ドイツワイン・ナビゲーター


アルテ・レーベン

時おり、エチケットに「アルテ・レーベン(Alte Reben)」と書かれたワインに出会うことがあります。フランス語では「ヴィエイユ・ヴィーニュ(Vieilles Vignes)」と言い、「古木」を意味します。近年「アルテ・レーベン」と表示されたワインは増加傾向にあり、高品質ワインの指標の1つとなっています。「アルテ・レーベン」に法規定はなく、樹齢も厳密に決められてはいませんが、ドイツの造り手は、だいたい樹齢40年以上のぶどうから造られたワインをそう名付けているようです。

ぶどうの木は、樹齢とともに収量が減るため、ドイツの育種業者は25~30年ごとに植え替えることを勧めています。植え替えは、一定の収量を得るためにはやむを得ない方法です。しかし、高品質のワインを生産するための基本は収量を減らすこと。そのため意欲的な造り手たちは、若木に対しては個々のぶどうの木の収量を見極めながら、グリーンハーヴェスト(緑の収穫)を実施しています。これは成熟する前のぶどうを一部摘み取り、残したぶどうの品質を高める方法です。また、彼らは一度植えたぶどうをできる限り守り、樹齢を伸ばすようにしています。古木に対しては、やがてグリーンハーヴェストの必要がなくなります。樹齢およそ50年を越える頃から収量が明らかに減ってくるからです。とはいえ、収量の変化は樹齢だけに左右されるのではなく、自根であるかどうかなど、ほかの要素も影響します。

かつて大学の卒論のテーマに「アルテ・レーベン」を取り上げたS.A.プリュム醸造所のサスキア・プリュムさんは、「秋になると、若木と古木の違いがはっきりするんです。古木のぶどうの粒は明らかに小さく、房に空間があり、腐敗しにくい。リースリングの場合は、若木のものよりも黄色く色付いており、アロマも豊かでよりフルーティーな味わいです」と語っています。古木のぶどうがひときわ豊かな風味を持つのは、収量が少ないことのほかに、その根が地中深くに達しており、いかなる不利な気象条件に見舞われても、必要な水分や養分を確実に吸収できることとも関係しています。

サスキアさんは論文を執筆していた2004年頃、モーゼル地方の古木を探してあちこちの畑を歩き回ったそうです。彼女が調査した範囲で、記録に残る最古のぶどう畑はエンキルヒのエラーグルーブ。1884年に植えられたリースリングの古木がまとまって残っているそうです。現在は、カスパリ=カッペル醸造所など、複数の所有者がいます。サスキアさんの実家のリースリングで最も古いものは、ヴェーレンのゾンネンウアという畑に1905年に植えられたもの。このような樹齢100年を越えるぶどうはフィロキセラ禍(19世紀後半から20世紀初頭に欧州を襲った害虫被害)を免れたもので、自根を持っています。

ドイツ最古のぶどうの木は、プファルツ地方ロト・ウンター・リートブルクのローゼンガルテンという畑にある樹齢約400年のゲヴュルツトラミナーだと言われています。シュテファン・オーバーホーファー醸造所の先代が30年前に購入したこの畑は、収量が極端に少なく、なかなか買い手が見付からなかったそうです。植樹に関する文書は残っていませんが、30年戦争以前からある畑だと口伝されており、樹齢400年と推定されるのは、この畑の一部のぶどうの木だそうです。

 
Weingut S.A.Prüm
S.A.プリュム醸造所

サスキア・プリュムさん
サスキア・プリュムさん

モーゼル川流域、ヴェーレンの伝統ある家族経営の醸造所。プリュム家はモーゼル地方のワイン史において重要な家柄。プリュム家の名は12世紀の古文書にも記されており、当時からワイン造りに従事していた。S.A.プリュム家の興りは18世紀末に生まれたセバスチャン=アロイス・プリュム。その同名の孫が、1911年にS.A.プリュム醸造所を創業した。現在の当主ライムンドは創業者の孫に当たる。S.A.プリュム家は、ラインガウのロベルト・ヴァイル醸造所、モーゼルのDr.ローゼン醸造所、J.J.プリュム醸造所など、いくつもの著名醸造所と縁戚関係にある。所有畑は13ヘクタールですべてが斜面にあり、栽培品種はリースリングのみ。フィンランド出身のプリュム夫人は、故郷のユヴァスキュラでレストラン「Vesilinna」を経営し、彼の地でリースリングを紹介している。5代目のサスキアは、南チロルやオーストリアで醸造経験を積み、2005年から父の片腕として活躍中。ケラーマイスターはミヒャエル・ブリュームリング。ゲストハウスも経営している。

