ドイツワイン・ナビゲーター


ワインと食の合わせ方 1 古代ローマのワインのある食生活

マッチング、ペアリング、マリアージュ……、ワインと食の理想的な合わせ方については、沢山の情報が飛び交っています。このテーマについては、どれほど多くを語っても語り尽くせません。それは、人間の味覚や嗜好が人それぞれであり、料理の味わいが素材や作り手によって違い、合わせるワインが刻々と熟成しているからでしょう。人と食事とワイン、その出会いは常に一期一会です。

今回から、ワインと食の合わせ方をテーマに書き始めますが、その前に時計を逆戻しして、古代ローマの食生活を少しだけのぞいてみましょう。ご存知のとおりドイツワインのルーツは古代ローマ帝国にあり、ライン川、モーゼル川流域などでぶどうを栽培しはじめたのは、ワイン造りの経験や知識を持っていた帝政期のローマ人兵士たちでした。

古代ローマの飲み物には、水、山羊や羊のミルク、穀物やハーブのお茶、 ビール、ワインなどがありました。当時、ビールにはホップが使われておらず、爽やかな味わいに欠け、保存が利かなかったそうです。ワインの保存も困難でしたが、ビールよりは長持ちし、広く飲まれていました。ローマ人の基本食はワインとパンで、庶民が通うワインバー、ポピーナ(Popina) では、ろ過して水で割ったワインと、平たいパンやひよこ豆のタルトなどの軽食を出していたそうです。

富裕層の食生活において、ワインは最も重要な飲み物でした。調味料としても活用され、オリーブ油や魚醤と同じくアンフォラ(かめ)に入れて保存されていました。古代ローマ料理のレシピ本には「カレヌム(Carenum)」というワインを煮詰めたシロップや、「エノガルム(Oenogarum)」というワインと魚醤を合わせた調味料が度々登場します。

食事には順序があり、アペリティフもありました。宴会ではまず、ワイン4、蜂蜜1の割合でブレンドしたアペリティフ「ムルスム(Mulsum)」が供され、卵や野菜中心の前菜が出てきます。その後、第一の皿として肉料理や魚介料理が、続いて第二の皿として、デザートとなるぶどうやいちじく、なつめなどの果物や焼き菓子が出されました。

アンフォラで保管していた濃厚なワインは、ろ過器で漉し、水3、ワイン1の割合で薄めて飲まれていました。スパイスやハーブなどで風味づけされることが多く、夏には冷やし、冬には温めていたようです。このほか、パッスム(Passum)という、樹に実ったままで乾燥したぶどうを収穫して造る、ストローワインに似た甘口デザートワインもありました。正式な晩餐会には、飲み物を担当するソムリエ役がいたそうです。

古代ローマ時代、ワインは当たり前のように楽しまれ、アルコールが強すぎれば水で薄め、蜂蜜を入れて甘くしたり、好みで風味づけしたわけですが、思えばドイツのレストランやバーには必ずワインショーレがあり、ニワトコ(ホルンダー)のシロップを加えたゼクトなどにもお目にかかります。冬にはスパイスたっぷりのグリューワインも人気です。田舎に行くと、特に組み合わせを意識することなく、地元のワインと地元の料理を合わせていただく機会があります。ワインの楽しみ方は、本来このように大らかなものだと思います。

(参考文献/ Ileria Gozzini Giacosa著「Geniessen wie die Alten Römer」Eichborn社刊)

 
Weingut August Eser
アウグスト・エーザー醸造所(ラインガウ地方)

Weingut August Eser
醸造所に新風を吹き込むデジレさんとドドさん夫妻。

創業1759年の由緒ある醸造所。現在のオーナーは10代目のデジレ・エーザー・フライフラウ・ツー・クニプハウゼン夫人。醸造所はデジレさんの祖父名から。夫のドド・フライヘア・ツー・クニプハウゼン氏と共に高品質のワイン造りを信条とする。所有畑は11ヘクタール。エストリッヒの他、ハッテンハイム、リューデスハイムなど8つの村の、7つの特級畑と4 つの一級畑(VDP格付)から味わい豊かなリースリングを生み出している。ワインの約3分の1が木樽仕込み。19世紀末のオークの大樽も現役で使われている。ワインは辛口が主流。リースリングのゼクト、アウスレーゼ、貴腐ワインなどのデザートワインも生産。ディナーを完璧にエスコートするコレクションが揃う。ぶどうの房と鍵を組み合わせたシンボルマークが目印。

