私がベルリンで最初に住んだアパートは、文化フォーラムと呼ばれる一帯から徒歩5分の距離にあった。ラントヴェーア運河を渡ると、左に新ナショナルギャラリー、奥に黄色く輝くフィルハーモニー、その右手にポツダム広場のソニーセンター、国立図書館が一望できる。未開発の土地もあるためか、空が大きく見える。ここに来るたびに、開放感と最高の芸術に出会える期待とで心が躍った。

新ナショナルギャラリーからマタイ教会、フィルハーモニー、ソニーセンター方面を臨む

6年もの年月を要した新ナショナルギャラリーの改修工事がこのたび完了し、6月最初の週末にオープンデーとして初めて一般公開された。コロナ禍により入場者数を1日約1000人に限定しての開催となったが、友人が無料チケットを手配してくれたおかげで、家族で参加することができた。久々に中に入ると、建物の四方を覆うガラスの透明度が増したように感じられた。長い歳月を経て、ガラスにひび割れが生じていたため、最大3.43×5.4メートルの巨大ガラスは世界で唯一このサイズを製造する中国のメーカーに発注し、バルト海を経由して運ばれてきたという。新しいガラスの厚さは従来の倍の24ミリもあり、湿度や温度の変化を吸収しやすい。

今回の大改装ではバリアフリー化が実現した。新設されたエレベーターで、地下へ向かう。改装工事の指揮を任されたデイヴィッド・チッパーフィールドは、ベルリンの新博物館の大改修も担ったことで知られるが、ミース・ファン・デル・ローエによるオリジナルのデザインを極力残しながら、いくつかの欠点を修正することを最大の課題にしたという。

完全にまっさらな展示室を巡るのは新鮮な経験だ。コンクリート部分に加え、天井も一新された。長く続く西側の空間は、「彫刻の庭」と呼ばれる庭園に面しているため、一際明るく開放感がある。長年、この庭への出入り口は空調などの関係で閉じられたままだったが、今回の修復で外温が15度以上ある時は、三つのドアから庭に出ることが可能になるという。それにより、ミースが構想した内と外が連続した空間を再び体験できるようになるわけだ。

庭園に面した地下の展示空間

一巡してから、真新しい来客用のクロークに入る。こことミュージアムショップはもともと美術品の倉庫だったところで、今回新たに作られた。キューバ系米国人アーティストのジョルジ・パルドーのコンセプトにより生まれたカフェでは、天井を埋めるように吊るされた光の彫刻作品が、オープニング前の簡素な地下空間の中で来館者の注目を集めていた。

1億4000万ユーロの総費用をかけた改修の成果を一通り見学して、再び地上階に上がる。ひんやりと涼しく、モダンでありながら寺院のような静謐（せいひつ）な空間に再び身を置けることがうれしい。フィルハーモニー方面を望むと、昨年から本格的に始動した隣の20世紀美術館の建設現場が目に入った。西ベルリンの時代から60年もの歳月を経て文化フォーラムが完成に近づいているのを実感しながら、私が好きだったこの場所の空の大きさや余白の部分が消えつつあることに、いくらか寂しさも覚える。

新ナショナルギャラリー
Neue Nationalgalerie

モダニズムを代表する建築家ミース・ファン・デル・ローエの設計により1968年にオープンした美術館。この建築家が1938年にナチスドイツを逃れてアメリカに移住した後、欧州で実現した唯一のプロジェクトとなった。8月22日、ローザ・バルバとアレクサンダー・カルダーの特別展により正式にリニューアルオープンする。

住所：Potsdamer Str. 50, 10785 Berlin
電話番号：030-266424242
URL：www.smb.museum

20世紀美術館
Museum des 20. Jahrhunderts

プロイセン文化財団が所蔵する20世紀美術作品の展示スペースの不足を補うべく、文化フォーラムに新しい美術館を造るプランが推し進められてきた。コンペで1位を獲得したヘルツォーク＆ド・ムーロンの設計により、2026年の完成を目指して建設が進められている。隣の新ナショナルギャラリーとは地下トンネルで結ばれる予定。

URL：www.preussischer-kulturbesitz.de