ドイツ人と仲良く付き合う


Nr. 10 大家さんはこんなところを見ている!

仲良く付き合うドイツ語圏の4月は大掃除の季節。ドイツの主婦が一生懸命に家を磨きたてる季節です。ご近所の方々を見ているだけでプレッシャーを感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そこで今回のテーマは、ドイツ人の大家さんを安心させるコツ。日本と同じで、法律で間借り人が大変保護されているドイツです。常識のない人に家を貸してしまっても、大家側としてはなかなか出ていってもらう手立てがありません。大きな会社ではなく、例えば老後の生活費の足しに、といった感じで個人的に持ち家を貸している人の中には、ついつい心配になって覗きにいっては、うるさいことを言ってしまう人も多いようです。

うるさい大家さんに出会ったとしても、ほとんどの場合は資産の価値低下を恐れているだけ。西洋家屋のメンテナンスの常識さえ少し知っていれば、回避できるトラブルも多いと思います。

まず大切なことですが、大家さんには、いくら自分が所有しているといっても一度人に貸した家の中に勝手に入っていく権利はありません。人に貸している家の中をチェックしたいときは、必ず事前に住人の許可を得て日時を決めることになっています。留守中、勝手に侵入することが許されるのは、火事やガス漏れ、あるいは犯罪や事故などの緊急事態が発生している恐れのあるときだけ。時々、人の留守中に黙って合鍵を使って入ってしまう大家さんの話を聞くことがありますが、これは「不法侵入(Hausfriedensbruch)」として抗議すべきことです。

ともあれ常識的な大家さんならば、まずは外側からいろいろと眺め、気を揉むだけでしょう。国籍、男女を問わず借り手として次のような点に初めから気をつけていれば、多くのトラブルが避けられると思います。

まず家賃はできる限り、月初めの第3営業日までに自動送金(Dauerauftrag)されるように手配しておく。メンテナンス意欲があるところを早めにアピールする。場合によっては契約を結ぶ前から他の住人との共有空間である階段、玄関、廊下、物干し場などの掃除やごみ出し日のルールを聞いておく。仕事が忙しいから自分では掃除ができないと思ったら、人を雇うことにするか、あらかじめ掃除サービスがついている家に入る。

窓の状態は、家の中に入ってメンテナンス状態を確認できない大家さんにとって大きなポイントになっています。窓ガラスは少なくとも1カ月に1度くらいの間隔できれいに磨いておく。そのときは、外側の窓の桟なども一緒に洗っておくとよいでしょう。都会ならば、周りには窓ガラスをあまり気にしない人も多いかと思いますが、地方都市や閑静な住宅街では、ある程度近所のリズムを参考にすること。フランスやイタリアなどとも違って、窓ガラスの向こうに見えるカーテンも、すそに鉛のおもりを入れてひだがきっちり、まっすぐ下りるようになっていたり、ひだのひとつひとつを待ち針や専用のピンでとめている人もあるくらいですから、外側からカーテンがよれていたりするのが見えると、特に年配の大家さんはアラーム状態になる危険がありますので注意しましょう。

たまたま大家さんが何かの用で家の中に入ってきたり、あるいは自分が家を出る時点で文句を言われたとしても遅いのは、洗面所、トイレ、シャワーなど水周りのカルキ汚れ。ドイツの水は硬質ですので、きれいに水で洗っていてもすぐに外見が汚くなります。そこで対策ですが、洗面台は使った後で専用の古タオルなどでからぶきしておけばいいでしょう。そして1週間に1度くらいは洗剤液にお酢を加えてきれいにします。お手洗いも、定期的に酸性洗剤でそうじをすることをお勧めします。シャワー室内の壁のタイルも、金属の取っ手、蛇口、水道船なども1週間に1度程度は酸性の洗剤で洗った後、からぶきをしておかないと、数カ月もしないうちに、1回や2回の掃除では取れないような石灰の膜がこびりついてしまいます。水できれいに流した後、まめに水滴を布でふきとっておかないと、傷をつけずに石灰を取ることができなくなってしまうのでやっかいです。(ただし、大理石に酸性洗剤は厳禁です)

