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日経電子版 初割り
So. 19. Jan. 2020

ディーゼル車のシュトゥットガルト乗り入れは禁止されるか?

シュトゥットガルト行政裁判所
NOx濃度を下げる措置を命じた
シュトゥットガルト行政裁判所にて

今ドイツの自動車業界は戦後最大の危機に直面している。2年前に米国で発覚したフォルクスワーゲン(VW)社の排ガス不正問題は、今年になり更にエスカレートし、ディーゼルエンジンだけでなくガソリンエンジンも含む内燃機関を使った車の将来そのものに大きな影が落ちている。ディーゼルエンジン車の販売台数は去年に比べ減っているほか、この危機は今月行われる連邦議会選挙の重要な争点の一つとなりつつある。

「違法状態に終止符を」

危機をエスカレートさせたのは、7月28日にシュトゥットガルト行政裁判所が下した判決だ。同裁判所のヴォルフガング・ケルン裁判官は「7年半前から窒素酸化物(NOx)の濃度がEUの定める上限値を超えている。違法状態を終わらせ市民の健康を守るには、ドライバーの所有権が制限されるのもやむを得ない」と述べ、バーデン=ヴュルテンベルク州政府に窒素酸化物の濃度を大幅に下げる措置を取るよう命じた。

EU法によると、NOxの上限値は、1立方メートルあたり40ミリグラム。だがシュトゥットガルトは山に囲まれた谷間にあるので、ネッカータール交差点の観測地点では、NOxの濃度がEU上限値の2倍の約80ミリグラムに達している。NOxは呼吸器に炎症を起こす有害物質である。ケルン裁判官は判決の中で、シュトゥットガルト市へのディーゼルエンジン車の乗り入れを来年1月1日から禁止することを、NOxの濃度を引き下げる上で最も有効な手段と見なしている。

28の都市でEU法違反

提訴していたのは、環境保護団体ドイツ環境援助組織(DUH)。第一審でDUHが勝訴したことは、バーデン=ヴュルテンベルク州政府、連邦政府、自動車メーカーに強い衝撃を与えた。その理由は、DUHが同様の訴訟をミュンヘンなど16の大都市でも提起しているからだ。ドイツでは、80の都市でNOx濃度がEUの上限値を超えている。さらにEUはドイツの28の大都市の行政当局に対して、NOxをめぐるEU法違反について調査を開始している。勿論シュトゥットガルト行政裁判所の判決は、司法の最終判断ではない。来年初めには、ライプツィヒの連邦行政裁判所が、デュッセルドルフでの大気汚染問題を審理する。この行政訴訟で、シュトゥットガルト行政裁判所の第一審判決の適法性が取り上げられ、連邦行政裁判所がシュトゥットガルト行政裁判所の判決を覆す可能性もゼロではない。

だが連邦行政裁判所も、「大気汚染緩和のために、ディーゼルエンジン車の乗り入れ禁止措置を取ることは合法」と判断しシュトゥットガルト行政裁判所の判決の適法性を追認した場合、ドイツの車の約40%を占めるディーゼルエンジン車が、大都市から締め出されることになる。大気汚染に悩む市町村では、NOxの排出基準を満たす車に「青いシール」を配布し、このシールを貼っていない車の乗り入れ禁止を求めている。

自動車業界の改善策

ドイツ連邦政府とバーデン=ヴュルテンベルク州政府、自動車業界は、シュトゥットガルトなどの大都市でディーゼルエンジン車の乗り入れが禁止される事態、つまり青いシールの導入を是が非でも避けることを目指している。このため連邦政府は8月2日にベルリンにVW、ダイムラー、BMWなど8社の自動車メーカーの社長を招き、ディーゼル問題への対応を協議した。その結果ドイツの自動車メーカーは、現在ドイツで使われているディーゼルエンジン車530万台のソフトウエアを無償で更新することによって、NOxの排出量を来年末までに25~30%減らすことを約束。これらの車は排ガス基準がユーロ5ないし6を満たす車で、VWが排ガス不正のためにリコールを命じられた250万台も含まれている。各メーカーは「この更新措置によって、燃費などが悪化することはない」と説明している。さらに各社は排ガス基準がユーロ4もしくはそれ以下の中古車については、ユーザーが有害物質の少ないユーロ5ないし6の車に乗り換えることを奨励するために「買い替えボーナス」を提供。また連邦政府と自動車業界は、普及が遅れている電気自動車の充電ステーションを整備したり、公共交通機関網を拡充したりするために「モビリティー基金」に10億ユーロ(1300億円・1ユーロ=130円換算)を拠出することも決めた。

連邦環境省の批判

しかし、これらの措置によってシュトゥットガルトへのディーゼルエンジン車の乗り入れ禁止措置を回避できるかどうかは未知数だ。ドイツ連邦環境省のバルバラ・ヘンドリクス大臣は「8月2日に自動車業界が約束した措置は、NOx濃度を6%しか減らさない。これらの措置は、大半の町でEUの上限値(1立方メートルあたり40ミリグラム)を満たすには不十分だ」と述べている。連邦環境省はソフトウエアの更新だけでは不十分であり、触媒装置の更新などハードウエアの改修が必要だと考えている。だがハードウエアの改修はメーカーの負担を大幅に増やし、業績を悪化させる。ソフトウエアの更新にかかる費用は1台あたり100ユーロ(1万3000円)だが、触媒装置の改修には1700ユーロ(22万1000円)もかかる。

つまり自動車業界が政府に約束した措置により、大都市でのディーゼル車乗り入れ禁止を回避できる保証はまだない。ドイツ経済の屋台骨である自動車業界の頭上には、不透明性という暗雲が広がりつつある。

 

熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
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