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ロンドンのゲストハウス
Mi. 22. Jan. 2020

ドイツを襲うイスラム・テロ - メルケル政権はどう対応する?

アンスバッハ旧市街
人口4万人の町アンスバッハの旧市街

2016年夏のドイツは、バカンス気分が吹き飛んでしまったかのような陰鬱な気分に包まれている。その原因の一つは、7月24日にドイツで初めてテロ組織「イスラム国(IS)」の信奉者による自爆テロ事件が発生したことだ。多くの市民が、「ついにISの自爆テロの波がドイツにも到達した」と感じている。

あわや大惨事

事件が起きたのは、バイエルン州ニュルンベルク近郊のアンスバッハ。24日の夜、この町では夏の音楽祭「アンスバッハ・オープン」が開かれていた。22時頃、リュックサックを背負った外国人が音楽祭の会場に入ろうとしたが、切符を持っていなかったので、警備員によって入場を阻まれた。この直後に男は音楽祭会場に近い居酒屋の前で、リュックサックに隠した爆発物に点火。市民15人が重軽傷を負い、犯人は死亡した。もしも犯人が音楽祭の会場に入り込んでいたら、死傷者数は大幅に増えていたはずだ。

対テロ捜査を担当する連邦検察庁やバイエルン州警察の調べによると、犯人はモハメド・Dという27歳のシリア人だった。捜査当局がDの携帯電話を調べたところ、彼が「アラーの名の下にドイツに対するテロ攻撃を行う」と語る映像が残されていた。さらにDはビデオの中で、ISに忠誠を誓っていた。このことから連邦検察庁は、この事件をIS信奉者が多数の市民の殺傷を狙った無差別テロと断定した。

却下された亡命申請

Dは2年前、ドイツに難民として到着し、亡命を申請した。だがDはドイツに入国する前にブルガリアとオーストリアでも亡命を申請していた。ブルガリア政府はすでにDについてシリア内戦からの避難民として、「暫定的な保護措置」を認めていた。

EUの亡命申請に関する規定である「ダブリン協定」によると、亡命を希望する外国人は、最初に足を踏み入れたEU加盟国で亡命を申請しなくてはならない。

このためドイツ政府は、Dのドイツでの亡命申請を却下。Dはブルガリアへ強制送還される予定だったが、医師が「Dは精神的に不安定な状態にある」という診断書を裁判所に提出したため、ブルガリアへの送還が延期されていた。

バイエルン州政府のヘルマン内務大臣(キリスト教社会同盟=CSU)は、「イスラム・テロがドイツに到達した。民主主義社会ドイツは、そのことを自覚し、対応しなくてはならない」と語った。CSUのショイアー幹事長は、今回の事件を受けて「もはやドイツに到着する難民の説明をうのみにするわけにはいかない。入国を希望する難民全員を面接し、詳しい身元調査を行うべきだ」と主張している。

行われなかった身元調査

バイエルン州では7月18日にも、ヴュルツブルクを走っていた列車の中で、自称アフガン人の男がおのと包丁で乗客に襲い掛かり、たまたまドイツを旅行中だった香港からの観光客ら4人に重傷を負わせたばかり。男は列車から逃走したが、警察官によって射殺された。犯人は列車の中で「アラー・アクバル(アラーは偉大なり)」と叫んでいた。また警察は犯人の自室から、ISの旗が描かれたノートを発見。さらにISは、犯人が「ISの戦士としてドイツで戦いを始める」と宣言しているビデオ映像をネット上に公開した。これらのことから、ヴュルツブルクの事件が政治的な動機に基づくテロ事件であることは確実だ。

犯人は2015年6月にバイエルン州のパッサウからドイツに入国。当時16歳だった。入国時にドイツの警察や入国管理当局は、男の指紋を取っておらず(ドイツに来る前に通過したハンガリー政府は採取)、さらにドイツ政府は今年3月にこの男にドイツへの滞在許可を与えたが、その際にも詳しい身元調査は行わなかった。彼はパン職人の見習いとなり、ソーシャルワーカーや周辺の人々は、この男がISの過激思想に感化されていたことに気づかなかった。ただし、彼が事件の直前に「友人がアフガニスタンで死んだ」と語っていたことから、友人の死に対する怒りと絶望が、この男をISに急激に傾斜させた可能性もある。

ドイツ社会に広がる不安

いずれにせよ、ドイツに昨年入国した100万人の難民について、政府や警察が十分な身元調査を行わなかったこと、そして一部の難民が少なくとも2件のテロ事件を起こしたことについて、市民は不安を募らせている。パリで昨年11月に起きた同時テロの犯人の一部も、難民に紛れ込んでEUに潜入したISの戦闘員だった。また今年6月には、デュッセルドルフで同時テロを計画していたシリア人4人が逮捕されたが、彼らも難民を装ってドイツに潜入していた。

昨年9月にメルケル首相が、ハンガリーで立ち往生していたシリア難民らをドイツに受け入れる決断を行ったとき、CSUを始めとする保守勢力の間では、「テロリストが難民に混ざってドイツに潜入するのを、どのように食い止めるのか」という強い批判の声が出ていた。今や保守派が警告していた事態が、現実となった。メルケル首相は、今なお難民数に上限を設けることに反対しているが、来年の連邦議会選挙へ向けて、保守勢力からメルケルに対する批判が強まる可能性もある。今後もドイツでは無差別テロが起こる可能性があり、メルケルは昨年の決定について、説明責任を問われるかもしれない。

2 September 2016 Nr.1033

 

熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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