Weingut August Eser
Friedensplatz 19
65375 Oestrich-Winkel
Tel. 06723-5032
http://eser-wein.de
オンラインショップ: www.August-Eser-Weinshop.de


2015 Riesling My Way Désirée Eser2015 Riesling My Way Désirée Eser 7,90€
リースリング マイ・ウエイ デジレ・エーザー 辛口

 醸造所初の女性オーナーとなったデジレさんが、醸造所を継いだ2007年から生産している「マイ・ウエイ」は、彼女のワインへの思いが込められたバランス良い味わいの辛口リースリング。主にエストリッヒ村のレンヒェン、クロスターベルクのぶどうをブレンド。残糖値7,9g/L。特に家禽類やリゾットなどと合わせるのがおすすめだという。酸味や香辛料が利いた料理には、中辛口(残糖値13,2g/L)の「シュリュッセルエアレープニス(Schlüsselerlebnis/鍵となる体験の意)」(7, 90€)を。

最終更新 Mittwoch, 08 Februar 2017 11:18
 

ワインを飲まない時のナビゲーター

ワイン好きの集りに、飲まない人も招きたいとき、皆さんはどうなさっていますか? また、アルコールを飲まない日はどのような飲み物を楽しんでおられるでしょうか?

ワイン業界におけるアルコールフリー化への取り組みは早く、1908年にはすでにアルコールフリー・ワインが生産されていました。ただし、本格的な商品開発が始まったのは近年のこと。現在、複数の大手ゼクトメーカーがアルコールフリー・ゼクトをリリースしています。アルコール度数が高いワインのアルコールフリー商品開発は、今後の課題です。

一方、ビールはアルコールフリー商品が豊富です。ドイツ初のアルコールフリー・ビールは、旧東独時代の1972年に登場したアウトビア(Autobier)。アウビ(Aubi)の略称で親しまれたドライバー用ビールでした。旧西独では1979年に誕生した「クラウスターラー」がアルコールフリー・ビールのパイオニア。「アルコールフリー」は今日、ごく当たり前の飲み物となりました。

日本ではアルコール分が1%未満で「ノンアルコール」と表示可能ですが、ドイツでは0.5%以下のものを「アルコホールフライ(Alkoholfrei)」、0%の場合は「オーネ・アルコホール(Ohne Alkohol)」と表示できます。1.2%以上はアルコール分を含むことを表示する必要があります。また、果汁飲料は自然発酵するため、1%未満のアルコール分を含む場合があります。

アルコール飲料を飲まない場合、上記のようなアルコールフリーの商品を味わうという手もありますが、お気に入りのミネラルウォーターを使った手軽な「水割り」はいかがでしょう?炭酸のあるなしにかかわらず、水は様々な飲み物のベースになります。ドイツでポピュラーなアプフェルショーレ(Apfelschorle) は、りんごジュースの炭酸水割り。最近はルバーブ(Rhabarbar)のショーレも人気です。ほかにもオレンジ、ぶどう、マンゴーなど、たいていのジュースで美味しいショーレが作れます。甘みのあるジュースは、ショーレにすることで甘さが減り、食事に合わせやすくなります。手作りジュースにすればさらに甘さを控えめにできます。

近年、種類が増えているシロップを使ってノンアルコール・カクテルを作るのも楽しいものです。ドイツでは、ゼクトやワインにも加えるエルダーフラワー(Holunderblüten)のシロップがよく知られています。ジュースやシロップは、Voelkel社の製品がビオ基準で生産しており、種類も豊富です。ジュースやシロップに使われる様々な果実、花、ハーブなどは、ワインの風味とも共通するものなので、ワイン好きの人と話題を共有することができます。

ドイツでは、ワインショーレ(Weinschorle)というワインの炭酸水割りもよく飲まれます。ワインが飲めなくても、ワインショーレなら大丈夫という方がおられるかもしれません。

このほか、ぶどうジュースを生産しているワイン醸造所もあります。最近はぶどうジュースに炭酸を注入し、「トラウベン(ぶどう)セッコ(Traubensecco)」などの名称で商品化しており、新感覚のアルコールフリー飲料として注目されています。また、これからの季節は、グリューワイン感覚でホットジュースなども楽しんでみてください。