Weingut S.A.Prüm & Gästehaus
Uferallee 25-26
54470 Bernkastel-Kues
Tel. 06531-3110
www.sapruem.com


2013 Wehlener Sonnenuhr Alte Reben Riesling GG
2013年産 ヴェーレナー・ゾンネンウア アルテ・レーベン
リースリングGG 辛口ヴェーレナー・ゾンネンウア アルテ・レーベン リースリング
34.50€

S.A.プリュム醸造所はヴェーレンのゾンネンウア(日時計)、グラーハのヒンメルライヒとドームプローブスト、ユルツィヒのヴュルツガルテンなど、世界的に知られたぶどう畑を一部所有している。この「ヴェーレナー・ゾンネンウア アルテ・レーベン」は、VDPのグローセス・ゲヴェックス(辛口の最高級格付)の基準で生産。ちなみに1842年にヴェーレンにある日時計を建設したヨドクス・プリュムは先祖の1人だ。畑はデボン紀のスレート岩の風化土壌。この畑は本来8ヘクタールだったが、1954年に44ヘクタールに拡張。S.A.プリュム醸造所はそのうち4.6ヘクタールを所有。栽培されているのはリースリングの古木で、樹齢はすべて80年以上。そのうち約半分が1905年に植樹されたもの。2013年産は長い冬を経て、生育期間に遅れがあったが、その後の生育は順調だった。トロピカルフルーツを連想させる透明感のある味わい。残糖は9g/lで辛口の上限。絶妙な酸と糖分のバランスが楽しめる。


最終更新 Donnerstag, 09 April 2015 09:53
 

ゼクトの世界へ 4 ゼクトの味わい

ゼクト造りにおける最終段階に、デゴルジュマン、そしてフェアザントドサージュ(単にドサージュとも言います)の注入という工程があります。デゴルジュマンとは、伝統的瓶内発酵法で作られるゼクトの瓶口に集められた酵母の澱を取り除く作業。ドサージュとは、ゼクトに甘みを加えるリキュールのことで、ワインにサッカロース(ショ糖)、あるいはぶどうのモスト(圧搾した果汁)を溶かして作ります。

最新のゼクトの生産ラインでは、瓶口を凍結液に浸し、そこに集められた酵母を凍らせた後、ぬるま湯で洗い、ボトルを一時的に45度の角度に傾けて栓(王冠)を抜き、凍結した澱をボトル内の圧力の助けを借りて取り除きます。その後、ボトル内のゼクトの内容量を調整し、味わいに応じてドサージュを加えます。

デゴルジュマンの際には、設備や泡の状態、温度などの条件により、15~50mlのゼクトが瓶から流出しますが、生産ラインは流出したゼクトを集め、不足分を補充できる構造になっています。集められたゼクトだけでは足りない場合は、デゴルジュマン後の同一のゼクトをボトルごとラインに組み入れ、そのボトルからダイレクトに不足分のゼクトを補充することもできます。甘口のゼクトの場合は、加えるドサージュの量が増えるため、ゼクトの量をさらに減らすこともあります。

ゼクトはドサージュを加えることで、その味わいが完成します。2次発酵を経て造られるゼクトは、そのままではきりりとした辛口であるため、ドサージュを加えて様々な味わいのバリエーションを作るのです。ゼクトの味わいはワインと少し異なり、以下のように分類されます。

ゼクトの味わい残 糖
ブリュット・ナチュレ 0~3g/l
エクストラ・ブリュット 0~6g/l
ブリュット 0~12g/l
エクストラ・トロッケン 12~17g/l
トロッケン 17~32g/l
ハルプトロッケン 32~50g/l
マイルド 50g/l以上

