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ドイツで「古き良きもの」との一期一会を求めてアンティークマーケットに出かけよう!

ドイツ各地で開催されているアンティークマーケットでは、何十年何百年もの時間を生きてきた食器や洋服、花瓶や小物などの古道具と出会うことができる。特集では、のみの市の歴史をはじめ、ドイツ各地のおすすめマーケット、さらに普段使いしやすいドイツのアンティークなど、その魅力をたっぷりご紹介。ドイツの味わい深い古道具を探しに、アンティークマーケットへと出かけてみては? (文:ドイツニュースダイジェスト編集部)

アンティークマーケットの起源は?

アンティークマーケットの始まりは、中世末期のフランスとする説が有名だ。当時、中流から上流階級の人々は豪華な服や家具、食器などを使って暮らしていたが、流行が過ぎたり飽きたりするとそれらを捨てていた。商人たちは、この富裕層が捨てたものを回収して庶民向けに販売するように。しかし当時は衛生状態が悪く、捨てられた洋服などからノミ(Floh)が見つかることも少なくなかったことから、「のみの市」(Flohmarkt)という名前が付いたという説がある。その後1890年ごろにパリで、いわゆる今のような形でのみの市が開催されるようになった。

ドイツで最初に開かれたのみの市は、1967年にハノーファーの旧市街地で行われたAltstadtflohmarkt am Hohen Uferで、現在もライネ川のほとりで毎週土曜日に開催されている。さらにその数年後には、ドイツのほとんどの大都市でのみの市が開かれるようになった。ドイツは各地域によって風土や文化が異なるため、マーケットで見られる商品のラインアップが微妙に異なるのが特徴。特にベルリンやライプツィヒ、ドレスデンなどでは旧東ドイツ(DDR)時代の製品が多く見られ、アンティーク好きの間でも人気が高い。

ドイツ語の「Flohmarkt」(のみの市)もしくは「Trödelmarkt」(がらくた市)は、アンティークから手作り雑貨、ジャンク品まで、いわゆる何でもありのマーケットのことを指すことが多いが、それ以外にもコレクターや専門家のための特別なマーケットが開催されている。例えば「Antikmarkt」(アンティークマーケット)や「Briefmarken- / Münzbörsen」(切手/コインのマーケット)、「Computer- / Musikbaser」(コンピューター/音楽のマーケット)、さらに子ども向けの特別なのみの市なども。以下ではその中でも、特にドイツのアンティークが手に入りやすいマーケットを紹介しよう。

参考:flohmarkt-termine.net「Geschichte Flohmarkt」、ARD Planet wissen「Geschichte der Flohmärkte」

一度は行ってみたい!ドイツのおすすめアンティークマーケット

ベルリンマウアーパークののみの市
Flohmarkt im Mauerpark

ベルリンでは週末になると、あちこちで個性豊かなマーケットが開かれる。最も規模が大きいのはマウアーパークで開かれるのみの市。古着や食器、家具をはじめ、手作り雑貨やがらくたなどが山のように並ぶ。国際色豊かな屋台やストリートミュージシャンも多く、ベルリンらしい雰囲気が楽しめる。ここからほど近いアルコナプラッツのマーケットや、オスト駅前で開かれるアンティークマーケット、6月17日通りマーケットなど、数件はしごするのも◎。
www.flohmarktimmauerpark.de

ライプツィヒアグラ・アンティークマルクト
Agra Antikmarkt

ライプツィヒ南東部で毎月最後の週末に開催される「アグラ・アンティークマルクト」は、アンティークに特化したマーケットとしては欧州最大規模を誇る。約90ヘクタールの広大な敷地内には二つの大きなホールがあり、毎回1000以上の出店者が参加している。商品は中古品のみに限られており、新しい製品を売ることは禁止。王朝時代、アールデコ様式、旧東ドイツ製品など、さまざまな時代の家具や製品が所狭しと並んでいる。
www.abuha.de

ニュルンベルクトレンペルマルクト
Trempelmarkt

ニュルンベルクといえば、ドイツ三大クリスマスマーケットの一つが行われる場所だが、この美しい旧市街地では毎年5月と9月に2日間ずつ(金曜・土曜)、盛大なアンティークマーケットが開かれている。約4000のディーラーが集まり、中央広場だけでなく街の至る所にスタンドが立つ。金曜日は24時まで開催されるため、美しくライトアップされたニュルンベルクの街を背景に、ほかでは味わえない特別な買い物を楽しめる。今年は5月13~14日、9月9~10日に開催予定!
www.nuernberg.de/internet/marktamt/trempel.html

