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Mi. 07. Dez. 2022

コルヴィッツ美術館、クーダムからの別れ

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先日、ベルリンのケーテ・コルヴィッツ美術館から「私たちは引っ越します」と題されたニュースレターが届いた。6月末でついにあの場所から撤退するのかという感慨とともに、最後にもう一度訪ねてみようと思い立った。

ケーテ・コルヴィッツ美術館の展示から。中央は「母と二人の子」ケーテ・コルヴィッツ美術館の展示から。中央は「母と二人の子」

西側の繁華街、クーダムから一歩入ったファザーネン通りの住宅街にある。ベルリン文学館やギャラリーが並ぶ閑静な界隈を歩くと、版画家・彫刻家のケーテ・コルヴィッツ(1867~1945)の作品を収めた私営美術館の建物が見えてきた。

2017年、コルヴィッツ美術館の話題が連日紙上をにぎわしたことがあった。建物の所有者であるベルント・シュルツとその財団から解約告知を言い渡され、突如移転先を探すことを余儀なくされたのである。当初は2019年末までに退去する話だったが、コロナ禍もあって、この秋にシャルロッテンブルク宮殿の旧劇場で再オープンすることになった。

静かな館内で、久々にコルヴィッツの作品にじっくり浸ることができた。彼女の生涯に沿いながら三つの階に及ぶ展示は、1914年を境に前半と後半に分けられている。第一次世界大戦が始まったこの年、ケーテの末息子ペーターは戦死した。2人の息子が戦場に行くのをむしろ後押ししてしまったことは、彼女に生涯にわたる悔恨を残す。

ファザーネン通りから別れを告げるコルヴィッツ美術館ファザーネン通りから別れを告げるコルヴィッツ美術館

戦争で身内を失った親や妻、子の悲嘆を木版画で力強く描いた7作からなる連作「戦争」(1921~22)、子どもを離すまいと抱える母を表現した石こう像「母と二人の子」(1932~36)。欧州が戦時下に置かれた今、作品に込められた感情の重さはいっそうリアルなものとして迫ってくる。第二次世界大戦中、晩年のケーテは、孫のペーターをも失った。

数年前、医師のアルネ・コルヴィッツさん(1930~)にお話を伺ったのを思い出す。アルネさんはケーテの長男ハンスの息子、つまりケーテの孫に当たる方だ。祖母ケーテの記憶はあまり多くはもっていない。だが、9歳年上の兄のペーターを失ったときのことをこんなふうに話してくれた。「兄は1942年秋、モスクワの近くで戦死しました。死亡通知の手紙は、確か軍の人が直接家に届けに来たと思います。当時そういう手紙は日常にとても近かった。本当に多くの人が亡くなり、新聞は戦死者の名前であふれていました。私は当然ショックを受けましたし、悲しかったです。両親、特に母親は彼を生み、育てて来たのですから。一番悲しい思いをするのはいつだって母親ですよ」

今日、彫刻家として高く評価されているケーテ・コルヴィッツだが、アルネさんは行政への複雑な思いも口にした。東独時代、コルヴィッツは労働者階級のために闘った英雄という扱いを受けたため、国やベルリン市は距離を置こうとしてきたという。

秋からの移転先は、中心部から少し離れるものの、周囲にいくつも美術館があり、観光客にとっても魅力的な場所だ。あらゆるレッテルを取り払って、今こそ虚心に向き合いたい芸術家である。

インフォメーション

ケーテ・コルヴィッツ美術館
Käthe-Kollwitz-Museum Berlin

1986年に画家・画商のハンス・ペルス=ロイズデンにより設立された私営美術館。シャルロッテンブルク宮殿の西翼、1787年にラングハンスによって設計された旧劇場が、新しい移転先となる。2022年秋に予定されている再オープンはまず1階の展示から始まり、その2年後から2階に展示が拡張される予定。全館バリアフリーが実現する。

住所:Spandauer Damm 10, 14059 Berlin
URL:www.kaethe-kollwitz.berlin

カフェ・ヴィンターガルテン
Café Wintergarten im Literaturhaus

ベルリン文学館の中にあるカフェ。19世紀末に建てられた邸宅にモダンな内装を取り入れており、朝食から午後のお茶、ディナーまで色とりどりの時間を味わえる。春から秋にかけては、広々とした庭でくつろぐのも魅力的。文学や歴史の分野に力を入れた書店「Kohlhaas &Company」も併設している。

オープン:9:00~24:00
住所:Fasanenstr. 23, 10719 Berlin
電話番号:030-8825414
URL:http://cafe-im-literaturhaus.de

 
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中村さん中村真人(なかむらまさと) 神奈川県横須賀市出身。早稲田大学第一文学部を卒業後、2000年よりベルリン在住。現在はフリーのライター。著書に『ベルリンガイドブック』(学研プラス)など。
ブログ「ベルリン中央駅」 http://berlinhbf.com
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