ブリュット・ナチュレはドサージュ・ゼロとも言われ、ドサージュを一切加えないピュアな味わいのゼクトで、近年人気が出ています。

ゼクトは酵母の澱と接触している限り、品質は安定しています。ヴィンツァーゼクト(詳細は2015年1月9日発行・993号を参照)の場合は、瓶内での酵母の澱との接触期間が最低9カ月と決められていますが、意欲的な造り手たちは、優れたヴィンテージのゼクトを、3年、5年、あるいは10年と、長期間にわたり寝かせてからデゴルジュマンを行い、特別なゼクトとしてリリースすることもあります。

デゴルジュマン後は熟成に拍車がかかります。醸造家たちは、デゴルジュマン後1~3年くらいの間に味わうようにと勧めています。品質と保存状態が良ければ、デゴルジュマン後、多くの年月を経たゼクトでも、美味しくいただけることがあります。最近ではデゴルジュマンを行った年月をシールなどで表示している醸造所もあります。

 
Weingut Josef Biffar
ヨーゼフ・ビファー醸造所
(プファルツ地方)

徳岡史子さん
徳岡史子さん

ダイデスハイムの名門、1879年創業のヨーゼフ・ビファー醸造所が、魅力的なワイナリーに生まれ変わった。醸造所を刷新したのは、同醸造所の社長で自らも醸造家である徳岡史子さん。「第1の目標は美味しいワインを造り続けること。第2の目標は日本の食文化とドイツのワイン文化を繋ぎ、新たな食文化を創造すること」と語る徳岡さんは、2014年に醸造所(ヴィラ・カタリーネンビルト)に、ヴィノテークと和食レストラン「fumi」を相次いでオープンした。コンセプトは、「ドイツワインを楽しむことを主体とした和食レストラン」。冷涼な気候から生み出されるデリケートなドイツワインと、四季折々の海の幸と山の幸に恵まれた日本で生まれた和食は相性が良い。徳岡さんは両文化の架け橋として、このベストマッチングをさらに広めたいという。

徳岡さんの会社は、1989年に一時閉鎖されたライヒスラート・フォン・ブール醸造所を再建し、2013年末の経営権の契約終了まで4半世紀にわたり、その伝統と名声を守り抜いた実績がある。今後はヨーゼフ・ビファー醸造所を育てつつ、プファルツ地方のワイン文化と食文化に新風を送り込んでくれることだろう。

J. Biffar Wein & Sekt GmbH
Restaurant Fumi
Im Katharinenbild 1
67146 Deidesheim
Tel. 06326-700120
www.josef-biffar.de


2011 Spätburgunder Rosé Brut
2011 シュペートブルグンダーシュペートブルグンダー
ロゼ ブリュット 12,00€

徳岡さんはガイゼンハイム大学卒業後、10年にわたり同大学に研究者として勤務したほか、醸造責任者のミヒャエル・ライプレヒト氏とフォン・ブール醸造所時代から16年にわたり共同でワイン造りを行ってきた経験を持つ。2人が蓄積したノウハウが、新生ヨーゼフ・ビファー醸造所の魅力的なコレクションに生かされている。主力製品は伝統製法のゼクトで、生産量の8割を占める。ご紹介するロゼは、優しいサーモンピンク色で、サクランボの香りと酵母由来の美しい熟成香、フルーティーさと奥行きのある味わいが魅力的。絶妙の収穫タイミングでベースワインのアルコール度数を低く保ち、軽快さを大切にしている。瓶内発酵後は酵母の澱と28カ月間接触させた。ロゼは女性に人気の高い商品だが、史子さんのロゼには、ワイン派の男性ファンが多いそうだ。


最終更新 Dienstag, 05 Mai 2015 10:05
 

ゼクトの世界へ 3 ゼクトの製法

ゼクトはベースワインから生産される商品で、通常、ベースワインの2次発酵、つまり2度目のアルコール発酵というプロセスを経て造られます。ベースワインにフュルドサージュ(ティラージュ、ワインにショ糖と酵母を溶かしたもの)を加えることで2次発酵が起こり、その際に発生する二酸化炭素がワイン内に保たれ、泡立つワインになるのです。2次発酵によってアルコール度数が少し上がりますので、ベースワインはそれを考慮に入れて造られています。例えば、ベースワインに使用するぶどうの収穫は、ゼクトにとって大切な活き活きとした酸味が果実にまだたっぷりと保持されている、通常のワインの収穫期より少し早い時期に行われます。