 
Obstkelterei van Nahmen
オプストケルテライ・ファン=ナーメン

Weingut Wöhrle
オーナーのライナー(右)&ペーター・ファン=ナーメン父子

1917年創業、デュッセルドルフ北部ハミンケルンのジュース生産者。当初はりんごやてんさいのシロップを生産していたが、パスツールの低温殺菌法がドイツに広まった1930年代に、ジュースの生産に転向した。1944年からは、小さな果樹園を持つ個人を対象に果汁の圧搾代行業を行っていた。1990年代に自然保護団体NABUと提携し、ラインラント地方に古来からあるりんご品種の保存、伝統的な果樹栽培法の維持を支援し、果樹園のジュースとして売り出しはじめる。2007年からは品種別のリンゴジュースを生産、その流れで品種別のぶどうジュースも生産しはじめた。現在30種類以上のジュース、ネクターを生産。ワイン業界からも注目されている個性豊かなジュース生産者だ。

Obstkelterei van Nahmen
Diersfordter Str. 27
46499 Hamminkeln
Tel. 02852-960990
www.vannahmen.de


Frucht-Secco Traube (Bio) Frucht-Secco Traube (Bio)
フルフト・セッコ・ぶどう(ビオ)7. 80€

 ファン=ナーメン社では、白のショイレーベとリースリング、赤のドルンフェルダーの3品種のぶどうジュースを生産している。いずれもラインヘッセン産のぶどうをコールドプレスしたディレクトザフト(果汁100%)だ。ご紹介するぶどうの「フルフト・セッコ」は、複数のぶどう品種のディレクトザフトのブレンドに炭酸を注入したスパークリングぶどうジュース。酸味と甘味のバランスが良く、ゼクト代わりのアペリティフにも、食後のフルーティーなデザートやチーズのお伴にも最適。

最終更新 Donnerstag, 15 Dezember 2016 16:53
 

マイナーな品種の魅力

このごろは、ドイツワインといえば白ならリースリング、赤ならシュペートブルグンダー(仏語: ピノノワール)というイメージが定着しています。いずれもドイツワインを代表する伝統的な品種で、ミュラー=トゥルガウやケルナーなどの交配品種が人気だった時代は、過去のものとなりました。

それぞれの地域に固有の伝統品種への回帰は世界的な現象で、失われつつある伝統品種を発掘すること、再発見することに関心が高まっています。加えて、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブランなどのフランス品種もすっかり定着し、オーストリアやイタリアの伝統品種を栽培し始めている造り手もいます。また、ビオワインへの関心から低農薬栽培が可能な新たな交配品種が誕生しており、ドイツワインに使われるぶどう品種は現在、多様化の時代を迎えています。

本連載では10回にわたり、ドイツで栽培されているぶどう品種を網羅しましたが、今回はまだご紹介していないマイナーな伝統品種を取り上げてみます。

そのうちの一つが白品種のオクセロワ。オクセロワは、19世紀に中欧で盛んに栽培されていた白品種ホイニッシュとピノ系品種(ブルグンダー系品種)の自然交配といわれています。ホイニッシュは東欧や南欧から中欧にもたらされた品種、ピノ系はブルゴーニュがルーツの品種です。ホイニッシュとピノ系の自然交配品種にはほかに、ブルゴーニュの白品種であるシャルドネとアリゴテなどがあります。

オクセロワの名称の由来は、フランス、ブルゴーニュ地方の伯爵領だったオセール(Auxerre)だという説が有力で、現在もオセールという場所が存在します。オクセロワは、かつてシャンパーニュ南部地域やブルゴーニュで、混植されていたようで、それが他国に伝わったのは、17世紀後半以降、迫害に遭ったユグノー教徒(フランスのプロテスタント教徒)が新天地に苗を持ち込んだからだといわれています。

オクセロワは現在、ドイツ以外ではフランスのアルザス地方とルクセンブルクで栽培されています。出来上がるワインはヴァイスブルグンダー(仏語: ピノブラン)を思わせますが、より果実味が感じられ、酸味の穏やかな魅力的なワインに仕上ります。 従来、オクセロワはピノ系の白ワインにブレンドされることが多かったのですが、その魅力に気付いた造り手たちが、単独でワインとしてリリースするようになっています。

オクセロワ以上にマイナーなのがオルレアンという白品種(第49回醸造所& ワインナビ)。この品種も19 世紀までは広範囲で栽培されていましたが、現在では絶滅の危機にひんしています。カール大帝(シャルルマーニュ大帝、在位768~814年)がフランスからラインガウにもたらした品種だといわれ、12世紀にラインガウ地方エーベルバッハ修道院のシトー会修道士らが本格的に栽培を始めたそうです。オルレアンはかつて、ラインガウの急斜面の畑など、条件の良い畑で栽培され、優れたワインを生み出していました。