それからフローリングをしている床の傷。板敷きは頑丈、などと思って乱暴に扱わないでください。とてもデリケートな材質です。これに傷がつくと、次の人に貸しにくくなったり、家賃のレベルに大きな影響が出ます。戦前などの古いパーケット板であれば、表面を削ることもできますが、新しいものは薄いので、全部張り替えなくてはならなかったり、修復にはかなり費用がかかります。ですから、ドイツでは椅子や家具を動かすときなどには絶対にひきずらないように気を遣うものです。椅子を動かすことの多い食卓や書斎の机の下には、じゅうたんを敷くなどして工夫をしたり、細いヒールのハイヒールでは歩かない人が多いのです。昔はフェルトの上履きを靴の上に履いたものでした。また水にも弱いので、何かをこぼしたら、すぐにふき取るようにします。

留守中の郵便受け。これは留守中に郵便物や新聞などがあふれないようにしなくてはいけません。あふれている状態を放置すると、泥棒をおびき寄せますので、集合住宅では、みんなで注意しあっているところも多いはずです。手配をしないで家を空けると、泥棒を恐れた建物の他の住人がはみ出ている郵便物を勝手に抜き取っていた、などということにもなりかねません。数日出かけるような場合には、事前にご近所とコミュニケーションをはかり、信頼できる人に郵便受けの鍵を預けるようにすればいいでしょう。

庭つきの家を借りた人は、芝刈り、生垣の手入れなど、まめにやっておくこと。手入れが悪いと、景観を損ねたという理由から、隣近所の家賃にまで影響が出る危険があります。逆に庭でよく働いていれば、いかにも働き者に見えて、周りの信頼を集めることは確実です。

大家さんも安心できれば、そううるさく言ってこないはず。感じのよい相手なら、クリスマスなどにはグリーティングカードを出せば喜ばれます。信頼第一。大掃除の季節、みなさん、がんばりましょうね!

  ひとこと“Wie wird hier das Treppenhaus geputzt?”
“Was benutzen Sie denn da?”

(この家の階段、廊下はどういう風に掃除することになっているのでしょう。何を(どの洗剤、どんな道具)使っていますか。)
各戸交代の掃除当番がある集合住宅では、掃除の仕方にも「くせ」があることが多いので、確実な情報入手はトラブル回避の第1条件。石灰の含有量の高い石畳は、絶対に酸性洗剤を使ってはいけないことになっていますし、木製の階段や廊下にも大家さん好みの洗剤ブランドがあったりしますから、長く住んでいる人にあらかじめ詳しく教えてもらいましょう。
 
最終更新 Mittwoch, 05 Oktober 2011 11:49
 

Nr. 9 DuとSieの使い分け

仲良く付き合うどこの国にいっても敬語や丁寧語の類は使い方が難しいものですが、ドイツではDuとSieの使いわけに気を遣われる方もいるでしょう。いろいろな本には、日本語で「ですます調」以上の敬語を使う相手ならばSie、それよりも親しい間柄であればDu、とありますが、実際の生活ではいったいどうやって使えばよいのでしょうか。ドイツでも、最近は英米や北欧諸国の影響で、次第にDuとSieの使い分けのルールがあいまいになってきていますが、基本的にはまだまだいろいろな決まりがあります。

基本的な使い方については、まず一世代くらい昔の常識に遡って考えるといいかもしれません。昔は大人同士であれば、家族、親族、親友、恋人を除き、すべてSieで話すことが常識、とされていました。Sieで話すことはsiezen、Duで話すことはduzenという動詞で表現し、どんな間柄か人に説明するときには、“Wir siezen uns”あるいは“Wir duzen uns”と言えば、大体の感覚がつかめたものです。