大企業がリリースしている大量生産のノンヴィンテージ・ゼクトは、いくつものベースワインのブレンド(キュヴェ)の2次発酵で造られます。つまり、ブレンドの技によって、ブランドの均一な個性を出しているのです。これには複数のヴィンテージや品種がブレンドされることもあります。

個々の醸造所が少量生産しているヴィンツァーゼクトなどは、1ヴィンテージ、1品種で造られることも多く、ワイン同様、ヴィンテージの特徴が出る個性的な商品になります。

ゼクトには、大きく分けて以下の3つの製法があります。

➀大型容器発酵法(シャルマ製法)

フュルドサージュを加えたベースワインを大型の圧力容器(タンク)内で2次発酵させる方法で、均一のロットが大量生産できます。発酵後に酵母の澱を濾過して取り除き、ボトリングします。コストが安くすむため、主に大規模醸造所(ケラーライ)で実践されています。

➁瓶内発酵法(トランスヴァジア法)

フュルドサージュを加えたベースワインをボトリングし、瓶内2次発酵させた後、圧力容器内でボトルのゼクトをタンクにあけ、酵母の澱を濾過した後に再びボトリングを行います。この方法は手間とコストが掛かるデゴルジュマンに至る手作業を簡便にしますが、エチケットには「瓶内発酵」の表記が認められています。

➂伝統的瓶内発酵法

瓶内2次発酵後、個々のボトルを機械か手作業で「動瓶(ルミアージュ)」し、徐々に垂直になるよう角度を付け、酵母の澱を瓶口に集めます。その後、瓶口を凍結液に浸して澱を凍らせます。澱は栓を開ける際に炭酸ガスの圧力で押し出されます。手間とコストが掛かる製法で、ボトルにはその旨を表記することが認められています。

以上、3つの通常の製法以外に「メトード・リュラル」(リュラルは田舎の意)と呼ばれる方法があります。 南フランス・リムー地区で行われている、最古と言われるスパークリングワイン製法です。 2次発酵法と異なり、 完全発酵していないモスト(果汁)をボトリングし、そのまま瓶内でさらに発酵させます。通常、酵母の澱は除去せず、瓶内に澱が沈殿します。ドイツでもわずかながら、この方法でゼクトを生産している造り手がいます。

 
Weingut Reichsrat von Buhl
ライヒスラート・フォン・ブール醸造所>
(プファルツ地方)

グロッシェとカウフマン
グロッシェ氏(左)とカウフマン氏

ドイツの著名ワイナリーの1つ。創業は1849年。醸造所の建物は重要文化財に指定されている。宰相ビスマルク(1815~98)が同醸造所のリースリング、フォスター村の「ウンゲホイアー」を愛飲していたことでも知られる。畑面積は計56ヘクタール、リースリングの比率は約75%。このほか、シュペートブルグンダーが重要品種となっている。オーナーはプファルツ地方で広告宣伝会社を営むニーダーベルガー家で、同地に複数のワイナリーを所有している。2013年ヴィンテージからは醸造所社長にリヒャルト・グロッシェ氏、醸造責任者にマシュー・カウフマン氏を迎え、エチケットデザインも刷新。カウフマン氏は12年にわたり、フランス・アイ村のシャンパン・メゾン、ボランジェ社でケラーマイスターのチーフを務めた人物。新生フォン・ブールのリースリングは、伝統を踏襲したスタイル。残糖がほとんどなく、自然のままの酸味を残したピュアな味わい。2009年よりビオ認定。VDP会員。

Weingut Reichsrat von Buhl
Weinstrasse 18-24
67146 Deidesheim
Tel. 06326-965019
www.von-buhl.de


