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So. 17. Nov. 2019

坂本龍一インタビュー ドイツは、音楽的には「我が故郷」

「世界のサカモト」が、ひたむきに鍵盤を叩く姿、そこから奏でられる音色に、これまでどれほどの人が心揺り動かされてきただろう。卓越した音楽的才能と並々ならぬ量の知識に裏付けされた確かな音は、聴く者の感性を刺激して止まない。その音楽が、今年もまもなく欧州に響き渡る。ドイツ人ミュージシャン、アルヴァ・ノト氏とのデュオ・ツアー を目前に控えた坂本龍一氏に、自身とドイツとの音楽的関わり、今回のツアーに懸ける想い、そして積極的に展開している社会問題への取り組みについてうかがった。

坂本龍一インタビュー:ドイツは、音楽的には「我が故郷」
さかもと りゅういち
1952年1月17日東京都生まれ。東京藝術大学大学院音響研究科修士課程修了。1978年に「イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)」に参加し、一躍注目を集める。映画『ラストエンペラー』(1987年)で、日本人初の米アカデミー・オリジナル作曲賞を受賞。その他の代表曲に映画『戦場のメリークリスマス』(1983年)のテーマ曲「メリー・クリスマス・ミスター・ローレンス」やテレビCMに起用された「エナジー・フロー」など。環境・平和問題に関する社会活動にも積極的に参加している。米ニューヨーク在住。

これまでに何度か欧州ツアーを実施されていますが、音楽の歴史という意味において懐が深く、聴衆の耳も肥えた当地で本場の音楽に触れ、自ら演奏することにより、何を得られたとお考えですか。

もう10年以上も前のことですが、ベルリンで公演中、私の好きなブラームスの間奏曲に影響されて作った曲を弾いている最中に、突然ある想いが脳に飛び込んできて、その場は最後まで弾ききりましたが、「ゲシュタルト崩壊」を経験したことがあります。  

なぜなら、極東に生まれた私が19世紀のドイツ音楽を真似したものを、当のドイツの聴衆の前で弾いていることで、自分のアイデンティティーとは何か、どこにあるのか、自分が作るべき音楽とは何かが、宙に放り出されたように分からなくなったからです。しかし、それは良い経験でした。それ以来、自分が作るべき音楽、自分にしかできない音楽を、それ以前より真剣に考えるようになったのです。

今回の欧州ツアーは、ケムニッツ出身のミュージシャン、アルヴァ・ノト(本名:カルステン・ニコライ)氏と共に行われますね。彼との出会いや、一緒にコンサートを開催するに至った経緯を教えてください。

坂本龍一&アルヴァ・ノト
右がアルヴァ・ノト

カルステン・ニコライとは1990年代の後半、彼が日本でコンサートをした時に友人の紹介で出会い、すぐに彼の音楽やアートに興味を持ちました。2001年にブラジル音楽の巨匠アントニオ・カルロス・ジョビンのカバーアルバムを作った際に、彼にリミックスを頼んだのが初めての仕事です。ドイツの音響派とブラジル音楽という組み合わせ!突拍子もないアイデアですが、私は彼ならきっといいものを作ってくれるに違いないと確信していました。そして予想通り、彼は素晴らしいリミックスを仕上げてくれました。

それ以来、ピアノの即興をしては彼に送り、自由に"料理"してもらうようになったのです。この10年で彼とは5枚のアルバムを作り、何度も欧州をツアーしました。今回の「S」ツアーは、これまでの10年にわたる彼と私とのコラボレーションの集大成となるツアーです。

近年はユーストリームでの生中継など、インターネットの動画技術を駆使したコンサートが話題を呼んでいますが、今回のツアーでも新たな試みを予定していますか。

今回のツアーでは特にネットの新しい使い方は試しませんが、音楽とビジュアルの新しい関係を見ることができると思います。これはやはりライブで経験していただくのが一番良いですね。ネット上でその臨場感を再現するのは、なかなか難しいと思います。