日本語の敬語とちょっと違うのは、SieとDuは、上下関係を示すものではなく、2人の人の距離を示すものである点です。ですから、昔は主人が召使いに、大学教授が学生に対して何か話すようなときでも、相手が大人である限りは必ずSieを使ったものでした。

最近ではルールがずいぶんとゆるくなってきて、ご近所や会社の同僚同士でDuを使う場面も増えていますが、おおもとのルールはこんなものなので、当然面識のない大人同士が公式場面で話すときは必ずSieです。

お店や役所などの公の場で人と話す場合は、当然Sieと言うべき、言われるべきであり、もしここで相手がDuで話しかけてきたら、“Seit wann duzen wir uns?”(いつからDuの関係でしたっけ?)と聞き返して、本来Sieの関係であることをはっきりさせるべきでしょう。もちろん日本人でも、相手が外国人の場合、特に仲が良いわけでもないのに、相手をファーストネームで呼んでしまう人が多いと思いますが、相手に必ずしも悪意はなくても、なれなれしい関係を望んでいないのなら、ひとまず一線を引いたほうがいいと思います。

何しろドイツ人同士では、相手が明らかに小さな子どもでない場合は、今でもDuへの移行は相手の了解が必要なことだからです。その場合、「Duにしましょうよ(lassen Sie uns doch duzen)」というのは同性であれば年上、異性同士であれば女性のほう、会社では同性異性に関係なく上司、ということになっています。このことを「Das Du anbieten」 といいます。Duにしましょう、と持ちかけられて、承諾したい場合は、「Ja gerne, ich heiße ○○」といって自分のファーストネームを紹介し、握手のために手を差し出すのがクラシックな手順。たいていの場合は、相手もそこでファーストネームを教えてくれます。もちろん遠慮したい場合は、「Ich bleibe doch lieber beim Sie」(そうですね、でもやっぱりSieのほうがいいです)と言って断ることもできます。

Duに切り替えることを記念して、一緒に飲みに行くべきだ、と考えている人もいて、「Da sollten wir darauf anstoßen!(杯を交わそう)」と誘われることもあるでしょう。それだけ、SieからDuへ移行することは「友情を確認する」という意味で重大だ、と考えている人もいる、ということです。Duは、あくまでも本人どうしの取り決めですので、ご主人あるいは奥さんのどちらかとduzenするようになっても、必ずしも夫婦ぐるみでduzenする関係にはならない、という点も気をつけなくてはなりません。やはり機会をみて、duzenするように話をもっていかなくてはならないでしょう。

ご近所やPTA、クラブ活動などでは、Duを持ちかけられたら、自分もDuに切り替えることがおつきあいの輪を広げるよい機会ですが、難しいのが職場での対応。これはドイツ国内でも賛否両論あって、ビジネス雑誌などでもよく取り上げられているテーマです。

SieとDuの関係の違いは、Duであれば、互いに心情的なこと、個人的な意見をぶつけ合ってもよい、という感覚がある点です。互いにある程度甘えた、無理を頼んでもいい関係になる、という感覚をもっている人もいます。給与交渉とか、職場でのトラブルを話し合う場合、上司と部下がDuの関係にあると、かえって事態が複雑化する、という印象をもっている人が多いのはそのためです。支持派は、Duの方がSieよりも互いに言いにくいことも言えるからオープンでいいし、経営の透明性を促進する、と言いますが、これは本当に人それぞれの判断、好み、性格によるでしょう。英米系の会社では、ドイツ子会社においても上司が自分をファーストネームで呼ばせるように奨励しているところも多いようですが、ファーストネームで呼び合った上で、社員同士Sieを使っているところも多いようです。仕事上の案件を話し合おうと思ったのに、相手の個人的な悩みを打ち明けられてしまい、強いことが言えなくなってしまった、という事態はduzenしてしまった人がよく訴える悩みです。