2013 Von Buhl Riesling Brut
2013年 フォン・ブール
リースリング・ブリュット 14,90€

ワインフォン・ブール醸造所は、伝統製法のゼクトの生産者としても名を馳せる。このリースリング・ブリュットは、昨年11月末にリリースされたばかり。シャンパンのスペシャリストであるカウフマン氏が、初めて世に問うリースリング・ゼクトということで注目を集めている。カウフマン氏はフランス・アルザス地方出身。アルザスの醸造所でリースリングの醸造経験を積んだ。リースリング・ゼクトの生産は、氏のかねてからの望みだったと言う。ベースワインは所有畑である地元ダイデスハイム近郊の砂岩、玄武岩土壌由来のものと、20年来取り引きがある南北プファルツの農家の石灰分の多い土壌由来のものをブレンド。単一品種だが、カウフマン氏のブレンド能力が発揮された。シャンパンと同じ圧搾法を採用し、1番搾りの果汁のみを使用。ベースワインは一部大型の木樽で熟成。みずみずしいりんごを丸かじりするような、フレッシュで透明感溢れる味わい。ほのかなアプリコットや洋梨の風味が魅力的。現在リリースされているものは瓶内熟成10カ月。今後リリースされるものは、瓶内熟成12~15カ月となる。


最終更新 Freitag, 13 Februar 2015 10:03
 

ゼクトの世界へ 2 ゼクトの種類

ゼクトは1度、あるいは2度のアルコール発酵を経て、実質アルコール度数が10%vol.以上、炭酸ガス圧が3.5バール以上あるワイン製品と定義付けられています。そのカテゴリは以下の5つです。

➀ゼクト(Sekt)

ドイツで生産されている最も低価格のゼクトは、外国から輸入したベースワインを使って造られています。主に、フランス、イタリア、スペイン産のベースワインを輸入し、ゼクトを製造しています。

➁ドイチャーゼクト(Deutscher Sekt)

ドイツ産のベースワインを100%使用したゼクトです。ブレンド規定はワインと同じで、異なる生産地のワインをブレンドすることが認められています。生産地表示がなければ、国内の複数の生産地のベースワインがブレンドされていることになります。

➂ゼクトb.A.(Sekt b.A.)

ドイツのある1つの指定生産地のぶどうから造られたベースワインを使用したゼクトです。クヴァリテーツワインと同じ品質管理の下、公的検査を受けています。エチケットにぶどうの生産地名を表記し、1生産地内の限定された地域のぶどうだけを使用する場合は、その地理的単位(エリア名や畑名)も補足表示することができます。

➃ヴィンツァーゼクト(Winzersekt)

個々の醸造所や協同組合が生産したぶどうから造られたベースワインのみを使用し、伝統製法によって造られるゼクトです。ゼクトb.A.の条件を満たしており、デゴルジュマンまで最低9カ月間、酵母の澱と一緒に熟成させます。より高品質のゼクトを生産するため、デゴルジュマンまで数年にわたって熟成させる生産者もいます。エチケットには醸造所、品種、ヴィンテージの表記が義務付けられています。個性的な商品が多く、大手生産者もこのトレンドを追い掛けています。

➄クレマン(Crémant)

クレマンはシャンパーニュ地方以外で生産されている伝統製法(瓶内2次発酵法)のスパークリングワインの名称で、フランスのほか、ベルギー、ルクセンブルクで使用が認められています。ドイツではゼクトb.A.のカテゴリに属する製品の1つで、同じく伝統製法で造られます。ヴィンツァーゼクトと同様デゴルジュマンまで最低9カ月間、酵母の澱と一緒に熟成させるなど、いくつかの規定をクリアしなければなりません。その規定はヴィンツァーゼクトよりも細かく、圧搾方法や圧搾して得る果汁の量、地域別に使用可能な品種も決められています。エチケットには、ぶどうの生産地を併記することができます。

《パールワインとは?》

パールワイン(Perlwein /ペールヴァインと発音)はゼクトと似た商品で、1990年代頃から注目され始めました。ゼクト税が掛からないため、通常のゼクトよりも安価で、現在大人気を博しています。ドイチャーワインあるいはクヴァリテーツワインから生産し、炭酸を注入することが可能です。炭酸ガス圧はゼクトより低く、1~2.5バール。すでに多くの醸造所の定番商品となっており、その多くが「セッコ(Secco)」という名称で販売されています。ドイツで人気の高いイタリア産のプロセッコをもじった名称です。

 
Weingut Fitz-Ritter & Sektkellerei Fitz KG
フィッツ=リッター醸造所&ゼクトケラーライ・フィッツ社
(プファルツ地方)