これまで足を踏み入れられた数多の国の中でも、特にドイツの国柄や人、音楽について、どのような印象をお持ちですか?また、今回のツアー開催地の1つとなるデュッセルドルフに対する特別な想いはありますか。

以前に数年間、ベルリンでアパートを借りていたことがあるくらい、私はドイツが好きです。幼少時からバッハやモーツァルト、ベートーベン、ブラームスなど、ゲルマン語圏の音楽に親しんで育ったので、音楽的には「我が故郷」という感じがしていますね。古く落ち着いた街並み、石畳、コンサートホール、あるいは美しい森や川、高原など、好きな所はたくさんあります。近年では、ドイツ国民のエコ意識の高さには、先進的なエネルギー政策にも大きなリスペクトを持っています。もちろん、ベルリンフィルをはじめ、たくさんの素晴らしいオーケストラ、そして映画祭や音楽祭のレベルの高さにも、いつも感心させられます。  

特にデュッセルドルフは、私がいわば兄貴分として、またテクノ音楽の文字通りの先駆者として敬愛するクラフトワークを輩出した都市です。彼らは今もこの地をベースに、世界中で活躍しています。今年7月に私たちが開催した「no nukes 2012」という音楽フェスティバルにも積極的に参加してくれました。彼らは福島の原発事故のことで大いに心を痛めており、日本の原子力政策に強い関心をもって見守ってくれています。

坂本さんは音楽活動の傍ら社会活動にも積極的に参加されていますが、その中でも現在、原発問題は特に主要な地位を占めていると思います。日本では、政府の原子力政策に反対する大規模デモが連日のように行われている一方で、東日本大震災から時は移り、ここドイツで日本の原発をめぐる状況に焦点が当てられる機会は、はるかに減りました。時間とともに社会の温度差が広がっていくような現状を前に、今すべきことは何だと思われますか。

情報や関心が時とともに薄れていくのは仕方がないと思いますが、私個人はずっと福島に寄り添っていきたいと思っています。福島からはいまだに16万人が避難していますし、その中には、おそらく今後何十年と故郷に帰ることができない方もいます。私たちの日本の国土に、人の住めない所ができてしまったのです。その責任を、政治家や官僚、当事者たちはどのくらい深刻に考えているのでしょうか。チェルノブイリの原発事故と並ぶ人類史上最悪の事故を起こしておきながら、誰も処罰されず、責任も取らないなどという理不尽があって良いのでしょうか。  

福島や関東には、子どもを抱え、いまだに避難したくてもできない家族がたくさんいます。避難しようにも雇用がないからです。かつての軍国主義政府でさえ、子どもたちを疎開させていました。今の政府は、コストが掛かり過ぎるという理由で多くの国民を被ばくさせ続けています。このことは、世界の多くの人々に伝える必要があると思います。

音楽の分野でも、社会活動においても、今後のさらなるご活躍がとても楽しみです。長期的な視野で見て、坂本さんが「こうありたい」と思う作曲家・音楽家像を教えてください。

やりたいプロジェクトなどは、いくつか頭の中にありますが、一番大事なことは自分に嘘をつかず、自分の心の声を真摯に聴くことだと思っています。世の中は喧噪にまみれていますので、ノイズが多く、自分の心の声を聴くには、まず心を鎮めて静かに保つことが必要です。とはいえ、それがなかなか難しいのですが。

コンサート情報

坂本龍一&アルヴァ・ノト 「S」ツアー 
デュッセルドルフ公演

alva noto + ryuichi sakamoto "s" tour 2012 @New Fall Festival
10月4日(木)20:00
31.90ユーロ
New Fall FestivalTonhalle
Ehrenhof 1, 40479 Düsseldorf
Tel: 01805-669029
http://new-fall-festival.de

*イタリア、ドイツ、スウェーデンを巡るツアーの日程は、
www.sitesakamoto.com/tour 参照。

 
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