ジャパンダイジェスト

100年目のプラネタリウム

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私が物心ついたときから、父は天体観測をするのが好きだった。今も大型望遠鏡で星空をよく眺めている。昨年夏に一時帰国した際、8歳になった孫に星空の魅力を伝えたいと、地元のプラネタリウムに連れて行ってくれることになった。ところが、いざ始まってみると「星空を見て癒されましょう」というリラクゼーションを主眼としたプログラムで、こちらの期待していた内容ではなかった。父のがっかりした表情を見ながら、少々切ない気持ちになった。

2023年10月、近代プラネタリウムがドイツのカール・ツァイス社により開発されてからちょうど100年を迎えたという。ベルリンにツァイスの名を冠した有名なプラネタリウムがあるのを思い出し、夏のリベンジも兼ねて、この機会に家族で行ってみることにした。

プレンツラウアー・ベルク地区にあるツァイス・大プラネタリウムプレンツラウアー・ベルク地区にあるツァイス・大プラネタリウム

第2アドヴェントの日曜、S バーン環状線のプレンツラウアー・アレー駅を出ると、ドーム形の屋根がすぐに見えてきた。東独時代末期の1987年、世界最大級のプラネタリウムとしてオープンした「ツァイス・大プラネタリウム」だ。オンラインチケットを提示して階段を上がって行くと、最上階がプラネタリウムのメインホールになっている。

いくつか用意されているコースの中から私は「Sternstunde」(「星の時間」転じて「記念すべき時」という意味)という約1時間のプログラムを選んだ。驚いたことに、収録された映像を流すのではなく、男性のナレーターによるライブだった。ホールが暗転すると、ツァイスの投影機により12月の現時点で見えるベルリンの星空が360度の天井ドームに鮮やかに映し出される。次に、都会のスモッグや光害で実際に見える星が示されると、観客からため息が漏れた。「ベルリンから70キロぐらい離れたブランデンブルク州に行くと、もっとずっと多くの星を眺めることができます」。

まず北極星を軸に、おおぐま座(Gr. Bärin)とその一部の北斗七星について説明される。カシオペヤ座(Kassiopeia)、ペガスス座(Pegasus)など、名前のモチーフになった人や動物の絵が星座に沿って示されるので、イメージしやすい。

ホールの中心に置かれたツァイス製のプラネタリウム投影機ホールの中心に置かれたツァイス製のプラネタリウム投影機

そこから太陽系の惑星や公転する仕組みが紹介される。大画面で映し出される月のクレーターの鮮やかで生々しいこと。宇宙への旅はやがて銀河系を離れ、肉眼で見える最も遠い天体であるアンドロメダ銀河(地球から約250万光年)、さらに宇宙の果てへと誘われる。ふたたび地球、そしてベルリンの夜空に戻ってきたところで幕となった。

ドイツ語での説明なので理解不足だった面はあるにせよ、過度な演出や音楽に邪魔されることなく、私たちは十分満喫した。こういうプラネタリウムが見たかったのだ。とはいえ、父がいたらきっともっと詳しく解説してくれただろう。次の一時帰国には、科学館のプラネタリウムにでも行って、父に星座や宇宙の果てしないスケールを孫にたっぷり語ってもらいたいと思っている。

インフォメーション

ツァイス・大プラネタリウム
Zeiss-Großplanetarium

ベルリンの市制750周年に合わせて1987年にオープンしたプラネタリウム。子どもやファミリー向けのプログラムも充実しており、映画上映や時にコンサートも行われる。今回ご紹介したSternstundeは60分のプログラムで、推奨は10歳以上。入場料は9.5ユーロ(割引7.5ユーロ)。オンラインでの事前予約がおすすめだ。

オープン:火9:00~14:00、水木9:00~20:00、金9:00~22:00、土10:30~22:00、日10:00~20:00
住所:Prenzlauer Allee 80, 10405 Berlin
電話番号:030-421845-10
URL:www.planetarium.berlin

ヴィルヘルム・フェルスター天文台
Wilhelm-Foerster-Sternwarte

同じベルリン・プラネタリウム財団が運営する天文台。1889年に造られた「バンベルク屈折望遠鏡」を使って夜空を観測するツアーを金曜と土曜の夜に開催している。同じ敷地にあるプラネタリウム・アム・インズラーナー(Planetarium am Insulaner)は、設備の近代化のため現在改装中(2025年までの予定)。

住所:Munsterdamm 90, 12169 Berlin
電話番号:030-421845-10
URL:www.planetarium.berlin

 
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中村さん中村真人(なかむらまさと) 神奈川県横須賀市出身。早稲田大学第一文学部を卒業後、2000年よりベルリン在住。現在はフリーのライター。著書に『ベルリンガイドブック』(学研プラス)など。
ブログ「ベルリン中央駅」 http://berlinhbf.com
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