面白いのが学校での対応です。学校では、低学年は先生にduzenされ、子どもは大人である先生に対してSieを使うのが普通ですが、16歳頃から、先生が生徒に対して公式にSieに切り替えるのです。これはそれまで相手をduzenしていたのは、特に個人的な親しさを表していたものではなく相手が子どもであったからで、これからは相手を大人扱いすることになり、教師と生徒の関係は公式の関係である、ということを確認する行為なのです。

ですが、duzenできる友達を身近にもっていると、siezenしている場合とは違った仲間としての情報も教えてもらえるようになることは確か。相手が外国人に対してDuを持ちかけてもよいか遠慮しているような気配が見えたら、「Wir können uns ruhig duzen, ich heiße ○○」といって、こちらから積極的にDuを提案してみてはいかがでしょう。

ひとこと

Seit wann duzen wir uns?

見知らぬ相手がなれなれしくDuで話しかけてきて不快感があった場合、突き放すときに使われるせりふです。職場でDuを持ちかけられ、距離をおきたい場合は、にこにこしながらIch bleibe doch lieber beim Sieといえば、失礼になりません。
最終更新 Donnerstag, 27 August 2015 16:19
 

Nr. 8 職人さんに修理を頼む

仲良く付き合うドイツの貸家に住んだことのある方なら、賃貸契約書にも書いてあるのでご存知のことと思いますが、「家の手入れ」はドイツ語圏では非常に重視されている事項です。

改修の手順や条件が微細に決められている分、家屋のメンテナンス状態がよいのはいいことですが、ちょっとしたことであっても必ず業者を呼ぶことになり、実際に修繕を頼んだ時に、カルチャーショックを受ける方も多いと思います。「誇り高きドイツ職人」は、グローバル化した近代的サービス社会とは別世界に身を置いていることが多く、彼らとの付き合い方は、普通のドイツ人でもコツをつかむまでは年季を要するようです。なので相手が無愛想だったり、サービスの感覚が違っても、異次元にワープしたつもりになって、あまり気にしないように。

ですが、あとで面倒なことにならないよう、知っていると便利な「コツ」はいくつかありますので、その中の何点かを取り上げてみます。もちろん、法律的なことではなく、一主婦としての体験に基づく話ですので、多少の主観や偏見はお許し下さい。

まずは業者の選び方ですが、当然ベストは口コミか知人の紹介。ですが、よほどささいな修繕でない限りは、必ず他にも1、2軒にあたってみて、相見積もりを出してもらう べきです。

電灯の取り付けなど、数分しかかからず、内容がはっきりしているなら、時給はいくらで総額はどの程度になるのかを口頭で確認するだけで、その場で発注することもできますが、それ以外の場合、最初に入れた電話では、大雑把に事情を説明し、出来るだけ早く誰かに見積もりに来てほしい、と頼みます。もちろん、お店に電話をかけたつもりが、電話番をしているおかみさんが登場し、背後で子どもの泣き声がしながら「本人が夕方帰ってから折り返します」など言われることもあります。得てして大きな会社の方が信頼できるような先入観があるかもしれませんが、このような30歳代の「駆け出しマイスター」がじきじきに奔走している小さな会社のほうが、お客を大事にしようという意欲があるケースも多く、家に呼んで意見を聞いてみる価値は十分あると思います。

見積もりにきてもらえば、相手がどの程度約束を守る会社なのか(時間にルーズな会社は全く珍しくありませんので、ポイントは自分の許容範囲内か否か)など、相手の信 頼性を判断する上でのヒントが得られます。

