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自動車誕生125周年 ベンツから紡がれる車物語

ちょっと街へ買い物に、週末や休暇を利用して旅行へ……
ひょいっと乗り込んで発進すれば、
私たちを目的地へと楽々運んでくれる自動車。
その大元をたどると、カール・ベンツというドイツ人技術者に行き着く。
彼が世界初のガソリン車を生み出してから125周年を迎える今年、
根っからの愛好家も、
生活の足として普段何気なく利用しているという人も、
自動車の過去・現在・未来に思いを巡らせてみてはいかがだろう。
(編集部:林 康子)

自動車は、こうして生まれた

ベンツとダイムラー 2人の自動車開発のパイオニア

「ここに提出されている構造設計図は、1~4人を運搬するための、主に軽量の荷車や小船の運転を目的としたものである」

パテント・モトールヴァーゲン
パテント・モトールヴァーゲン

1886年1月29日、時の帝国特許局からカール・ベンツに交付された特許登録証No.37435の冒頭の文章である。彼が考案、設計、組み立てを行い、「パテント・モトールヴァーゲン(Patent Motorwagen)」と名付けたガソリンエンジン搭載の三輪車は、この特許を持って「世界初の自動車」となった。

それとほぼ時を同じくして、シュトゥットガルト近郊の街カンシュタットでもう1人の自動車開発のパイオニア、ゴットリープ・ダイムラーがガソリンエンジンを取り付けた二輪車、すなわちオートバイを開発、特許を取得していた。続いて彼は、駅馬車にガソリンエンジンを搭載することにも成功。これにより、「世界初の四輪自動車の発明者」と称されることになった。

さて、ベンツが上記の特許を得るのは、1883年にマンハイムでガス機関工場「Benz und Cie.」を立ち上げた3年後。しかし当時、この新時代の発明に飛びつく人は皆無だった。そこでPRに一役買ったのが妻ベルタ。夫に内緒で息子のオイゲンとリヒャルトをパテント・モトールヴァーゲンに乗せ、マンハイムから約100キロ離れたプフォルツハイムまでを走行、乗用車史上初の長距離ドライブを成功させたのである。

1890年代に入ると会社は軌道に乗るが、社内での確執からベンツは1903年に退社。その後息子たちと共に、ネッカー川沿いのランデンブルクに新たに「Carl Benz Söhne」を設立する。一方、Benz und Cie.は1926年、ダイムラーが1887年に創業した「Daimler-Motoren-Gesellschaft」と合併し、「ダイムラー・ベンツ(Daimler Benz)」に。このときベンツはBenz und Cie.の監査役を務めていたが、2人が直接顔を合わせる機会は生涯に一度もなかったという。

カール・ベンツ ゴットリープ・ダイムラー
Carl Benz(1844~1929) Gottlieb Daimler (1834〜1900)

メルセデス・ベンツの誕生とダイムラー・ベンツのその後

ダイムラー・ベンツの設立を機に生まれたのが、新ブランド「メルセデス・ベンツ(Mercedes-Benz)」。Benz und Cie.の「ベンツ」とダイムラーが生産していた「メルセデス」という車名を合わせたものだ。ちなみにメルセデスという名は、ダイムラーの最大の顧客であったオーストリアの実業家エミール・イェリネックの支援を受けて製造された「ダイムラー35PS」に、彼の娘の名前が付けられたことに由来する。

同ブランドのほか、戦車や船舶、航空機エンジンの製造により発展を遂げていったダイムラー・ベンツは、1998年に米自動車大手クライスラー・コーポレーションを吸収合併し、「ダイムラー・クライスラー」に。自動車業界の再編を促す“世紀の合併”と言われたが、2007年に経営方針や技術思想の相違から協力体制は解消され、現在の「ダイムラー」となった。

自動車技術発展の立役者たち

ベンツやダイムラー以外にも、自動車技術の発展に貢献した人たちがいる。人の移動をはるかに楽にする画期的な乗り物の開発。そこに夢と熱い情熱を傾けた人物を紹介しよう。

ヴィルヘルム・マイバッハ(1846~1929)
Wilhelm Maybach

ゴットリープ・ダイムラーの親友であり、仕事上のパートナー。ダイムラーとは技術設計士として職業訓練をしていた青年の頃に出会った。ダイムラーと共同で設立したDaimler-Motoren-Gesellschaftで技術部長を務め、高性能な内燃機関(エンジン)の開発に従事。1909年にダイムラーを退社した後、息子のカールと共に「Maybach-Motorenbau GmbH」を創業し、飛行船エンジンの製造や高級自動車の生産を手掛けた。