19世紀後半以降、リースリングの栽培面積が急増したため、オルレアンはすっかり姿を消してしまいましたが、1980年代にリューデスハイムの畑で古木が見つかり、いくつかの醸造所が再び栽培しています。独特のスパイシーさと力強さを持つオルレアンは、おそらくドイツで最もレアなワインでしょう。

 
Weingut Wöhrle
ヴォルレ醸造所

Weingut Wöhrle
マルクス & タニア・ヴォルレ夫妻

1979年よりシュヴァルツヴァルトのシュタット・ラール醸造所を借りてワイン造りを行っていたハンス&モニカ・ヴォルレ夫妻が、1997年に同醸造所を購入、2013年に名称を変更し、誕生した醸造所。当初から厳格なエコ基準に従ってワイン造りを行っている。現在は息子のマルクスと妻のタニアが中心となって、ワイン造りを行う。畑の多くがフランス、アルザス地方を見渡すシュッターリンデンベルクの斜面にある。畑の土壌は石灰質が混ざる礫岩(れきがん)をレス土が覆う。2004年にVDP会員となり、VDP格付けの一級畑と特級畑から偉大なワインを生産。なかでもラールの特級畑キルヒガッセはヴォルレ醸造所の単独所有で、グラウブルグンダーとシュペートブルグンダーが生産されている。

Weingut Wöhrle
Weinberg Str. 3
77933 Lahr
Tel. 07821-25332
www.woehrle-wein.de


Lahrer Auxerrois trocken 2015 Lahrer Auxerrois trocken
2015年 ラーラー・オクセロワ 辛口 9.50€

ラールでは1950年代からオクセロワ種が栽培されていたという。ヴォルレ家では創業時から生産しており、現在の栽培面積は2ヘクタール。その後、植え替えを行い、樹齢は15~25年を迎えたところ。ぶどうが熟しすぎると酸味が失われるので、収穫のタイミングには細心の注意を払う。オクセロワはピノ系品種の中でもとりわけ繊細でエレガントなワインに仕上る。控えめな味わいゆえ、軽快で繊細な料理に合い、和食との相性が良い。VDP基準のオルツワイン(村名ワイン)としてリリースしている。

(※2015年は完売、http://www.vicampo.deで購入可能)

最終更新 Mittwoch, 12 Oktober 2016 09:56
 

ヴィーガン・ワイン

「ヴィーガニズム(Veganism)」は、動物由来の製品を一切使わないライフスタイルのことです。それを実践する人たちのことを「ヴィーガン(Vegan、独語でヴェガーン)」といいます。1944年に英国で設立されたヴィーガン協会が打ち出した概念で、卵や乳製品などの酪農製品をも拒否するものです。ヴィーガニズムには、食生活だけに限定されている場合と、あらゆる動物由来の製品の使用を一切拒む場合とがあります。

ここ数年、ワインにおいても「Vegan」と表示されたものを見かけるようになりました。ワインの原料はぶどう果汁ですから、100%植物由来の飲料です。ワインに使われる動物由来の製品とは、醸造の過程においてワインと接触する清澄剤(せいちょうざい)に限定されています。清澄剤とは濁った果汁を、手早く澄んだものにするための物質です。

具体的には、動物性たんぱく質由来のゼラチン、アイシングラス(魚の浮き袋から作るゼラチン)、卵白(アルブミン)といった古来から使われている清澄剤がこれに相当します。ゼラチンやアイシングラスは白ワインに、卵白は赤ワインに使われます。2012年7月からは、人によってはアレルギー反応を起こし得る、カゼイン、アルブミン、リゾチームを使用した場合、エチケット(ラベル)に表示することが義務付けられています。こういった動物由来の清澄剤を使用した場合、そのワインは「ヴィーガン」と名乗れません。

しかし現在では、ベントナイト(粘土鉱物の一種)、珪藻土(けいそうど)といった鉱物由来の清澄剤を使うことが多いので、ワインが動物由来の原料に触れる機会は減っています。そのため表示がなくても、ヴィーガン・ワインであるケースもあるのです。