アンティークマーケットで見つかる!日常で使えるドイツの古道具

アンティークマーケットに所狭しと並ぶ数々の商品……感性の赴くままに回るのも楽しいけれど、何を買っていいか迷う人も多いかもしれない。ここでは東京でドイツ古道具「doremifa」を営む伊藤夏実さんにナビゲートいただき、比較的手に取りやすく生活になじみやすいドイツの古道具をご紹介。自分で買ったお気に入りのアンティークを、ぜひ暮らしに取り入れてみよう。
写真提供:doremifa

お話を聞いた人

伊藤 夏実さん

伊藤 夏実さん Natsumi Ito

ベルリン留学中にドイツのアンティークと出会い、現在は東京都台東区鳥越にてドイツ古道具店「doremifa」を営んでいる。これまでに買い付けのため、ドイツをはじめ欧州各地のさまざまなマーケットを訪れる。特に好きなアンティークは「銀化したガラスびん」。

素朴な表情が愛らしいヴィンテージのぬいぐるみ

ヴィンテージのぬいぐるみ

ぬいぐるみといえば今やふわふわが主流ですが、古いものだと「木毛(もくもう)」という木から出る長いかんなくずが詰め物になっていて、触り心地も硬めで独特の風合いがあります。特にDDR時代に作られたテディベアは、頭でっかちで手足がずどんとしていて、シンプルな表情がたまりません。またシュタイフ社のヴィンテージのぬいぐるみは全体的に値段も高めですが、たまにお手頃価格の掘り出しものが見つかることもあるので、ぜひ探してみてください。

芸術性の高いイラストに注目博物画

博物画

「博物画」は動植物や鉱物などを詳細に記録したイラストで、もともと16世紀の欧州で博物学とともに発展し、学校などでも使われていました。動物や昆虫の図解など、なかにはデザイン的にぎょっとするものもありますが、どれも独特の面白さがあります。芸術性が高く美しいイラストなので、額に入れて部屋に飾るのもいいですね。

食卓を美しく彩るヴィンテージのカトラリー

ヴィンテージのカトラリー

シルバーのカトラリーは食卓での存在感抜群。特に人気なのが、持ち手部分にバラの花があしらわれた「ヒルデスハイムローズ」のシリーズです。ドイツ北部のヒルデスハイムの大聖堂に咲くバラをモチーフに、1920年代ごろから造られているのですが、年代によって製造方法やシルバーの純度、バラのデザインが微妙に異なります。日本の方からは、装飾が華やかなトングも人気が高いです。

レトロで凝ったデザインが美しい陶器・ガラスの食器

陶器・ガラスの食器

旧東ドイツで造られていた食器は、裏側に「DDR」もしくは「GDR」と書かれているのが目印です。DDR陶器の代表格の一つである「Colditz」は、デザインが素朴で優しい感じのものが多く、日本人の生活にもなじみやすいと思います。ガラスのお皿では、こちらもDDRで造られていた「Olbernhau」(写真)のものが一押し。薄いガラスに凝ったレトロな模様が描かれていて、個人的にはマーケットで見つけるとテンションが上がる品の一つですね。

レトロキッチュなザ・DDR製品DDRの洋服ハンガー

DDRの洋服ハンガー

DDR時代に一般家庭でよく使われていたハンガーで、肩の部分がレトロキッチュな柄で覆われている「ザ・DDR」な商品です。布や毛糸で包まれたもの以外にも、ビニールでコーティングされたものもあり、洋服を掛けるとぐっと雰囲気が出ます。木製のハンガーも素朴でいいですよ。

夜のひとときに温かい光をキャンドルスタンド

キャンドルスタンド

ドイツでは、夕食の時に毎晩キャンドルに火をともすという人や、カフェや居酒屋で夜になるとキャンドルに火を付けてくれるお店などが多く、ろうそく文化が生活に根付いていると感じます。それもあってか、マーケットで見かける燭台のデザインはバリエーション豊か。アドベント用のものや、ろうそくを上げ下げできるものなど、選びがいがあります。小さいものもすてきですが、受け皿が広いキャンドルスタンドだと、ろうがテーブルに垂れなくて実用的です。

