眠っている間に知らない国・都市へ 寝台列車で旅する欧州
夜の駅から列車に乗り込み、車窓から沈みかけた太陽を見つめ、がたごとと揺られながらベッドで眠りに落ちる。そして、朝目覚めるころには全く別の景色の中を走っている。そんなロマンある寝台列車の旅が、ここ欧州で再び人気が高まってきている。本特集では、一度は衰退した寝台列車が、なぜ今人々を惹きつけているのかをひも解きながら、人気路線をご紹介。きっとあなたも寝台列車に乗って、旅に出てみたくなるはず! (文:ドイツニュースダイジェスト編集部)
ロマンを運ぶ寝台列車の小歴史
参考:National Park Service「A Brief Overview of the Pullman Story」、Focus on Belgium「Georges Nagelmackers, the inventor of luxury trains」、Wagons-Lits Diffusion、Verein Freunde der MITROPA e. V.、Publications Office of the European Union「Research for TRAN Committee - Passenger night trains in Europe: the end of the line?」、AP「Climate-conscious travelers are jumpstarting Europe’ s sleeper trains」
米国で生まれた寝台列車
寝台列車が初めて登場したのは、19世紀前半の米国といわれている。しかし、当時の車両は窮屈で居心地が悪く、快適さとは無縁だった。そこに目を付けたのが、米国人の発明家で実業家のジョージ・プルマン(1831-1897)だ。プルマンは快適で優雅な宿泊施設を備えた列車のアイデアを思いつき、1864年に寝台列車「パイオニア」を製造した。
1858年頃のプルマン社の寝台列車
この全く新しい寝台列車を米国で体験したベルギーの実業家ジョルジュ・ナゲルマケールス(1845-1905)は、欧州を走る豪華列車の実現に着手する。1870年代の欧州では、国境を越える場合、何度も列車を乗り換える必要があった。ナゲルマケールスは、スピード・豪華さ・快適さの三つを信条に掲げ、1872年にリエージュで会社を設立。パリからオーストエンデまでの寝台列車の運行から始まり、その後ケルン、ウィーンを結んでいった。
豪華で快適な寝台列車の黄金時代
事業が成功すると、ナゲルマケールスは1876年に国際寝台車会社(CIWL)を設立し、国と国を結ぶ特急列車を次々と走らせた。そして1883年には、パリからコンスタンティノープル(現イスタンブール)までのおよそ3000キロを走らせる、かの「オリエント急行」を誕生させたのだった。
1898年のCIWLのカタログ
その後、寝台列車は豪華旅行の代名詞となり、1914年ごろにはCIWLは1600両の列車を運行していた。1922年には青い車体がトレードマークの「ル・トラン・ブルー」が登場し、当時の著名人や王族たちはこぞってCIWLを利用したという。
一方、CIWLに対抗するため、ドイツ、オーストリア、ハンガリーの鉄道局は、寝台列車および食堂車を運営する「ミトローパ」を1916年に設立した。ミトローパは中欧の国々を結び、看板列車の「ラインゴルト急行」では、ウェイターが食堂車の石炭ストーブで鹿肉ステーキを調理してふるまい、乗客に特別な体験を提供。食堂車はミトローパの名物となった。
1937年ごろのミトローパの食堂車
環境保護の観点から再び人気に
第二次世界大戦後、寝台列車は引き続き運行されていた。しかし、かつて一晩かけて移動していた距離が数時間で到達できるようになり、1990年代以降は格安航空会社や長距離バスが台頭し、さらにリーズナブルなホテルが登場してきたことで、寝台列車は次第に人々から必要とされなくなっていく。そして、2000年代以降は寝台列車の多くがその姿を消した。
ところが、最近になって寝台列車が再び注目されている。その背景の一つに、環境問題がある。2018年の気候変動ストライキで「飛び恥」という言葉が生まれ、二酸化炭素の排出量が多い飛行機ではなく電車を使うことがトレンドとなったが、特に環境保護を意識する若者の利用者が目立っている。Trainlineによれば、2023年の寝台列車予約数はコロナ禍前の2019年に比べて147%増加。欧州連合(EU)は航空便に代わる移動手段として、寝台列車を含む鉄道への投資を積極的に行っているほか、国ごとに運行会社を支援する動きも見られる。かつて豪華な旅の体験を提供した寝台列車は、サステナブルな選択肢として息を吹き返したのである。
寝台列車の衰退期にも運行していたオーストリア国鉄(ÖBB)のNight jetは、今では欧州最大のシェアを誇る。さらに新興企業が登場し、新たな路線が次々と開通している。次項目からは、そんな欧州の国々を走るオペレーターをご紹介する。
寝台列車を利用するメリット
1. リラックスできる
飛行機の旅のようにチェックインや荷物検査など、空港で長時間過ごしたり、車の旅のように誰かが運転したり、渋滞に巻き込まれたりすることはなく、寝台列車は眠っているだけで目的地にたどり着ける。
2. 環境に優しい
飛行機での移動と比べて二酸化炭素排出量が少なく、飛行機の最大10分の1に抑えることができる。環境に優しい移動の選択肢として、近年人気になっている。
3. 宿泊費を節約できる
特に大都市ではホテル代が高騰しており、近年旅行予算を圧迫している。目的地までの往復に寝台列車を利用すれば、2泊分の宿泊費を節約することができる。
参考:Deutschlandfunk Kultur「Gemütliches Abenteuer: Liebeserklärung an den Nachtzug」
寝台列車オペレーターをピックアップ! 欧州各地を結ぶおすすめ路線
西は英国、東はウクライナまで、寝台列車に乗れば、欧州に散らばる主要都市の多くへと旅することができる。もちろん飛行機よりは時間はかかるが、列車の旅らしい昔ながらのロマンを体験できるのも醍醐味だ。路線図を眺めながら、ぜひ次の旅行計画を考えてみて。