ヨハン・フィッツ
現在のオーナー、ヨハン・フィッツ(左から3人目)
父親コンラット・フィッツ(同5人目)

フィッツ=リッター醸造所は、創業1785年の家族経営の醸造所。先代には、1832年の「ハンバッハ祭」に参加したヨハネス・フィッツがいる。当時、プファルツ地方はバイエルン王国に属し、このドイツ初の大規模な政治集会には、あらゆる階層の地元民が結集して王国の圧政に抗議、1848年のドイツ革命への1つのステップとなった。現在、醸造所を率いるヨハンはカリフォルニア留学を経て2007年に醸造所を継いだ。所有畑は25ヘクタール。ワインは欧州連合(EU)のビオ認証を得ている。ミッテルハート地区の特級畑ミッヒェルスベルク、ヘレンベルク、1級畑シュピールベルクなどを所有(いずれもVDP格付け)。2013年にはヴィノテークをオープン。博物館を兼ねたセラー「Oenosphère(エノスフェール)」の見学が可能。

Weingut Fitz-Ritter & Sektkellerei Fitz KG
Weinstraße Nord 51
67098 Bad Dürkheim
Tel. 06322-5389
www.fitz-ritter.com
www.oenosphere.de


2007 Dürkheimer Abtsfronhof Chardonnay Crémant Brut
2007年 デュルクハイマー・アプツフロンホーフ、シャルドネ、
クレマン・ブリュット 18.00€

ワインフィッツ家とスパークリングワインとの関わりは深い。前述のヨハネス・フィッツは1834~35年にランスでシャンパンを生産していた人物。1837年にはプファルツ地方初の「シャンパン」を生産し、バイエルン王室に提供していた。現在も醸造所とは別に、ゼクトケラーライ・フィッツ社を経営。ラインラント=プファルツ州最古のゼクトメーカーで、開業当初から現在に至るまで、リースリングとブルグンダー種のゼクトを生産している。このクレマンは、同醸造所のモノポールである石灰岩質土壌のアプツフローンホーフのシャルドネを使ったもの。1840年当時のエチケットデザインを現在も使用している。同社のクレマンは2006年ヴィンテージからスタート。必要に応じてデゴルジュマンを行っている。現在出荷されている2007年ヴィンテージは、5年にわたって酵母の澱とともに瓶熟成されたもの。柑橘系の風味と焼き立てのブリオッシュのほのかな香り、滑らかなテクスチュアが魅力だ。


最終更新 Mittwoch, 14 Januar 2015 12:59
 

ゼクトの世界へ 1

ドイツのスパークリングワイン(ゼクト)市場は世界最大。消費量は年間4億本以上と言われ、全世界で生産されている20億本のスパークリングワインの5分の1以上がドイツで消費されています。本連載第31回で、シャンパンと同じ製造方法である伝統的瓶内醗酵のゼクトについて解説しましたが(819号2010年6月4日発行)、今号からは、ドイツの多彩なスパークリングワインの世界をさらに詳しくご紹介します。

シャウムヴァインからゼクトへ

シャンパンはフランスで誕生した当初、ヴァン・ムスー(泡立つワイン)と呼ばれていました。それをシャウムヴァインとドイツ語に直訳したのは、ゲーテと親交のあった18世紀の思想家ヨハン=ゴットフリード・ヘルダーだったと言われています。並行して、シャンパンという呼び名も広まりました。19世紀に入ると、「シャンパン」と呼ばれることが多くなり、ドイツ各地にシャンパン醸造所が誕生します。当時、本場シャンパーニュ地方でシャンパン製造に携わっていた技術者の中にはドイツ人も多く、泡立つワインをめぐってフランスとドイツの間には技術交流があったのです。

第1次世界大戦後の1919年、講和条約であるベルサイユ条約が締結されます。この条約にはライン川左岸の非武装化やアルザス=ロレーヌ地方のフランスへの返還などといった条項のほかに、「ドイツ製品はフランス名を使用できない」という条項も盛り込まれていました。これによって最も打撃を受けた製品が、フランス語の商品名を名乗っていたドイツ産のシャンパンとドイツ産のコニャックでした。そのため、この条項を「シャンパン条項」と呼ぶこともあります。以後、ドイツのスパークリングワインは徐々に「ゼクト」と呼ばれるようになります。

