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醸造の手法 ゼクトの場合

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この章ではゼクト(Sekt)の製法をご紹介しましょう。ゼクトはベースワインをさらに発酵させて造ります。二次発酵と呼ばれる2度目の発酵は、タンク内で行う場合と、瓶内で行う場合(伝統的瓶内発酵法 / シャンパンと同じ製法)があります。ここでは後者をご紹介します。

シャンパンと同等のゼクトを醸造する場合は、収穫後、除梗や破砕をせずに圧搾します。シャンパンにならい、ぶどう4000キログラムにつき一番搾り果汁(キュヴェ)を2050リットル、続いて二番搾り果汁(タイユ)を500リットル圧搾し、それらを別々に醸造している醸造所もあります。

ベースワインの醸造法は白ワインに準じます。ヴィンテージ別、品種別、醸造所によってはキュヴェ、タイユ別に、様々なベースワインのコレクションが出来上がったら、これらをモザイクのように組み合わせて試飲を繰り返し、最終的なアッサンブラージュを決めます。1つのヴィンテージや、1つの品種から造られるゼクトもあります。

ブレンドが決まったら、大型タンクにベースワインとティラージュ(ベースワイン、酵母、規定量の砂糖の混合液)を加え、撹拌します。これをボトリングして王冠などで栓をし、温度管理したセラーで二次発酵させます。このとき瓶内で発生した炭酸ガスがゼクトの泡となります。通常のゼクトであれば瓶内二次発酵時も含めて最低6カ月、ゼクトb.A.(Sekt b.A)といわれる原産地呼称ゼクトの場合は最低9カ月、酵母滓を取らずに寝かせておきます。2〜3年、あるいはそれ以上の長期にわたって寝かせる場合もあります。

その後、ピュピトルと呼ばれる専用台に瓶を差し込み、毎日一定の角度をつけながら左右に動かし、酵母滓を瓶の口に集めます(ルミアージュ)。手作業の場合は長くて21日間かかります。ジロパレットと呼ばれる機械を使用すれば、数日から約1週間で終了します。ルミアージュを行って瓶口に集めた酵母は王冠を外して取り除きます。その場合、瓶口の酵母を急冷却して凍らせることもあります。最後にリキュール(ドサージュ、加えない場合はドサージュ・ゼロ)を加えてコルクを打ち、アグラフェと呼ばれる針金の留め具で固定します。ドサージュに含まれる糖分の量が、ゼクトの味覚(ブリュットなど)を決定します。この一連の作業をデゴルジュマンと言い、その行程は機械化されていますが、手作業で行っている醸造所もあります。

ただし、上記の伝統製法で造られるゼクトはドイツ産ゼクトのごく一部で、それ以外はタンク発酵法(シャルマ製法)で造られています。また、瓶内二次発酵ではあっても、デゴルジュマンの手間を省くため、出来上がったゼクトを加圧タンクに戻してフィルターで酵母を取り除き、再度ボトリングする方法(トランスファー方式)がとられる場合もあります。

ところで、ドイチャー・ゼクトとは、100%ドイツ国内で収穫されたぶどうを使用しているゼクトのことです。ゼクトb.A.(Sekt b.A.)と表記があるものは、各々の指定生産地域内で収穫されたぶどうから造られています。ゼクトb.A.のうち、ヴィンツァーゼクトは、生産者元詰めであり、瓶内二次発酵であることなどが義務付けられています。クレマンは地域ごとに使用品種が限定されており、ヴィンツァーゼクトより厳しい基準が設けられています。このほか、ゼクトより圧の低いパールワイン(ペールヴァイン / Perlwein)と呼ばれる製品もあり、セッコ(Secco)と呼ばれています。ゼクトへの炭酸注入は禁じられていますが、パールワインの多くは炭酸を注入して製造されています。

St. Laurentius Sekt ザンクト・ラウレンティウス醸造所
(モーゼル地方)

ザンクト・ラウレンティウス醸造所

モーゼル地方ライヴェンにある、優れたゼクトで知られる醸造所。1982年に父の醸造所を継いだオーナーのクラウス・ヘレス氏は、試行錯誤しながらシャンパン製法のゼクト造りに取り組み、現在の地位を築いた。ギーゼラ夫人、2人の娘カチアさん、ナディーヌさんの家族全員で魅力的なゼクトの数々を生み出している。モーゼル地方のライヴェンとシャンパーニュ地方のメスニル・シュール・オジェール両村が姉妹村提携を結んでいる関係から、シャンパーニュ地方と緊密な情報交換を行っている。現在、所有畑は3ヘクタール。自社ブランドのゼクトはすべて伝統製法で年間6万本を生産。ほかの醸造所のゼクト生産も請け負い、こちらは年間約30万本を生産している。昨年5月に、プチホテル&レストラン/ヴィノテーク「Sektstuuf」もオープン。

Laurentiusstraße 4, 54340 Leiwen
Tel.06507-3836
www.st-laurentius-sekt.de


2007 Spätburgunder Rosé Brut Cuvée Nadine
2007年産キュヴェ・ナディーヌ、シュペートブルグンダー・ロゼ(ブリュット)

11,50€

2009 Lorcher Spätburgunder
Weißherbst Kabinett halbtrocken

モーゼルの伝統品種であるリースリングやエルブルングのゼクトも魅力的だが、今回ご紹介するのは、娘のナディーヌさんが手掛けたシュペートブルグンダー(ピノ・ノワール)。やや濃いめのサーモンピンク、酵母の働きによるフランスパンのような香りと、フレッシュな苺の香り、フルーティでふくよかな味わい、クリーミーな泡立ち。このゼクトがあれば、ほかに何もいらないと思えるような充足感で満たされる素敵なゼクト。
 
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岩本順子(いわもとじゅんこ) 翻訳者、ライター。ハンブルク在住。ドイツとブラジルを往復しながら、主に両国の食生活、ワイン造り、生活習慣などを取材中。著書に「おいしいワインが出来た!」(講談社文庫)、「ドイツワイン、偉大なる造り手たちの肖像」(新宿書房)他。www.junkoiwamoto.com
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