客は、頼みたい作業を具体的に説明し、口頭でおおよその算出ベースを教えてもらいます。ここで言葉を濁すような相手はもちろん要注意。材料費、実際の所要時間ベースで事後清算する作業量、一人当たりの時給、というように、その会社の具体的な清算基準を教えてもらいましょう。ものすごくお得な料金を提示してくれた場合は、紙に書いておいてもらえば、あとで証拠になります。もちろん、教えてくれた料金が、19%の付加価値税も含んだ金額であるのかどうか(Ist das Brutto?)と聞くこともお忘れなく。話を聞いたあとで、見積書(Kostenvoranschlag)を送って下さい、と頼むかどうかは依頼主の判断次第です。

この段階で初心者がよくやる失敗は、せっかく見積もりにきてもらったのに納得できるまで相手に質問をしないこと。細かく聞くのはケチなように思われて恥ずかしいとか、無知が露呈してなめられるのではないか、などと変に遠慮して疑問を残したまま発注すると、「金に糸目をつけないお客」との印象を与えてしまう危険性があります。取引先として職人さんと対等に渡り合おうと思ったら、彼らの世界では釘の一本までも見落とさず、無駄にせず、しっかりと勘定する人を重んじる気風があるということを知っておくべきでしょう。

発注先が決まれば、工事の日程を設定することになりますが、事前に大体の所要時間を聞いておき、工事中は誰かが家にいるようにするのがベスト。請求書には人件費が大きく反映されますから、不要な人員に気づいたら遠慮なく指摘しましょう(1人1時間あたり60ユーロを超えることも珍しくありません。もちろん、彼らの手取りはその3分の1程度だそうですが)。

一般的な労働パターンは、朝の8時前後に仕事を始め、午前中に小休憩が入り、約1時間昼休みが入って、午後の4時前後に終わる、というものです。ただし自営業者であるマイスター自身には労働時間制限はないので、遅くまで残って仕事をしてくれることもあります。作業が終わったら、いよいよ発注者が仕上がりを承認することになります。これがAbnahme(作業仕上がりの承認)と呼ばれる手続きです。

うまく仕事ができているかどうか、しっかりその場で確認し、疑問点があれば、その場で指摘します。作業終了後、たいていの場合は、何人で何時間、何をした、ということを明記させる確認書にサインを求められますので、そこでも書かれていることに間違いがないかどうか、チェックする必要があります。

何か不満があっても、サインやお金を払ってしまったあとでは、なかなか取り返しがつかないという点をお忘れなく。疑問や不満が残る場合は「Das (Diese Arbeit) kann ich so nicht abnehmen」(この仕事では認められない)といって支払いを拒絶し、マイスターを呼び出し、直接事情説明を求め、やり直させるか、割引交渉をする必要が出てきます。Abnahmeや事後交渉は当日でなくてもかまいません。発注者がカップルであるような場合は、下見や発注は、作業中家を空けることになる方が依頼主となって動き、あらかじめDie Abnahme kann ich erst am Abend(あるいはnaechsten morgen)machenと断っておいて、作業を行った日の夕方や翌日の早朝など、サラリーマンの都合に合わせた時間帯にマイスターに出直してきてもらうことも、ごく一般的に行われています。事前にこの点をはっきりさせておけば、「留守中に作業が終了し、仕上がりも承認された」といったことが一方的に主張され、文句がいえなくなる事態 が回避できるだけでなく、作業終了後、仕上がりを2人で 存分にチェックする時間も稼げるので、お勧めです。

  ひとことDiese Arbeit kann ich so nicht abnehmen.
このような仕上がりでは(納得いかないので)、完了したとはみなせません。
 
最終更新 Mittwoch, 05 Oktober 2011 11:51
 

Nr. 7 大人の誕生日

仲良く付き合う新しい年になって「今年こそはドイツ人との親睦を深めよう」と決意を新たにされた方も多いかと思います。

そこで今日のテーマは、「大人の誕生日」。社会人として職場や近所でドイツ人とお付き合いする上で、実はとても大きな役割を果たしているのですが、意外に見落とされることが多いようです。日本的な感覚で「お誕生会」と聞けば、親戚や友人に祝ってもらうプライベートなイメージがあって、「子どもっぽい」と感じやすいからでしょうか。ですが、ドイツ語圏での誕生日は、誕生日を迎えた本人が、それまでお世話になった人に大盤振舞いをするような、れっきとした公式イベントとして期待されていることが多いのです。