欧州寝台列車路線マップ
https://back-on-track.eu/night-train-map/
1
Nightjet
(ÖBB /オーストリア連邦鉄道)

ハンブルク~ウィーン
Hamburg - Wien

Nightjetは、寝台列車の衰退期にÖBBがドイツ鉄道(DB)の寝台列車サービスの一部を引き継ぎ、2016年に「ストレスではなくリラックスを」をモットーにスタートさせた新たなブランド。現在はアムステルダム、ブリュッセル、ローマ、ハンブルク、ベルリンなど、欧州の25都市以上を結ぶ欧州最大の寝台列車オペレーターとなった。2023年に導入された新型車両では、専用バスルーム付の個室、カプセル型のミニキャビン、4人用コンパートメントや車椅子利用者向けのバリアフリー対応車両など、さらに快適さを追求。月曜から木曜の利用であれば、割安なチケットを入手しやすい。


注目の目的地:ウィーン
ウィーンといえば、シェーンブルン宮殿や国立歌劇場など観光スポットが豊富だが、ショッピングを楽しみたい人にはノイバウ地区がおすすめだ。もともとハプスブルク家の厩舎だったアート複合施設「MuseumsQuartier」(写真)をはじめ、小さなお店が立ち並ぶノイバウガッセではオーストリア発ブランドも多く見つかる。近隣の水族館「Haus des Meeres」の展望レストラン「360° Ocean Sky」ではウィーンを一望できるので、ぜひ足を運びたい。

2
Caledonian Sleeper
(カレドニアン・スリーパー)

ロンドン~フォート・ウィリアム
London - Fort William

ロンドン・ユーストンを夜に出発し、スコットランド西部のフォート・ウィリアムへ。英南部の大都市からスコットランドのハイランド地方へ向かうこの路線は、国境を越えずとも車窓の風景が大きく変わっていくのが魅力だ。朝になると、山や湖が連なるウェスト・ハイランド線へ入り、雄大な自然の中を進んでいく。2段ベッドの「クラシック・ルーム」、専用シャワー室付の2段ベッド「クラブ・エンスイート」、専用シャワー室とダブルベッドを備えた「カレドニアン・ダブル」などの個室があり、上位客室では朝食やルームサービス、スコットランド製のバス・アメニティーが付く。また体力に自信のある方には寝台のない「シーテッド・コーチ」も。


注目の目的地:グレンフィナン・ヴィアダクト
アウトドアの盛んなフォート・ウィリアムから列車で約30分のグレンフィナン・ヴィアダクトは、1901年に完成した21連アーチの鉄道橋。ハイランドの山々を背景にした美しい姿が、映画「ハリー・ポッター」シリーズでホグワーツ特急が渡る橋として登場し、世界的に知られるようになった。春から秋にかけては蒸気機関車「ジャコバイト」が橋を渡る姿も見られる。周辺には、1745年のジャコバイト蜂起にゆかりのある記念碑があり、映画の舞台だけではなく歴史も楽しめる。

3
Intercités de nuit
(SNCF /フランス国鉄)

パリ〜トゥールーズ
Paris - Toulouse

フランス国鉄が運行する夜行列車「Intercités de nuit」の人気路線は、首都パリのオステルリッツ駅から南仏トゥールーズを結ぶ。宵闇に包まれたフランスをゆるやかに南下し、目覚めれば「バラ色の街」の名にふさわしいレンガ造りの街並みが車窓の外に広がる。寝台は1等が4人用、2等が6人用のコンパートメント。枕と掛け布団はもちろん、飲料水、アイマスク、耳栓まで一通りそろい、女性専用コンパートメントも追加料金なしで予約可能。食堂車の連結はないものの、事前のオンライン注文や車内販売で軽食と飲み物を楽しめる。さらに1等利用者には、終着のトゥールーズ・マタビオ駅でシャワーが無料で使えるといううれしい特典も。