ニコラウス・オットー(1832~1891)
Nikolaus Otto

1862年、エンジンの動作周期に2つの工程(上昇・下降)を経る2ストローク機関を試作し、その2年後にケルンで世界初の内燃機関製造会社「N.A. Otto Cie.」、72年に「Deutz AG」を立ち上げた。そして76年、4工程(吸収・爆発・圧縮・排気)を1サイクルとする4ストローク機関を発明。これをマイバッハとダイムラーが二輪車に取り付けて実用化に成功し、「オットー・サイクル」という名で広く知られるようになった。

ロベルト・ボッシュ(1861~1942)
Robert Bosch

自動車部品・電動工具メーカーとして世界最大のシェアを誇る「ロバート・ボッシュ」の創設者。1886年、同社の起源である「精密機械と電気技術作業場」でボッシュは、オーストリア人発明家ジークフリート・マルクスが生み出した点火装置を改良し、エンジン燃料を点火するための電気発火を促す磁気点火装置を開発。97年にこれを初めて自動車のエンジンに搭載したことが、後により速く作動するガソリンエンジン開発のきっかけとなった。

ルドルフ・ディーゼル(1858~1913)
Rudolf Diesel

ディーゼルエンジンの出発点は、「理想的な熱機関」を作るというディーゼルの野望にあった。当時の技術では実現不可能と考えられていた理論を、実験に実験を重ねて形にしていったディーゼル。1893年に「合理的熱機関の理論および構造」と題した論文でディーゼル機関の原理を発表し、97年、ついに空気圧縮によって燃料を自然着火させる仕組みのエンジンが誕生。熱効率に優れているこのエンジンの需要は、たちまち高まっていった。


その他のドイツ自動車産業発展の歴史
1897年 ベルリン随一の繁華街、クーダム(Kurfürstendamm)にあるホテル・ブリストルで初の「国際モーターショー(IAA)」を開催。8台のガソリン自動車が世界を魅了。
1916年 BMWの前身であるバイエルン航空機製造会社「BFW」設立。1年後にBMWに社名変更。第1次世界大戦後に航空機製造を禁止され、モーターサイクル・メーカーとなった。
1945年 ヴォルフスブルクで初代フォルクスワーゲン「タイプ1(VW Käfer)」が走行。同タイプは2003年の製造中止まで、世界最多の販売台数を誇った。
1950年 “Bulli”の愛称で親しまれたフォルクスワーゲンの商用車「タイプ2 T1」の大量生産開始。その直後から需要が急増し、ハノーファーに独自の生産工場が敷設される。
1950年代 第2次世界大戦後は「BMW・イセッタ」のような小型車が人気を博した。
1957年 ツヴィッカウにある自動車メーカーVEB Sachsenring Automobilwerk Zwickauが最初のトラバント(通称トラビ)を生産。東ドイツ生まれの小型車は、ボディーが繊維強化プラスチックから成っていたため、“走るダンボール(Rennpappe)”と呼ばれ親しまれた。
1963年 世界で最も有名なドイツ製スポーツカー「ポルシェ・911」の製造開始。
1991年 東西ドイツ統一により、東ドイツ(DDR)車の時代が幕を閉じた。4月30日、最後のトラビは製造工場のベルトコンベヤーから直接、ツヴィッカウのアウグスト・ホルヒ自動車博物館へ。

自動車ミュージアム

数多くの自動車メーカーがしのぎを削るドイツ。この国の自動車博物館には、自動車産業の発展の歴史、そして各メーカーが知恵と労力を絞って生み出した「宝石」が詰まっている。

時代背景と共に自動車発展史を振り返る
アウディ・フォーラム
Audi Foren

Audi Foren

アウディの名が生まれたのは1910年。20世紀の幕開けと共に自動車製造の道を歩み出した同社の軌跡を、時代ごとの経済、社会的背景を交じえながら紹介する。高度にオートメーション化されボディーの製造から組み立てまで、実際の生産工程を間近で見られる体験ツアーは特に人気で、モータースポーツの歴史紹介や映画上映などの特別プログラムも充実。本社所在地インゴルシュタットとネッカースウルム、ミュンヘン空港の3カ所にある。

www.audi.de/de/brand/de/erlebniswelt/audi_forum.html

車を中心に広がる複合アミューズメント施設
アウトシュタット・ヴォルフスブルク
Autostadt Wolfsburg

Autostadt Wolfsburg

ヴォルフスブルク中央駅を降りると目の前に広がる「車の街」。25ヘクタールの広大な敷地には、レストランを含むエントランスホールやフォルクスワーゲン・グループのパビリオンなど、自然、建築、アート、体験アトラクションが一体となった車の近代都市空間が広がり、人、文化、社会と共に生きるというフォルクスワーゲンの企業精神を実感できるはず。ここを訪れたら、同社特製ケチャップ付きのカレーヴルストも、ぜひお試しあれ!