南ドイツの農村に行けば、今でもいたるところで誕生祝いの原型に出会うことができます。農家の主が40歳、50歳、60歳といった「丸い誕生日(Runder Geburtstag)」を迎えると、敷地の周りの垣根には色とりどりの風船が飾られ、紅白の短冊をつけた高さ4~5メートルもある一本杉が門の前に立てられ、迎えた年齢の数と同じ数字の時速制限の交通標識が玄関に掲げられます。お祝いの当日には中庭、納屋あるいはガレージに、大きなビアガーデン用のテーブルがいくつも並べられます。親族、知り合い、近所の人が仕事の合間に姿を現しては祝辞を述べ、誕生日を迎えた本人 (das Geburtstagskind)はそのお礼としてバイキング形式で準備された飲食を振舞います。

40、50、60歳の恰幅のよいドイツ人男性が、可愛らしい風船を何十個も家に飾っていることを不思議に思われる方もあるでしょうが、何を隠そう、ゴム風船の前身は豚の膀胱(ぼうこう)。お祭りのたびに風船が登場するのは、祝い事があれば豚を屠殺し、村中に「大盤振舞い」をする風習があったからなのです。ごちそうにする豚の数が多ければ多いほど、子どもに与えて遊ばせたり、家の前に掲げる豚の膀胱もたくさんあったわけです。

農村の誕生日の大盤振舞いには、招待状はありません。家の前に大きな杉の木が立ち、風船が出ている間は、顔見知りならば誰でもいつでも家に上がりこみ、お祝いを述べた後に好きなだけ飲み食いをし、家の人としゃべっていけばよいことになっており、自分を大切に思ってくれている人全員が都合をつけられるよう、 数日間続けて祝う人も珍しくありません。

都会ではもちろん、自宅を開放するような「大盤振舞い」は姿を消していますが、考え方の基本は同じです。めでたく誕生日を迎えた者は、自分の社会的地位相応の「福分け」を期待されています。

子どもであれば、学校にお菓子を持参して同級生に分け、友だちを家に招待したり、社会人であれば、親しい人を自宅やレストランに呼ぶほか、職場では同僚にサンドイッチやお菓子を食べてもらうことになります。

オフィスのドイツ人秘書が、ある日突然デスクの上に大量のケーキやサンドイッチを並べてみんなに配っているので驚いた日本人駐在員の方もおられるかと思います。こんな場合は、「今日はあなたの誕生日ですか」 と聞き、肯定されたら「おめでとう(Herzlichen Glückwunsch)」と祝ってあげ、勧められたものは遠慮なくいただけばよいのです。中にはシャンペンを開けている人もいますが、もし日本企業が職場での飲酒を絶対に容認したくない場合は、あらかじめ「この職場では祝い事があってもアルコールは厳禁」であることを周知徹底しておけば、従業員も納得してくれるでしょう。

日ごろ付き合いのある取引先の人の誕生日は、本人に聞くのではなく(聞いてしまうと「招待してくれ」と催促していると解釈されかねません)、その人の秘書に聞くとたいていの場合は教えてもらえるので、その日に合わせて電話をかけて祝辞を述べたり、カードを出すと喜ばれます。気のきくドイツ人秘書であれば、取引先の要人や上司の誕生日を周到に把握しており、指示さえあればその日にあわせてプレゼントやカードを送れるよう手配してくれます。

反対に直接の上司の誕生日については、事前に部下や同僚がプレゼントを用意している可能性が高いので、上に立つポジションにある人は、当然、自分の誕生日には、「覚えていてくれてありがとう、お礼に今日はこんなものでもどうぞ」といって差し出せるだけの飲食を用意していることが期待されます。