注目の目的地:トゥールーズ
フランス南西部、ガロンヌ川沿いに広がるトゥールーズは、レンガ造りの建物が街を彩ることから「ville rose」(バラ色の街)の愛称で親しまれる。中心部には市庁舎と劇場が入る壮麗なキャピトルが立ち、世界遺産「フランスのサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路」の構成資産であるサン・セルナン聖堂や、世界遺産のミディ運河も見逃せない。ガロンヌ川沿いを散歩した後は、白インゲン豆と肉をじっくり煮込んだ郷土料理カスレも味わいたい。

4
MÁV
(ハンガリー国鉄)

チューリヒ~ブダペスト
Zürich - Budapest

ハンガリー国鉄は、首都ブダペスト発着・経由の夜行列車を毎晩運行している。計8路線でスイス、ドイツ、オーストリア、チェコ、ポーランド、ウクライナ、ルーマニアの主要都市を結んでいるほか、夏季限定でクロアチア、スロベニアなどのアドリア海方面も追加運行する。乗り換えを利用すれば、フランスやイタリアへのアクセスも可能だ。車両は、寝台個室(シングル、2人用、3人用)のほか、リーズナブルな4~6人向けのクシェット、座席タイプから選べる。お得なチケットを手に入れるには通常1カ月前、ハイシーズンやクリスマス休暇期などは2~3カ月前が狙い目。
注目の目的地:ブダペスト
ハンガリーの首都ブダペストは、言わずと知れた温泉都市。市内には100以上の源泉があり、オスマン帝国時代からの歴史的な浴場からモダンなスパまでそろう。必ず訪れたいのが、宮殿のような建物にぐるりと囲まれたセーチェニ温泉(写真)。屋外浴場では、日中にはチェスを楽しむ人、夜は音楽とライトで彩られる「スパーティ」が開催される。また市内の指定された温泉は飲用も可。日本の温泉街とはまた違った雰囲気で湯めぐりが楽しめそう。なお、水着とビーチサンダルを持って行くのをお忘れなく。

5
VR
(フィンランド国鉄)

ヘルシンキ~ロヴァニエミ
Helsinki - Rovaniemi

フィンランド国鉄「VR」は、首都ヘルシンキから北部ラップランドへの夜行列車を毎日運行する。夏は太陽が完全に沈まない白夜の中を走り、冬は車窓から雪化粧に包まれた森、そしてオーロラが見えることも。そんな北欧ならではの自然の美しさが味わえるのが、この路線の魅力の一つだ。寝台列車には、専用トイレとシャワーが付いた2段ベッドキャビンのほか、3段ベッドキャビンや連結可能な4人用キャビンがあり、今年から新デザインの車両が順次導入されている。食堂車ではサーモンスープやミートボールなど、北欧らしいメニューが楽しめる。

注目の目的地:ロヴァニエミ
ラップランドに位置するロヴァニエミは、北極圏の大自然に囲まれた都市で、サンタクロース村(写真)があることでも知られる。厳冬期から白夜まで八つの季節があるといわれ、それぞれの季節に美しい風景や旬のグルメが楽しめる一方、年中いつ訪れてもサンタクロースに会うことができる。オーロラのシーズンには観測ツアーも多数開催されている。フィンランドの建築家アルヴァ・アアルトが設計した市民センターや、北極体験ができるアルクティクム科学センターなども。

European Sleeper 乗車体験レポート1泊4日でミラノに行ってきた!
欧州内で少しずつ路線を拡大している、寝台列車界の超新星「European Sleeper」。シンプルな車両デザイン、ミニマムなサービス、サステナブルな理念で、リーズナブルな価格を実現させ、若者を中心にじわじわ人気を得ている。そんな同社が今年9月に開通させたばかりのブリュッセル~ミラノ線に、ドイツニュースダイジェストのスタッフが乗車!その旅の様子をお届けする。(取材:ドイツニュースダイジェスト編集部、取材協力:European Sleeper)
European Sleeperとは?