www.autostadt.de

BMWの歴史と未来を展望する場所
BMW博物館
BMW Welt und BMW Museum

BMW Welt und BMW Museum

航空機製造会社として出発したBMWらしく、今にも空へと駆け出しそうな流線型のフォームが美しい「BMW Welt」。ここでは最新モデルの展示のほか、同社自慢の最先端の技術とデザインの融合を、五感を通して体験できる工夫がいっぱい。そして、その隣に隣接するのがBMW博物館。同社ブランドの歴史やモータースポーツ、オートバイなど、7つのテーマに分かれた館内には、BMWが約1世紀にわたり紡いできた叡智が凝縮されている。

www.bmw-welt.com

ポルシェ好き必見の贅沢な展示ラインナップ
ポルシェ博物館
Porsche Museum

Porsche Museum

シャープなボディー、スピード感、安定性、そして速度無制限のドイツのアウトバーンを走る爽快感が車好きの心を虜にしてきたポルシェ。その代表的なモデルである356、550、911、917や、1971年のル・マン24時間レースを制した伝説の「Pink Pig」含む80台を展示する同博物館は、スポーツカー愛好家にとっての聖地と言えよう。妥協を許さず、高性能な車の開発に全力を注いだフェルディナント・ポルシェの功績を振り返る展示にも注目。

www.porsche.com/germany/aboutporsche/porschemuseum

透明なガラスが、人と車の距離を近付ける
VW ガラスの工場
Die Gläserne Manufaktur

Die Gläserne Manufaktur

フォルクスワーゲンがラグジュアリーサルーン「フェートン」のために特設した生産工場。訪問者ゾーンは前面ガラス張りのL字型の工場に囲まれており、そこから1日35台限定で生産されているという高級車の製造工程の最終段階を見渡せる。顧客との初対面を待ち構える新車が並ぶ高さ40メートルのガラスの塔も、ドレスデンの観光名所の1つとなっている。街や人との対話を重んじる工場では、コンサートや展覧会などの芸術イベントも開催されている。

www.glaesernemanufaktur.de

自動車誕生125周年の主役の全貌がここに
メルセデス・ベンツ博物館
Mercedes-Benz Musuem

Mercedes-Benz Musuem

DNAの二重らせん構造を模倣した造りの同博物館は、世界的に注目を集めるアムステルダムの建築事務所「UNStudio」によるデザイン。見学ルートは、カール・ベンツから新型レーシングカーまで、同ブランドの歴史を包括する7つの「神話の空間」と、多様な乗用車の利用法やトラックなどの搬送車まで、全車種を俯瞰する「コレクションの空間」の2つある。その他、常設展覧会では車の製造に携わる労働者の日常を垣間見ることもできる。

www.mercedes-benz-classic.com

自動車ミュージアム & サーキットMAP

自動車関連のイベント

自動車誕生125周年を祝うバーデン=ヴュルテンベルク州の「Automobilsommer」をはじめ、今年は多種多様な側面を見せてくれるイベントや展覧会が盛りだくさんとなっている。

9月10日(土)
アウトシンフォニック
autosymphonic - unerhörte Augenblicke

autosymphonicベンツゆかりの地マンハイムで一風変わった交響楽団のコンサートが開かれる。オーケストラや合唱団と並び、舞台に上がるのは80台の車たち。車がパーカッションとなり、今までになかった斬新な音楽が奏でられると共に、125年におよぶ自動車の歴史が語られる。「Automobilsommer 2011」の最後を飾る一大スペクタクルショー。

Friedrichsplatz, 68165 Mannheim
www.autosymphonic.de

9月10日(土)、11日(日)
ベルタ・ベンツ・チャレンジ
Bertha Benz Challenge

ベルタ・ベンツがパテント・モトールヴァーゲンを走らせた道程、通称「ベルタ・ベンツ・メモリアル・ルート」を、電気自動車や水素自動車、ハイブリッドカーなど省エネ型の車で走行し、未来の車について考える。車種が制限されているので参加は難しくても、沿道から観賞し、将来のモビリティーの主役たちを自分の目で確かめよう。