ある程度の社会的地位を築いている現役男性が50歳、あるいは60歳の誕生日を迎える場合は、職場で部下に対して分相応の食べ物を振舞うだけでなく、別途同格の人を何十人も招待するような盛大なパーティーを開いて当然と考えられています。レストランやホテルのホールを借りて行うそのようなパーティーが億劫な人は、事前に「パーティーは嫌いなので内輪で祝う」などと公に宣言して、当日誰にも会わなくてすむようなタイミングで海外旅行に出かけたり、電話のないセカンドハウスに逃げたり、一日中居留守を使ったり、と逃げるのに一苦労しているようです。

日本ではそれほど意識されない誕生日も、ドイツでは社会とのつながりを確認する機会と受け止められています。積極的に活かし、周囲との連帯を強めてみてはいかがでしょう。

  ひとことHerzlichen Glückwunsch zum Geburtstag.
Herzlichen Glückwunsch zum Geburtstag nachträglich.

遅ればせながらお誕生日おめでとうございます。
(お祝いをいうタイミングが逃してしまった場合、後から知らされた場合はにこういいます)

祝辞、プレゼントなどは、事前に口にしたり、贈ったりしてはいけないことになっています。おめでたい行事は、事前に祝ってしまうと、魔が差して不幸を呼ぶ、という迷信があるからです。
 
最終更新 Mittwoch, 05 Oktober 2011 11:52
 

Nr. 6 贈り物あれこれ

仲良く付き合う12月に入り、日本ではお歳暮の季節になりましたが、クリスマスの近づくドイツでの贈り物の作法に頭を痛めている方もあるのではないかと思います。そこで、前々回の「お礼」の章とも少し重なるテーマではありますが、今回は、クリスマスシーズンの贈り物をめぐるドイツでの慣習を、詳しく取り上げることにしましょう。

まず、「贈り物」に関する発想の基本的な違いから。日本では「送り主の気持ちを表すための手段」であるのに対して、ドイツ語圏での贈り物は「相手を喜ばすための手段」と解釈されるのが普通です。西欧の贈り物には、「ぜひ喜んでくださいね」という、より直接的に相手の気持ちに働きかけ、「特定の反応を期待していますよ」というメッセージが含まれているわけです。 親しさの度合いによっては、むやみに贈り物をしてしまうと誤解を招くことがあるのはそのためです。

クリスマスの4週間前に始まるアドヴェントの季節は、ドイツでも贈り物のシーズンといえます。クリスマスは、キリスト教徒が「愛と平和」を唱えたキリストの誕生を祝う祭典なので、この時季、人々は互いに物を贈りあって喜びを分かち合おう、という思いを贈り物に託すからです。日ごろお世話になった方への感謝を表すお歳暮とは、そこに込められているメッセージが違うわけですが、違いさえ心得ていれば、プレゼントを積極利用して、お付き合いをより円滑にする格好のチャンスといえるでしょう。

まず、職場。クリスマスの4週間前からスタッフの誰かがビスケットを大量に購入したり、自分で焼いたものを持ち込み、常にきれいな飾り皿に出しておいて、お客やスタッフがいつでもつまめるようにする、といったヴァイナハツテラー(Weihnachtsteller)の習慣は、オフィスでも、お店でもよく見かけます。あるいは12月6日の聖ニコラウスの日にチョコレートのサンタクロースを買い込んで、部下全員のデスクの上に1つずつ配って回る人もいます。「お世話になった御礼」ではなく、「この季節だから、親近感がある相手、自分のチーム仲間、自分のスタッフに喜んでもらえるとうれしい」という気持ちを込めて、日ごろ関わりのある人に小さなプレゼントをすると、心から喜んでもらえるのです。