近年、エチケットに「ヴィーガン」と明記し、意識的にヴィーガン・ワインを生産している造り手たちが増えています。彼らは、清澄剤として植物性たんぱく質由来のものを取り入れるようになっています。例えば、豆類、じゃがいも類から得られるたんぱく質などです。BSE(いわゆる狂牛病)が発覚した頃から、植物性たんぱく質の研究がさかんに行われるようになり、植物性たんぱく質由来の清澄剤もどんどん質が良くなっています。あるいは清澄剤を一切使わないという造り手もいます。収穫したぶどうが完璧に近ければ近いほど、濁り成分がゆっくりと樽の底に溜まるのを待つだけで澄んだワインが得られるのです。

ヴィーガン・ワインは必ずしもビオワインではありませんが、ヴィーガンの造り手のほとんどが、ビオにも関心が高く、ビオワインの生産者であるケースが多いようです。そのため、ヴィーガン・ワインはビオ・ショップで見つかる可能性が高く、最近では通常のワインショップも「ヴィーガン・ワイン」のコーナーを設けるようになってきています。

ドイツ最大のべジタリアンおよびヴィーガンの推進組織であるドイツ・べジタリアン協会(VEBU、1892 年設立)の調査によると、現在ドイツには、べジタリアンが約780万人、ヴィーガンが90万人いるとのことです(2015年の統計)。ドイツの全人口の約10%がすでにべジタリアンなのです。ヴィーガン人口が増えるほどに、ヴィーガン・ワインの需要も高まり、ヴィーガン・ワインとして公式に申告できる法的基準なども整うことでしょう。

 
Joern Wein
ヨルン・ワイン(ラインガウ地方)

ヨルン・ゴツィエフスキー
ヨルン・ゴツィエフスキー氏

2015年秋にヨルン・ゴツィエフスキーさんが興したマイクロワイナリー(小規模な醸造所)。ラインガウの8つの畑からトータル1.4ヘクタール分の区画を借りてワイン造りを行っている。ガイゼンハイム大学卒。スペイン、イタリア、ニュージーランドなどで醸造家として活躍した後、ラインガウ地方のアンカーミューレ醸造所で4年にわたってワイン造りを担当した。彼の自然に近いワイン造りは当時から注目されていたが、独自ブランドを立ち上げたことでその姿勢がより明確になった。ヨルンはヴィーガン・ワインの中で最も徹底したスタイルである清澄剤不使用を目標とし、ほぼ達成している。ラインガウの土壌と気候の恵みを受けたリースリングとシュペートブルグンダーの持てる力が最大限に引き出されたコレクション。

Joern Wein
Bahnstr. 1
65366 Geisenheim
www.joernwein.de


ヨルン2014 Joern Riesling trocken
2014ヨルン、リースリング辛口 10.80€

ヨルンの初ヴィンテージ。コレクションの中で一番ベーシックなリースリング。リューデスハイムの複数の畑のリースリングをブレンドしたもの。発酵後、9ヵ月にわたって酵母と接触。その後、清澄剤は一切使わず、1回だけフィルターにかけ、少量の亜硫酸を添加してボトリングした。2014年ヴィンテージは、非常に満足のいく出来だという。約2年を経たワインは充実した味わい。華やかなフルーティさとは異なる、大地の風味が感じられる。ヨルンの今後の目標はビオへの移行だ。エチケットにはヨルン考案のヴィーガンマークがついている。


最終更新 Mittwoch, 07 September 2016 11:38
 

ぶどうという植物 6 剪定(せんてい)と無剪定

ぶどうの木はいつから剪定されるようになったのでしょう? これについては、古くから語り継がれている伝説があります。遠い昔、パレスチナ地方のどこかで、ロバが何本かのぶどうの木の枝を食べ尽くしてしまいました。しかし翌年、その木からは、力強い新梢が伸び、より良いぶどうが実ったというのです。以来、人は剪定という技術を手にしたと言われます。

1月から3月にかけて行われる剪定の仕事は、ワイン造りにおいて非常に重要な意味を持っています。このとき、造り手はぶどうの健康状態を確認し、最終的に残す枝と芽の数を決め、収穫量をコントロールするのです。剪定には熟練と瞬時の適切な判断が必要で、手間がかかります。高品質のワインを造るため、盆栽のように切り詰められた1本のぶどうの木から、ほんの数房だけを収穫する造り手もいます。一方で、剪定という作業はぶどうの木を傷つけることでもあります。近年、南欧で被害が多く報告されている、ぶどうの木を枯らしてしまうエスカ(esca)の病原菌は、剪定の傷あとからも侵入するそうです。