当時の生活文化が垣間見える昔の写真&カード

昔の写真&カード

紙ものといえば昔の雑誌や絵本などが定番ですが、アンティークマーケットでは古い写真アルバムやフィルムなどもよく見かけます。当時の生活の様子なども分かるので、ドイツの歴史に興味がある人におすすめです。また昔の結婚式の招待状や、堅信式(小児洗礼を受けた人が、12~13歳ごろに自身で信仰を表明する儀式)のカードなどは、エンボスや箔はく押し加工のぜいたくな作りになっていて、紙製品が好きな人には面白いと思います。

お気に入りを発掘しようヴィンテージのアクセサリー&ボタン

ヴィンテージのアクセサリー&ボタン

ヴィンテージのアクセサリーは、ぐちゃっと山のように積まれた中から、よくよく探すとかわいらしいものを発掘できることが多々あります。個人的には植物や動物がモチーフになっているものが好きです。古いブローチの場合、もともと溶接されていた金具が外れてしまっていると直すのが難しいので買う時にチェックしましょう。また、ガラスボタンは1個売りだけでなく、1枚のシートにたくさん付いて売られているものも。洋服のボタンを付け替えたり、ボタンを使ってアクセサリーを作ったりと、生活に取り入れやすいのがいいですね。

古びた輝きがくせになる銀化したガラスびん

銀化したガラスびん

古いガラスびんを見つけたら、太陽にかざしてみてください。ガラスの表面に雲うんも母状の薄い膜が何層にも形成されていて、プリズムのように光を乱反射してきらめきます! これは ガラスが砂や土に埋まっている間に、土中の鉄、銅、マグネシウムなどと化学変化を起こしたもので、「銀化(ぎんか)」と呼ばれます。銀化したガラスびんの魅力は、やっぱり時間の経過が一目瞭然なところ。花瓶やルームフレグランスとして使うのも良いですが、銀化している部分は水に濡れると見えなくなるので、内側が銀化しているびんにドライフラワーを生けるのもおすすめです。

銀化した表面銀化した表面

いざアンティークマーケットへ押さえておくべき3つの心得

1. 現金は必須

多くのスタンドではカードでの支払いを受け付けていないため、マーケットへ出かける際は現金を用意しましょう。また高額紙幣だと店舗によってはお釣りが無いと言われることもあるので、5~20ユーロ札を用意しておくと無難です。ほとんどのマーケットでトイレが有料なので小銭もあるとベター。盗難やスリなどにも注意しましょう。

2. 梱こんぽう包材を持参する

基本的に、マーケットで購入したものは梱包などせずにそのまま手渡されます。そのため特に陶器やガラス製品などを買いたい人は、新聞紙などの梱包材を用意していくと良いでしょう。アンティークは年季が入っている分、もろくなってしまっていることもあるので、壊さずに持ち帰れるように工夫を。

3. 値段交渉も楽しむ!

マーケットでは値段の交渉も醍醐味(だいごみ)の一つ。全ての商品に決まった値段が付いているわけではないので、まずは「自分がこれをいくらで買いたいか」を考えてみましょう。その上で値段を尋ねてみて、あまりに値段がかけ離れていたら諦められるし、少し予想より高いようであれば交渉の余地あり。あまりしつこく交渉すると嫌な顔をされることもありますが、多くのディーラーさんは、値下げ交渉される前提で値段を伝えてくるので、勇気を出して提案してみましょう。まとめ買いする場合は、値下げ交渉のチャンス!

アンティークマーケットで使えるドイツ語

  • ● Was kostet das?
  • これはいくらですか?
  • ● Das ist viel zu teuer!
  • 値段が高すぎます!
  • ● Können Sie mit dem Preis ein wenig runtergehen?
  • 少し安くしてもらえませんか?
  • ● Wie wäre es mit +(金額)?
  • (金額)でどうですか?
  • ● Ich nehme es.
  • これを買います。

ドイツ古道具店「doremifa」の店主が語るドイツのアンティークに魅せられて

ここまでアンティークマーケットを案内してくれた伊藤さんは、自他共に認めるアンティークファン。東京で経営するドイツ古道具店「doremifa」では、欧州で買い付けた商品のほか、ドイツのアンティークから着想を得たオリジナル商品も販売している。最後に、そんな伊藤さんからドイツアンティークの魅力を聞いた。
写真提供:doremifa

店内にある伊藤さんの宝物コーナー(非売品)

アンティークに興味を持ったきっかけは?

