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ベーリッツの「木冠の小道」を歩く

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先日BVG(ベルリン交通局)から、定期券の所持者は9月の週末はベルリンとブランデンブルク州全域を追加料金なしで自由に移動できるという通知が届いた。大人1人と子ども1人が同伴可能と知り、家族で久々に郊外へと足を伸ばしてみることにした。

バウム&ツァイトの展望台からの眺め
バウム&ツァイトの展望台からの眺め

ある土曜日、ツォー駅から地域間急行のRE7に乗る。ヴァンゼーでポツダム行きの線と分かれて南西へと進路を変えると、約40分でベーリッツ=ハイルシュテッテン駅に到着。人の流れに沿って道路をしばらく歩くと、入り口が見えてきた。

この森にはBaumkronenpfad(木冠の小道)を売りにする自然公園「バウム&ツァイト」があり、一度来てみたかった。が、まず目に入ったのはれんが造りの廃墟。その説明を読んで分かった。ハイルシュテッテン(療養所)という駅名が示すように、ここには昔大規模なサナトリウムがあったのだ。

ベルリンでも結核が猛威を振るっていた19世紀末、ベーリッツ郊外の森に巨大な療養施設の建設が始まった。男女それぞれのサナトリウムと肺病患者のための療養施設が造られ、互いは厳格に分けられた。敷地面積200万平方メートルのうち、現在公園になっているのは4分の1に過ぎない。

先に進むと長い行列ができている。土曜のお昼だったこともあり、1時間ほど待つことに。ようやく中に入ると、鉄骨製の展望台が見えてきた。まずはてっぺんまで登ってみる。最上階の高さ36メートルの地点からは、緑の海原とそこを縫うように敷かれた「木冠の小道」、さらに点々と浮かび上がる廃墟群が雄大なパノラマをつくり上げていた。

そこからコースに沿って歩いた。幅2.2メートルの遊歩道はベビーカーや車椅子の人でも無理なく移動できる。途中、マットが置かれた休憩スペースに出会う。編みかけになっているので、空中遊歩しているような感覚を味わえる。さらにその先には這ってスリルを体感できるトンネルもあって人気を集めていたが、私はすくんだ。

外部とは隔離されたこの施設では、自給自足の仕組みが整っていた。食堂、洗濯所、パン屋、肉屋、教会、さらには当時最新鋭の火力発電所まで備えていたという。特に見応えがあったのは1930年に建てられた外科病棟。ここは特に重症の結核患者の治療に充てられたという。

遊歩道から見下ろせる「アルペンハウス」の廃墟
遊歩道から見下ろせる「アルペンハウス」の廃墟

もう一つのハイライトと呼ぶべきは、小道の終盤に見えてくる「アルペンハウス」。273人の女性患者を収容していた病棟だが、そのロマンティックな名前とは裏腹に屋根にまで木が生い茂り、上から眺めるだけでも相当曰くありげな景観を形作っている。実は、第二次世界大戦末期の1945年4月、この周辺の森はソ連軍とドイツ軍の最後の攻防の舞台となった。当時この病棟は野戦病院へと機能を変え、負傷した兵士で溢れていたという。

のんびり散策を楽しんだが、豊かな緑に溶け込んだ療養所の廃墟の向こうから歴史の深淵に吸い寄せられるような、そんな怖さも潜ませる空間だった。

インフォメーション

バウム&ツァイト
Baum & Zeit

かつて女性の肺病患者のためのサナトリウムだったブランデンブルク州ベーリッツの敷地に、2015年に完成した自然体験施設。「木冠の小道」と自然公園から成り、年間を通じてオープンしている。入場料は12.50ユーロ(割引9ユーロ、6歳以下は無料)。RE7のベーリッツ=ハイルシュテッテン駅から徒歩10分弱。

オープン:3〜11月は毎日営業、12〜2月は土日祝のみ。詳細は下記HPにて
住所:Straße nach Fichtenwalde 13, 14547 Beelitz-Heilstätten
電話番号:033-204634723
URL:www.baumundzeit.de

デア・バーフスパーク
Der Barfußpark

直訳すると「裸足公園」。姉妹施設であるバウム&ツァイトの奥の入り口から入ると、裸足で周遊できる三つのコースが用意されており、ひと味違う自然の中の散策を楽しめる。入場料は7.5ユーロ(4歳以上の子どもは5.5ユーロ)。バウム&ツァイトとのコンビチケットもあり。

オープン:5~9月までの毎日10:00〜18:00(週末は10:00~19:00)
住所:Straße nach Fichtenwalde 13, 14547 Beelitz-Heilstätten
電話番号:0162-2909999
URL:www.derbarfusspark.de

 
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中村さん中村真人(なかむらまさと) 神奈川県横須賀市出身。早稲田大学第一文学部を卒業後、2000年よりベルリン在住。現在はフリーのライター。著書に『ベルリンガイドブック』(学研プラス)など。
ブログ「ベルリン中央駅」 http://berlinhbf.com
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