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Di. 21. Mai. 2019

「キーツ」の原点を訪ねて

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Kietzの古い家屋
日本のわらぶき屋根の家を想起させるKietzの古い家屋

「ベルリンの人々は、それぞれの『キーツ』に住んでいる」という言い方がある。キーツ(Kiez)とは、ある広場や通りを中心にした地域のまとまりのこと。行政上の区域というよりは、社会的な関係性を重視した集合体といえるかもしれない。それぞれのキーツには、カフェや食料店など、日常生活に必要なインフラが揃い、近所同士はゆるやかなコミュニティーでつながっている。一度そのキーツを好きになると、ベルリーナーはなかなかそこを離れようとしない。この言葉が内包するものの中に、ベルリンの生活の心地よさを解く鍵がありそうだ。

もともとキーツとは、「小屋」や「家」を意味するスラブ語を語源とする言葉。中世の時代、それこそベルリンという都市が産声を上げる以前から、城の近くに位置し、川に面した漁村を指して呼んでいたらしい。

そんな本来の意味でのキーツが残っている場所があるという。6月のある日、ベルリンのズートクロイツ駅から電車で南に約15分、ブランデンブルク州のルートヴィヒスフェルデ(Ludwigsfelde)という街にやって来た。美しい新緑の季節、乗客の8割以上が地元の小学生というわいわい賑やかなバスに揺られ、いくつかの湖や集落が眼下を過ぎ、やがてグレーベン(Gröben)という村に到着した。19世紀の作家フォンターネが賞賛したかわいらしい教会を過ぎ、5分も歩くともう村の外れに出てしまう。草やわらのにおいが漂ってくる一本道を進むと、草原の中に浮かぶ島のような、さらに小さな集落が見えてきた。その名もキーツ(Kietz)。

Am Kietz
集落に2つある通りの名前は、それぞれ“Am Kietz”と
“Am Fischerkietz”。かつてここが漁村だったことが偲ばれる

現在普通に使うキーツとは一文字綴りが違うが、「キーツ」がそのまま地名として残っている例は珍しい。“Am Kietz”という通りの外れに、探していたものがとうとう目に入った。木やわらなどで作られた簡素で素朴な家屋がいくつか並んでいる。小さな沼のたもとには、古い木の小舟が静かに佇んでいた。博物館的な保存の仕方とは違い、小屋は現在も物置などに使われているようで、当時のKietzの人々の暮らしぶりが静かに伝わってきた。

木の小舟
草が生い茂った木の小舟

古い地図を見ると、Kietzの近くにはかつて城の土塁が築かれ、今はもうないヌーテ川の支流が流れていたことがわかる。小さな川を糧に漁業を営み、家畜に水をやり、ささやかな生活を送っていた人々の姿を想像するのは、それほど難しいことではなかった。パリやロンドンがすでに大きな都だった頃、シュプレー川という中規模の河岸に生まれたベルリンの、原風景にどこかつながるものがそこにあった。

大都市にもかかわらず、ベルリンが今でもどこか田舎の気質を備えているのは、人々がキーツという小さな村への愛着が強いゆえからか。この大都会の海の中で、お気に入りの「キーツ」を見つけることは、ベルリンを楽しむ1つの秘訣と言えるかもしれない。


information

メルキッシェ博物館
Märkisches Museum

1908年開業のベルリン・ブランデンブルク地方の郷土博物館。北ドイツのゴシック様式とルネサンス様式を組み合わせた建築がまず見もの。豊富な風俗資料、映像、模型などにより、先史時代から20世紀までの時空紀行ができる。ベルリンの創成期に関する展示も充実。立体写真館「皇帝パノラマ」は、特に一見の価値あり。

開館:火~日10:00~18:00(水は12:00~20:00)
住所:Am Köllnischen Park 5, 10179 Berlin
電話番号:(030) 24 002 162
www.stadtmuseum.de

ムゼーウムスドルフ・デュッペル
Museumsdorf Düppel

ベルリン西部のツェーレンドルフ地区にあるユニークな野外博物館。この敷地内で発見された12~13世紀の出土品をもとに、当時の家屋、工房、穀物倉、畑が再現され、訪問者は穀物の粉ひきや農作業、動物との触れ合いなどの体験を通して、中世の人々の暮らしを実際に学べるようになっている。子ども連れの家族にも人気。

開館:木15:00~19:00、日曜及び祝日10:00~17:00
(冬期休業。今年度は10月4日まで)
住所:Clauertstr. 11, 14163 Berlin
電話番号:(030) 802 66 71
www.dueppel.de

 
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中村さん中村真人(なかむらまさと) 神奈川県横須賀市出身。早稲田大学第一文学部を卒業後、2000年よりベルリン在住。現在はフリーのライター。著書に『ベルリンガイドブック』(ダイヤモンド社)など。
ブログ「ベルリン中央駅」 http://berlinhbf.com
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