伊藤さんがアンティークと出会ったのは、ベルリンに留学していたころのこと。「ベルリンに住み始めたころ、ドイツでは日曜日にスーパーや小売店など、ほとんどのお店が閉まっていることに驚きました。『みんな、一体何をして過ごしているのだろう?』と思いながら日曜日に散歩をしていたら、たまたまマウアーパークに行きついて。そこで開催されているのみの市がとてもにぎわっていて、面白いなと思ったのが始まりです」。

また、当時伊藤さんが住んでいた家のオーナーも、のみの市で購入したDDR製のポットを大切に使っていたという。「『これはのみの市で買ったのよ。すてきでしょ』と言いながら、普段使いしているのがとても印象的で。生活の中でのこうした古道具の在り方がとてもいいなと思いました」。

doremifa店主の宝物コーナー

そこから週末になると、さまざまなマーケットを回るようになり、アンティークの魅力にどんどんはまっていったという伊藤さん。日本への帰国を決めたころには、本格的に商売としてドイツ古道具店をやろうと思い至り、ベルリン以外にもライプツィヒやドレスデン、さらにブリュッセルなど、欧州のさまざまなマーケットで買い付けを行った。

そして伊藤さんは現在、東京でドイツ古道具店「doremifa」を営んでいる。コロナ禍以前は買い付けのために年に数回ドイツを訪れていたといい、店内に所狭しと並べられたアンティークの数々はまさにドイツのマーケットをほうふつとさせる。「お店には私の宝物たちを並べた『非売品ゾーン』があります(笑)。古い図版やお皿、貝殻などを並べたりしていますが、特に好きなのは、猛烈に銀化したガラスびん。黒っぽいけれど全面が虹色に銀化していて、ベルリンのマーケットで見つけた時はときめきました」。

店内にある伊藤さんの宝物コーナー(非売品)店内にある伊藤さんの宝物コーナー(非売品)

アンティークへの愛が詰まったオリジナル商品も

さらに伊藤さんは、学生時代に彫刻を学んだ経歴の持ち主。アンティークへの愛情とものづくりの技術を掛け合わせて、これまでにさまざまなオリジナル商品を生み出している。

その一つが、ドールヘッド付きのガラスびんだ。頭部の人形は、20世紀初期のドイツで造られていた「チャイナヘッドドール」と呼ばれる頭と手足が陶器、胴体が布でできたもの。しかし壊れやすく、マーケットで見つけるドールは割れていたり、頭部だけになったものがほとんど。「それをびんのディーラーさんが、インクびんのふたに取り付けてリメイクしていました。独特の組み合わせに一目ぼれしたのですが数自体が少ないので、割れたドールを買って自分でも作るようになりました」。

チャイナヘッドドールは、細長い眉にきゅっと結ばれた口元、ほんのり頬を染めた優しげな表情が魅力チャイナヘッドドールは、細長い眉にきゅっと結ばれた口元、 ほんのり頬を染めた優しげな表情が魅力

もう一つは、ウサギとリスのミツロウキャンドル。「クリスマスにベルリンのデザイナーズマーケットに行った時、ウサギのチョコレート型を使って作ったキャンドルを売っている人がいて。そこから着想を得たのですが、家にあったチョコレート型だと安定しなかったので自分で型を作りました。それに溶かしたミツロウを流し込んで一つひとつ作っています」。

ウサギのキャンドルは、ドイツの画家アルブレヒト・デューラーの「野うさぎ」(1502年)を参考に、伊藤さんが原型を彫ったウサギのキャンドルは、ドイツの画家アルブレヒト・デューラーの「野うさぎ」(1502年)を参考に、伊藤さんが原型を彫った

ドイツのアンティークの魅力と共に、古いものを大切にする文化や、日々の生活を楽しくさせるヒントを教えてくれた伊藤さん。アンティークマーケットでの古き良きものたちとの一期一会の出会いを、これからも多くの人に届けてくれるだろう。

ドイツ古道具 doremifa

ドイツ古道具 doremifa

東京都台東区鳥越1-17-3
水:14:00-18:00、金~日:12:00-18:00
Instagram:@doremifatorigoe

 
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