剪定の対極には無剪定という選択肢もあります。「ミニマルシュニット」と呼ばれ、1930年代にすでに米国で研究されていた方法は、1970年代前半に労働力が不足していたオーストラリアで実践され、現在も広域で行われています。人件費を大幅に削減できるため、主に安価なワインの生産方法として導入されています。

ミニマルシュニットは通常行われる冬場の剪定を一切やめ、機械で必要最小限の刈り込みを行い、成長するに任せます。最初の数年間は実るぶどうの房が極端に増えるそうですが、年数とともに減少し、バランスがとれてきます。たくさんのぶどうの房が実るので、通常は機械で収穫します。

ミニマルシュニットには、ほかにも様々な利点があります。温暖化傾向にあるといわれるドイツでは、以前に比べてぶどうが早く熟し、腐敗しやすくなっていますが、ミニマルシュニットを導入している醸造所の報告によると、樹勢が抑制され、ぶどうがゆっくりと熟すようになるほか、房や粒が小さくなり、バラ房と言って粒と粒の間に空間ができて房の風通しが良くなり、カビ菌が繁殖しにくくなるそうです。剪定をしないので、エスカのリスクも低くなります。欠点は、毎年の収穫の品質や量にばらつきがあること、品種によって向き不向きがあることですが、将来性のある栽培法の一つです。

このほか、近年「優しい剪定」と呼ばれる剪定方法が少しずつ広まっています。イタリア、フリウリ地方の農業家、マルコ・シモニ氏とピエルパオロ・シルヒ氏が、古来の剪定法を再発見し、今日のワイン造りに適用しているメソッドで、一言で言えば、ぶどうの木の立場に立って行う剪定方法です。ぶどうの木は、毎年の剪定の傷口が深いと樹液の通り道が阻まれ、常に新たな通り道を確保しなければならなくなります。シモニ&シルヒ・メソッドでは、ぶどうの木の生育にダメージを与えない、理にかなった剪定を行い、樹液の通り道となっている枝を活かして育てます。現在イタリア、フランスを中心に世界各地の約130のワイナリーが、このメソッドで剪定を行っています。ドイツではプファルツのビュルクリン・ヴォルフとオーディンスタール、ラインガウのキュンストラー、フランケンのユリウスシュピタールの4醸造所が、この手法を取り入れています。

 
Weingut Wagner-Stempel
ワーグナー=シュテンペル醸造所(ラインヘッセン地方)

ダニエル・ワーグナー
ダニエル・ワーグナー氏

創業1845年の家族経営の醸造所。所在地ジーファースハイムは、ラインヘッセン地方の西端でナーエ地方に近い。急斜面の山々が連なる地域は「ラインヘッセン・スイス」とも呼ばれ、より冷涼で、同地ではまれな火山性土壌のぶどう畑がある。所有畑は20 ヘクタール。90年代初頭からは9代目のダニエル・ワーグナーが醸造所を率いる。リースリングに最も力を入れているが、ジルヴァーナー、ショイレーベ、ブルグンダー品種、ソーヴィニヨン・ブランからも魅惑的なワインを生産している。同地の気候に適応している赤品種、ザンクト・ラウレント、メルロ、フリューブルグンダーをブレンドした、エレガントなキュヴェ「シュタインケーニヒ」にも注目。EUのビオ基準で生産。VDP会員。

Weingut Wagner-Stempel
Wöllsteiner Str. 10
55599 Siefersheim
Tel.: 06703 - 960330
www.wagner-stempel.dee


グーツワイン2015 Gutswein Riesling
2015 グーツワイン、リースリング 辛口 8.90€

ジーファースハイムの南側のヘルベルクと北側のヘアクレッツの二つの特級畑から生まれる、それぞれに味わい深いリースリングは、ラインヘッセンでひときわ輝きを放つ。ご紹介するリースリングのぶどうは、この二つの特級畑のうちの若い畑のもの。いずれも火山性土壌で、基底には斑岩(はんがん)とその風化岩石が横たわっている。ラインヘッセン・スイス特有のテロワールを反映したリースリングには、隣のナーエ地方のニュアンスも感じられる。繊細で引き締まった味わい。果実味とソルティーな風味が絶妙にマッチ。醸造はステンレスタンクとオークの大樽を併用。


最終更新 Donnerstag, 01 September 2016 15:03
 

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