ご近所でもプレゼントの機会はたくさんあります。聖ニコラウスの日に、日ごろ仲良くしている家族同士が、相手の家の子どものために、ドアの前に10ユーロ未満程度の小さなプレゼントを置いていくことがよくあります。子どもが朝家を出る前に見つけられるように、前の晩にサンタの姿をしたチョコレートや、1~2 ユーロで買える小さな絵本を玄関マットの上に置いておいたりするのです。

ご近所同志で何かを借りたり、手伝ってもらった時も、日ごろならば、口頭でのお礼だけ、あるいは「今度は私の番ですからね」といったやりとりで済ませるようなことでも、今なら季節感のある小さなものをプレゼントすることができます。「まあ、なんで」と驚かれたら「もうすぐクリスマスですものね(Weil bald Weihnachten ist.)」と言えば、不自然にならず、相手が喜んでくれること間違いなしです。

あるいは、日ごろから仲良くしたいと思っている異性に、さりげなく気持ちを伝えるよい機会でもあります。日焼けサロンの受付の女性が、日ごろパトロールで通りかかる警察官からチョコレートのサンタをもらい、その翌年2人は結婚した、といったような心温まる逸話も聞いたことがあります。(女性の方が公務執行中の警察官にチョコレートをあげていたら、ワイロ扱いされてしまったかも知れませんが)

いずれにせよ、物をプレゼントする場合は、「お気に召さないかも知れませんが」などと謙遜するのではなく、「気にいっていただけるとうれしいです(Ich hoffe, es gefällt Ihnen)」「お口に合うとよいのですが(Ich hoffe, es schmeckt Ihnen)」と、相手に喜んでほしいからやっていることであるとはっきり伝えます。

クリスマス前の贈り物は、あまり高価なものであってはならない、というルールもあります。特に異性に何かプレゼントをするときは、その点に気をつけない と、周りが変に詮索したり、あるいは相手からも変な誤解を受ける危険があるので要注意です。食べ物のように、形を残さないものが無難かもしれません。形と価値が残るプレゼントには「相手に喜んでほしい」というメッセージのほかに「これを見るたびに私のことを思い出してほしい」という意味が込められている、と解釈される可能性があるからです。特にスカーフや財布のような直接身につけるものを気軽にプレゼントする場合は、「これは日本的なお礼の習慣です」などという説明をした方がよいかも知れません。

これまで述べてきたのは、クリスマス前の4週間にわたるアドヴェントの季節における贈り物の作法ですが、本格的なクリスマスプレゼントとなると、また別物です。ドイツのクリスマスは、英米と違ってあくまでも「家庭の祭典」なので、クリスマスの祭日に自宅に招待された場合を除いては、親族以外の人が物を贈ることはあまりしません。ただし、クリスマスが差し迫ったアドヴェントの最終週に、誰かの家を訪ねたり、自宅に物を届けたりする場合には、「小さなプレゼント」 を持って行き「楽しい祝日を(Frohe Festtage)」と言って手渡すとよいでしょう。

  ひとことIch hoffe, es gefällt Ihnen.
Ich hoffe, es schmeckt Ihnen.

プレゼントは、「喜んでほしい」という気持ちを表すための手段です。「お口に合わないかも知れませんが」とか「つまらないものですが」といった謙遜を表現する常套句は、そのような意図を否定することになるので、場違いになってしまいます。「気に入ってもらえるといいのですが」「お口に合うといいのですが」と、あなたに喜んでもらえるように工夫したのだけれどどうだろう、という気持ちを素直に伝えるのが礼儀となっています。そして頂き物をしたときに、もらった側がすぐに包みを開くのは、「喜んでいると ころを見てもらうことが一番のお礼」とされているからなのです。
 
最終更新 Mittwoch, 05 Oktober 2011 11:52
 

<< 最初 < 1 2 3 > 最後 >>
2 / 3 ページ
  • このエントリーをはてなブックマークに追加


Nippon Express SWISS ドイツ・デュッセルドルフのオートジャパン 車のことなら任せて安心 習い事&スクールガイド

デザイン制作
ウェブ制作