では、ゼクトという呼び名は、いったいどこから来たのでしょうか。その由来は、シェークスピアの『ヘンリー4世』のワンシーンだと言われています。19世紀前半、ドイツにルードヴィヒ・デヴリエンという舞台俳優がいました。彼はベルリンのジャンダルメンマルクト近くのシャルロッテン通り49番地にあった「ルッター&ヴェーグナー(Lutter & Wegner)」というワイン酒場の常連だったそうです。

ある夜、デヴリエンは『ヘンリー4世』の大酒飲みの騎士ファルスタッフ役を演じ終え、このワイン酒場にやって来ました。まだファルスタッフ役から抜けきれない彼は、酒場の主人に劇中のセリフで飲み物を注文します。そのセリフとは「Give me a cup of sack!」。「sack(サック)」はシェリー酒のことですが、酒場の主人は、彼が無類のシャンパン好きであることを承知していたので、代わりにシャンパンをサービスしました。以来、その店ではシャンパンのことを「サック」または「ザック」と呼ぶことが流行り、それがいつしか訛って「Sekt」になったのだそうです。

当初、ゼクトという呼び名はこの酒場の常連たちの間だけで使われていましたが、やがてそれがベルリン中に、そして1900年頃にはドイツ中に広まったと言われています。ちなみに1811年創業の「ルッター&ヴェーグナー」は、シャルロッテン通り56番地で復帰営業しており、現在はベルリン市内各地やハンブルクなどにも支店があります。

 
Weingut Dr. von Bassermann-Jordan
ドクター・フォン・バッサーマン=ヨルダン醸造所
(プファルツ地方)

クラウス&ズザンネ・ルンメル夫妻

フランス・サヴォワ地方出身のヨルダン家が1718年に創業した醸造所。1783年にダイデスハイムで開業した。2002年からは、ノイシュタットの企業グループ、ニーダーベルガー社の所有となる。同醸造所のワインは、ヨハン=ヴォルフガング・ゲーテやヴィルヘルム・ブッシュなどが愛飲していたことでも知られる。現在は20の単一畑に自社畑を所有。その合計は49ヘクタールに及ぶ。1996年ヴィンテージから醸造責任者を務めるウルリヒ・メルの、テロワールの個性を最大限に引き出したリースリングは、いずれも奥行きと深みがあり、エレガントな仕上がり。ブルグンダー品種からも個性豊かなワインを生産している。2011年からはアンフォラで「ピティウム(Pitium)」の白(ムスカテラとゲヴュルツトラミーナーのブレンド)と赤(カベルネソーヴィニヨン)を醸造。アンフォラでの醸造には、酸の量が控えめの品種が向いているという。いずれも繊細な風味を保った優しい味わいのワインに仕上がっている。VDP会員。

Kirchgasse 10, 67146 Deidesheim
Tel. 06326-6006
www.bassermann-jordan.de


2007 von Bassermann-Jordan Riesling brut nature
2007年 フォン・バッサーマン=ヨルダン
リースリング ブリュット・ナチュレ 21.90€

ワイン同醸造所では、ウルリヒ・メルが醸造責任者に就任してからゼクトの生産を開始した。コレクションは7種類。すべて伝統製法で造られている。2007年産リースリング、ブリュット・ナチュレは醸造所初のヴィンテージ・ゼクト。長年酵母と一緒に寝かされ、偉大なゼクトと称されるにふさわしい複層的な風味を獲得している。ブリュット・ナチュレは味わい(甘さ)を調節するリキュールを加えないゼクト。2007年は良いヴィンテージで、豊かな酸味を保ったリースリングを十分に収穫できた。そのため、ウルリヒはダイデスハイムのパラディースガルテンのリースリングの一部をゼクト用にキープしておいたという。初リリースは2010年。2012年以降は、クリスマスシーズンに600本ずつデゴルジュマン(澱抜き)を行っている。シャンパン派には、ピノノワール、シャルドネ、ピノブラン(比率60:30:10)のブレンドから造られるノンヴィンテージ・ゼクト「ピエール」ブリュット(18.90ユーロ)がお勧め。


最終更新 Mittwoch, 10 Dezember 2014 12:50
 

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