スタート:10日10:00  Mannheimer Schloss
ゴール:11日16:00  Mannheim Rosengarten
www.bertha-benz-challenge.de

9月11日(日)まで
自動車誕生125周年 特別展
125 Jahre Automobil

125 Jahre Automobil
有人月面車「ルナビークル」

欧州最大の私有博物館であるジンスハイム自動車・技術博物館で行われる特別展。ベンツのパテント・モトールヴァーゲンのほか、1971年に米国のアポロ15号が月へ運んだ有人月面車「ルナビークル」を、オリジナルに忠実に再現したレプリカも並ぶ。

Auto & Technik Museum
Eberhard-Layher-Str.2, 74889 Sinsheim
www.technik-museum.de

9月15日(木)~25日(日)
フランクフルト 国際モーターショー IAA
Internationale Automobil-Ausstellung

Internationale Automobil-Ausstellung

世界各国から800社近くが出展し、この場で初公開される新型車は約100種に上るという欧州最大のモーターショー。近年は環境や安全技術を志向したモデルにますます注目が集まっているというが、果たして今回はどんな新車がお目見えするのか!? オールドタイマーの展示や試乗会など、一般訪問者向けプログラムも充実している。

Messe Frankfurt
Ludwig-Erhard-Anlage 1, 60327 Frankfurt
www.iaa.de

10月1日(土)、2日(日)
オールドタイマー秋祭り
Oldtimer Herbstfest in der Classic Remise

オールドタイマーの販売所と車庫の機能を兼ねた、クラシックカー愛好家必見の「マイレンヴェルク(Meilenwerk)」は、国内3カ所*にある。デュッセルドルフでは旧市街の秋・芸術祭(altstadtherbst)に合わせ、マイレンヴェルク(当地で はClassic Remise)の駐車場で「オール ドタイマー秋祭り」を開催。自動車からオートバイ、自転車、トラクターまでさまざまな“お宝”車両が大集結する。

*デュッセルドルフ以外の所在地はベルリンとシュトゥットガルト。スイス・チューリッヒ湖畔にもある

Classic Remise
Harffstr.110a, 40591 Düsseldorf
www.remise.de

サーキットに行こう!

F1、DTMにオートバイ選手権。自動車王国ドイツは、モータースポーツの聖地でもある。特色豊かなサーキットに足を運び、その迫力、スリル、スピードを五感を通して味わおう!

7コースを備えた国内最新のレース場
ユーロスピードウェイ・ラウジッツ
Euro Speedway Lausitz

ユーロスピードウェイ・ラウジッツベルリンの南方120キロ、旧褐炭採掘場に全7コースを備え、2000年に完成した国内最新のサーキット。オートバイ世界選手権からオールドタイマー・レース、ドイツ・ツーリングカー選手権(DTM)まで様々なレースが開催される。その他、フォーミュラのレース仕様車を自ら運転してみたり、助手席に座ってレースのスピードを追体験したり、マイカーを持ち込んで4.5キロのグランプリ・コースを疾走するなどの体験プログラムも盛りだくさん。
www.eurospeedway.de

多彩なレースでファンを惹きつける
ホッケンハイムリンク
Hockenheimring

ホッケンハイムリンク1932年にオープンしたサーキットは、ライン・ネッカー地域の表看板的な存在。当初は直線同士を繋いだ単調な超高速コースで危険性が高く、幾度もの改修を重ねて現在の中高速コースになった。F1グランプリ(GP)やDTMなど世界最高峰のモータースポーツの開催地だが、個性的な改造車が集うTuner GP、白熱のドラッグレースNitrOlympx、豪快なドリップ走行が歓声を巻き起こすDrift Challengeなど、変わり種レースも豊富。
www.hockenheimring.net

徹底的にモータースポーツを満喫
モータースポーツ・アレーナ・オッシャースレーベン
Motorsport Arena Oschersleben

オッシャースレーベン1997年、ドイツで3番目に完成したパーマネントサーキット。DTMや世界ツーリングカー選手権が行われる約3.6キロのコースでは、定期的に安全運転の練習プログラムが提供されているほか、その脇にはゴーカート用のコースも設置。場外に出たら10ヘクタールのオフロード・コースが待ち受け、荒々しい道路、階段、水上の走行など、究極のモータースポーツに挑戦できる。敷地内には4つ星ホテルもあり、泊まり掛けで訪れるのにぴったり。
www.motorsportarena.de