寝台列車の黄金時代を復活させることを目標に、2021年に誕生したオランダとベルギーのスタートアップ企業。現在はパリ~ベルリン、ブリュッセル~プラハ、ブリュッセル~ミラノの3路線を運行しており、今後はデンマーク、スウェーデン方面やバルセロナへの路線も計画している。寝台車は3人用のコンフォート、4~6人用のクラシックがあり、最低価格49.99ユーロから利用可能。女性専用部屋や座席タイプのBudgetもある。

ケルン~ミラノ
Köln - Milano

1日目
22:30 ケルン中央駅出発
月曜夜、少し早めにケルン中央駅へ。夜食用のおやつを購入し、ホームで電車を待った。そして、予定時刻より15分ほど遅れてEuropean Sleeperのミラノ行きが到着。車両は古いタイプだが、内装は新しく清潔感がある。発車から約20分後、乗車券の確認。同時にオプションで注文していた朝食の希望時間帯(6~11時)や飲み物の種類(コーヒーや紅茶など)を聞かれた。23時、本日最後のアナウンスで、各車両の担当者が紹介される。夜間も対応してくれるとのことで、安心だ。
とっぷり日が暮れたケルン中央駅から乗車
00:30 就寝
今回利用した3人用のコンフォートは相部屋だった。ブリュッセルから乗車していたベルギー人2人が同室で、どちらもミラノの環境保護に関する学会に参加予定だという。飛行機に比べて二酸化炭素排出量が少ないため、寝台列車を選んだらしい。ベッドは中段と上段があり、はしごを取り付けて昇り降りできるようになっている。ベッドメイキングは乗車時にすでに終わっていて、すぐに横になれるのがうれしい。共用洗面所で歯磨きをして、ベッドへ。各ベッド脇には読書灯があり、それぞれのタイミングで就寝した。
上段ベッドからの眺め。
横になっている時の方が座っている時よりも揺れを感じやすかった。
体が大きい人には少し狭いかもしれない
04:42 突然のノックで起床
「コンコン」とドアをノックする音で目覚める。電車は停車しており、場所を確認するとスイスのバーゼル駅。パスポートコントロールだった。全ての車両をチェックするため、1時間ほど停車。再び列車はミラノへ向かって走り出し、また眠りに落ちた。
2日目
08:00 朝のアナウンス&朝食
8時、朝のアナウンスで起床する。ぐっすり……というわけではなかったが、空調はちょうどよく、思ったよりも眠ることができた。耳栓やアイマスクがあってもいいかもしれない。体をほぐすため、一度廊下へ。車窓からは朝日に照らされた険しい山並みが見え、いかにもスイスらしい景色が広がっていた。その後、8:30頃に朝食セットが届き、朝ごはんタイム。

車窓からの美しい風景は電車旅の醍醐味
ルガノ湖の対岸に見えたカンピョーネ・ディターリアはイタリアの飛び地として知られる
12:06 ミラノ・ガリバルディ駅到着
13時間半の長旅が終わり、ついにミラノ・ガリバルディ駅に到着! ミラノ中央駅からは地下鉄で2駅の位置で、中心地へのアクセスもスムーズだった。そのまま予約していたホテルへ向かい、チェックイン。
3日目
15:45 ミラノ・ガリバルディ駅出発
あっという間の滞在に名残り惜しさを感じながら、予定時刻から2時間ほど早く出発。発車時刻変更については、数日前にメールで通知がきていた。夕飯は提供されないので、何か購入して乗車するのを忘れずに!

4日目
08:06 ケルン中央駅到着
帰りはほぼ定刻で到着。1泊4日は正直おすすめできないが(笑)、今回利用した便は週3回往復しているため、現地での宿泊数を増やせばより充実した滞在になりそうだ。とはいえ、一晩で違う国へ行けるお得感と達成感はハマりそう。次回の寝台列車旅はどこに行こうか……。(完)
27 hours in Milanoミラノ駆け足滞在記
今回の滞在は約27時間。初ミラノということで、まずは王道の「ドゥオーモ」ことミラノ大聖堂やショッピングアーケード「ガッレリア」を訪れた。驚いたことに、ミラノ料理が食べられるレストランはことごとく入れず。どこも予約必須で、平日だから大丈夫だろうと甘く見ていたのが失敗だった。

そんななか、最後にトライしたお店が翌日のランチで席を押さえてくれることに。翌日、無事にミラノ名物のオッソブーコ(仔牛すね肉の煮込み料理)が添えられたリゾット・アッラ・ミラネーゼを食べることができた。最後は食の複合施設「イータリー」などでショッピングをして、駆け足の滞在が終了。
左:ショッピングアーケード「ガッレリア」
右:リゾット・アッラ・ミラネーゼ
寝台列車旅を動画で!
ドイツニュースダイジェストのInstagram アカウントで、European Sleeperに乗車した様子をリール動画で公開予定。
https://www.instagram.com/pickup_doitsu/



インベスト・イン・ババリア
スケッチブック




