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コミュニケーション技術の歩みを学ぶ博物館

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いつでも行けると思うと、いつまで経っても行かない。ベルリンに長く住んでいても、そういう場所はまだ結構あるものだ。私にとってその1つだったのが、中心部にあるコミュニケーションをテーマにした博物館。「通信」や「伝達」を幅広い意味で捉え、子ども連れでも楽しめると聞いていたので、ある日曜日の午後、4歳の息子を連れて遊びに行ってみることにした。

通信博物館の吹き抜けでは、2台のロボットが迎えてくれる
通信博物館の吹き抜けでは、2台のロボットが迎えてくれる

バスM48に乗ってポツダム広場を越え、次のバス停「Leipziger Str. / Wilhelmstr.」で降りる。いかにもドイツ帝政時代に歴史主義様式で建てられた豪華なファサードが見えてくる。もともとは1871年から74年にかけて、ドイツ帝国郵便として建てられた建物だ。1872年、当時帝国郵便の総裁だったハインリヒ・フォン・シュテファンのアイデアにより、世界初となる郵便博物館が誕生した。これが今日の通信博物館の前身となる。

中に入ると大きな吹き抜けに目を奪われ、そこでは2台のロボットが出迎えてくれた。各階とも、この吹き抜けを囲む形で展示が構成されている。地上階は通信に関するギャラリーで、さまざまな信号機や(私には懐かしい)ダイヤル式の電話機の実物が置かれていた。息子は物珍しそうに電話機のダイヤルを回していたが、一昔前なら当たり前だった家庭器具がずいぶん遠い昔のものに思われてくる。

この博物館のメイン展示はやはり1階(日本式2階)だろう。そのルーツにふさわしく、郵便と通信技術に関する充実した展示が並ぶ。古代から伝達の合図に使われていた牛の角笛や、その延長線上にある18〜19世紀のポストホルン。1827年に描かれたプロイセンの郵便ルートを網羅した地図も想像を膨らませてくれる。郵便馬車の当時の最高速度は時速9km。このテンポで旅先からまめに送られたモーツァルトの手紙を読み直してみたくなった。過去から現代に至るカラフルな郵便ポストが壁一面に並ぶ展示も、見ていて飽きない。

少しでも早く郵便物を届けたいという情熱は、19世紀後半、地中に張り巡らしたパイプにメッセージを入れたカプセルを空気の圧力で飛ばす「気送管郵便」という特異な技術に結実する。戦争により多くの地下パイプが破壊された東ベルリンでも、1980年頃までこの通信が現役だったのである。

壁一面に展示された過去から現在までの郵便ポスト
壁一面に展示された過去から現在までの郵便ポスト

その後に続く重要な展示は、やはり電報や電話機の変遷だろう。19世紀末の初期のタイプから携帯電話、2000年台のiPhoneまで網羅している。さらに最上階に行くと、通信技術と密接に関わる「メディアと戦争」をテーマにした常設展も。マルチメディアを駆使して、子どもも体を使って楽しめる展示構成になっていた。

最後に地下の階へ。ここは最低限の照明で個別の展示を浮き上がらせ、いわくありげな雰囲気だったが、「もう帰りたい」と息子が言い出して時間切れ。実はここがSchatzkammer(宝蔵)と呼ばれ、19世紀ドイツの発明家フィリップ・ライス(「テレフォン」の名付け親)による世界最初期の電話機や、幻の切手「ブルー・モーリシャス」など、博物館の秘蔵が収められた場所だったことを後で知った。ここは再訪の楽しみにしておこう。

インフォメーション

ベルリン通信博物館
Museum für Kommunikation Berlin

ミッテ地区にある博物館。建物は第二次世界大戦で破壊されたが、東独時代の1958年から郵便博物館として再び開館。2000年に現在の名前でオープンした。17歳までは入場無料。地上階にはダルマイヤー社直営の本格的なカフェハウスが併設されている。地下鉄で行く場合は、U2 MohrenstraßeかU6 Stadtmitteが最寄り。

オープン:火曜9:00〜20:00、水曜〜金曜9:00〜17:00、
土曜・日曜・祝日10:00〜18:00
住所:Leipziger Str. 16, 10117 Berlin
電話番号:030-202940 
URL:mfk-berlin.de

ドイツ技術博物館
Deutsches Technikmuseum

通信や伝達の歴史に関して、もう1つぜひ訪れたいのがこちらの博物館。交通、映像、印刷など人間の生活に関わるあらゆる科学技術を扱っており、ミュンヘンのドイツ博物館と並んで、ドイツの代表的な科学博物館として知られる。特に、かつて操車場だった環境をそのまま生かした鉄道のコレクションは充実している。

オープン:火曜〜金曜9:00〜17:30、土曜・日曜10:00〜18:00
住所:Trebbiner Str. 9, 10963 Berlin
電話番号:030-902540
URL:www.sdtb.de

 
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中村さん中村真人(なかむらまさと) 神奈川県横須賀市出身。早稲田大学第一文学部を卒業後、2000年よりベルリン在住。現在はフリーのライター。著書に『ベルリンガイドブック』(学研プラス)など。
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