至難のコースが挑戦者魂を掻き立てる
ニュルブルクリンク
Nürburgring

ニュルブルクリンク世界で最も過酷なサーキットの1つとされ、当地のF1グランプリやDTM、24時間レースなどに出場することを夢見るレーサーは多い。伝統的なADACアイフェル・レースや改造バイクで競うスーパーバイク世界選手権も例年、熱狂的なファンを集めている。コースは20.832キロの北コースと5.148キロのGPコースの2つあり、レース期間以外は常時マイカー走行が可能。北コースが11周で24ユーロ、GPコースは20分38ユーロと値段もお手頃だ。
www.nuerburgring.de

安全性抜群のロードレースのメッカ
ザクセンリンク
Sachsenring

ザクセンリンクザクセン州ホーエンシュタイン=エルンストタールにあるサーキットの目玉レースは、なんと言ってもロードレース世界選手権(MotoGP)。1927年に初めてオートバイ・レースが開かれたという古い歴史を持つサーキットだが、難所・急所が続くコースで事故が多発したため、72年に閉鎖に追い込まれた。しかし、95年に安全性を実証された新生サーキットとしてカムバック。今ではMotoGPのほか、オートバイ・ドイツGPも高い人気を誇っている。
www.sachsenring-circuit.com

自動車ミュージアム & サーキットMAP

未来の自動車

環境への負荷を考慮しつつ、どんどん変化していく車。ドイツで自動車整備士の資格を取得し、自動車をこよなく愛する新井洋行さんに、自動車の未来のかたちについて語っていただいた。

皆さんは未来の自動車と聞いて、どのような車を想像されるでしょうか? 今日の常識、技術では「スター・ウォーズ」や「バック・トゥ・ザ・フューチャー」などの映画に登場するような、車輪がなく、空中を飛ぶ乗り物が交通手段になるとは、まず考えられません。しかし、よく考えてみると、現代の近未来自動車のコンセプトは、カール・ベンツやヘンリー・フォード、ニコラウス・オットー、ルドルフ・ディーゼルなどが研究・発明した車輪と原動機を組み合わせた自動車の延長上にしかありません。言い換えるならば、超高度に発達した馬車といったところでしょうか。

近年、ハイブリッドや電気自動車、水素自動車が注目を集めていますが、近未来車開発において核となるテーマは環境保護であり、今までのディーゼルやガソリン燃焼機関を改良するだけでは不十分な点を補うための研究が進んでいます。ハイブリッドであれ、電気自動車であれ、車輪と原動機という従来の自動車の基本が変わらない限り、開発の焦点はエネルギーの調達先、その保存方法、そして保存されたエネルギーを、いかに損失を抑えて経済的に動力に変換できるかという点に絞られます。その意味で、ハイブリッドは所せん、電気自動車の機能基準が現在のガソリン、ディーゼル車の基準に達するまでの架け橋的な存在にすぎないという見方もあります。

つまり、これまで開発の中心だった速度と出力は二次、三次的な目標となり、いかに地球の環境を保護しながら、長時間の充電、準備期間を必要とすることなく、長距離を一定時間内に、効率的に移動できる車両を開発するかが今後の課題となってくるのです。

自動車のためのディーゼルやガソリン燃焼機関の開発が終えんを迎えている今、自動車技術の開発者はディーゼルやオットーが持っていたような発想力を高度なレベルで求められています。自動車という“車輪”のコンセプトが御役御免となるのはまだ先のことですが、もし自動車時代に終わりが来るとすれば、今からそれまでの間にどのような自動車が開発されていくのでしょうか。晴れた日でも道路を水浸しにする水素自動車か、エンジン音はなく、電気モーターでタイヤの転がる音だけを出す電気自動車か。いずれにせよ、古き良き時代のカローラに乗りたくても、街角のガソリンスタンドにガソリンが売っていないという時代がいつか来るでしょう。

新井洋行
海外生活21年。米国の自動車業界でキャリアを積んだ後、1999年末に渡独。ドイツの自動車整備士、マイスターの資格を持ち、現在テューリンゲン州ゴータのアウディ・ディーラーで勤務。
Audi R8 Partner
Cyrusstaße 22, 99867 Gotha
www.ahg-online.de

 
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