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Fr. 01. Jul. 2022

避難と追放の歴史を知る新しい資料センター

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ロシアによるウクライナ侵攻から10日ほどたった頃、ベルリン中央駅を通る機会があった。構内の北側の一角が避難民の仮設施設になっており、ポーランド経由で到着したばかりの人々とそれをサポートする人たちで溢れていた。多くの子ども、小さなトランク一つで逃げてきたその母親、そして父親の不在……。わずか2週間ほど前まで、ごく普通の日常を送っていた人たちだ。21世紀の欧州で起きている現実とはにわかに思えなかった。

アンハルター駅前にある資料センターアンハルター駅前にある資料センター

落ち着かない日々の最中、昨年6月に新しい歴史資料センターがオープンしたのを思い出し、行ってみようと思い立った。S バーンのアンハルター駅から地上に上がると、避難・追放・和解資料センターはもう目の前だった。もともとは1925年に建てられたヨーロッパハウスを改装して、コンクリートを多用したモダンな展示会場が生まれた。中に入ると、このセンターの趣旨がこう書かれている。「特に戦争と武力紛争により避難・追放された人たちは、故郷から遠く離れた場所で新しい生活を築かなければなりません。その要因は何か、そしてこの運命は当事者たちに何を意味するのでしょうか」。

2階の常設展は、18世紀末に生まれた民族国家の説明から始まる。共通の言語、宗教、文化で統合を図ろうとする理想は、ナショナリズムと結び付き、少数派への排除や戦争へと導いた。展示されている19世紀から20世紀初頭にかけての東欧の地図は、少数派の民族や言語のグループをあえて目立つように色分けされていた。「こういった地図はしばしば主観的で、戦争や迫害を正当化するのに貢献し得る」。少なくとも欧州では過去の亡霊と思っていた思想が、現実世界に重なっている恐ろしさ。

20世紀は多くの難民を生んだが、時代や出来事に沿って展示する手法は取っていない。ヒビの入ったスマートフォンが収められているのが目に留まった。2015年にドイツに逃れたシリア難民の持ちもので、「身内との連絡、逃避ルートの計画、さらに新しい地での生活に至るまで、現代の避難民にとってスマホは最重要の所持品である」と説明される。その横には1992年にボスニアからデンマークに逃れてきた避難民が、電話が機能しない故郷の家族に向けて送ったVHS テープが、さらに第二次世界大戦末期のドイツ人の避難民が親族の連絡先を記した日記が置かれている。いくら技術が進歩しても、突如故郷を追われた人間の心情に変わりはないのだ。

避難・追放・和解資料センターの展示から避難・追放・和解資料センターの展示から

らせん階段を上がった3階は、第二次大戦末期にソ連軍により追放されたドイツ人に関する展示に丸々割かれる。彼らが味わった苦しみもまた計り知れない。しかし、この大戦がドイツにより引き起こされ、その後のホロコーストやドイツ人の再定住といった野蛮行為の結果、約1400万人もの追放民が生まれた因果関係が最初にしっかり提示される。

歴史を複眼的に学ぶことの大切さを思う。同時に、こういう情報や学びの場を届けたい人たちに届けられないもどかしさも感じた。

インフォメーション

避難・追放・和解資料センター
Dokumentationszentrum Flucht, Vertreibung, Versöhnung

20世紀の欧州と世界を中心に、政治的、人種的、宗教的な理由により迫害を受けたり、避難をせざるを得なかった人々に焦点を当てた歴史資料センター。6000平方メートルの施設内に、常設展、図書館、資料館、ショップ、レストランを収容している。若者や成人への教育プログラムにも力を入れている。入場無料。

オープン:火~日10:00~19:00
住所:Stresemannstr. 90, 10963 Berlin
電話番号:030-20629980
URL:www.flucht-vertreibung-versoehnung.de

資料センター「テロのトポグラフィー」
Dokumentationszentrum Topographie des Terrors

避難・追放・和解資料センターの近くにある、もう一つの歴史資料センター。ナチ時代にゲシュタポ本部やホロコーストを具体的に計画・実施した帝国保安中央局など、国家のテロ機構が集中していた場所にあり、加害国としてのドイツの実像を浮き彫りにし、その責任を問いかける展示となっている。こちらも入場無料。

オープン:月~日10:00~20:00
住所:Niederkirchnerstr. 8, 10963 Berlin
電話番号:030-25450950
URL:www.topographie.de

 
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中村さん中村真人(なかむらまさと) 神奈川県横須賀市出身。早稲田大学第一文学部を卒業後、2000年よりベルリン在住。現在はフリーのライター。著書に『ベルリンガイドブック』(学研プラス)など。
ブログ「ベルリン中央駅」 http://berlinhbf.com
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