図的にテロリストを難民に紛れ込ませて西欧に送り込んだことが再び確認されたからだ。

昨年9月にメルケル首相がシリア難民に対してドイツでの亡命申請を許して以来、一時は難民の登録すら困難になるほど、到着する人数が多かった。ISは行政当局の対応が後手に回った混乱期を利用して、テロリストをEU域内に潜入させたのだ。万一他のISのテロリストたちがEUに入っていたとしても、もはや捜査当局には確認の術はない。

ドイツもテロ組織の標的

デュッセルドルフに対するテロ攻撃は幸い未然に防がれたが、油断は禁物だ。ISはフランスや英国同様、ドイツも攻撃目標としている。ドイツは、米国を中心とする有志国連合がシリアで行っているIS空爆作戦に、電子偵察機を参加させているからだ。

NRW州政府のラルフ・イェーガー内務大臣は、多くの人が集まるイベントでの保安措置について、再点検をするよう命じた。私が知るある治安担当者は、「ドイツではいつ無差別テロが起きても、不思議ではない」と語る。実際、イスラム過激派のテロの影は、時折ドイツをよぎる。昨年の大晦日には、フランスの諜報機関から「ISが自爆テロを計画している」という確度の高い情報がドイツ政府に届いたため、真夜中近くにミュンヘン中央駅とパーズィング駅が突然閉鎖された。だがテロは発生せず、犯人グループも摘発されなかった。

各国の捜査機関は連携強化を!

2007年に捜査当局は、NRW州で、過酸化水素水を使った爆弾テロを計画していた3人のトルコ系ドイツ人らを逮捕した。ドイツの捜査当局は、米国の電子諜報機関・国家安全保障局(NSA)が盗聴した携帯電話の通話内容から、摘発の端緒をつかんだ。

また2011年には、フランクフルト空港のバスの停留所で、コソボ人のイスラム教徒がバスに乗り込もうとしていた米空軍の兵士たちにピストルを乱射し、4人を死傷させた。この犯行は、イスラム過激派によるテロで死傷者が出たドイツで唯一の事件である。

さらに2012年には、ボン中央駅のプラットフォームで警察が持ち主のいないトランクを検査したところ、金属片を混ぜた爆薬が見つかった。幸いトランクは爆発せず、死傷者はなかった。検察庁は、駅の監視カメラに残された映像から、イスラム教徒に改宗したドイツ人の若者が大量殺人を狙ったテロ未遂事件と断定し、この男を殺人未遂などの罪で起訴している。

捜査当局の関係者は、「フランクフルトの事件を除けば、これまでドイツで無差別テロによる死傷者が全く出ていないのは、単なる偶然と幸運によるもの」という見方が強い。捜査当局も、無差別テロを100%防ぐことは不可能だ。米国、EU加盟国の諜報機関と捜査当局は横の連携と情報収集体制を強めて、犠牲者の数を最小限に抑える努力をしてほしい。

1 Juli 2016 Nr.1029

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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