ジャパンダイジェスト

ハンブルクのソウルフード ラプスカウスを食べてみる

ハンブルクの伝統的なドイツ料理レストランに行くと、必ずメニュ-の最後の方にちょこんと記されている「ラプスカウス」(Labskaus)。でも「何かしら? 試してみようかな?」と興味本位で注文しないことをお勧めいたします! どれを頼んだらいいか分からないときは、無難な「ハンブルガーパンフィッシュ」(いろいろな魚のソテーの盛り合わせ)にした方が失敗はありません。

ドイツ人に聞いても「うえっ!」という答えしか返ってこない、ちょっとかわいそうな「ラプスカウス」。私とこの料理の初めての出会いは、今から約30年前。ハンブルクの福祉専門学校に在学中、クラスメイトの家に招かれたときでした。生粋のハンブルクっ子である彼女が作ってくれたのが、この「ラプスカウス」。ピンク色(!)のマッシュポテトの上に目玉焼きが載っていて、付け合わせにきゅうりのピクルスという、超シンプルな料理です。みんなでわいわいと一緒に作ったのですが、その作り方も至って豪快かつシンプルでした。ビーツの酢漬けと缶詰の肉(いわゆるコーンビーフ)を、茹で上がったジャガイモにドーンとぶち込みマッシュします。だからピンク色になるわけです。お皿に山のようにピンク色マッシュポテトを盛り、そこに目玉焼きを載っけて出来上がり。目玉焼きを載せると特別感が出てうれしいですが、グニャッとした食感とピンク色がマイナスなんですよね……当時、ジャガイモ、お肉、ビ-ツと、混ぜないで個々で食べればもっとおいしいのに、と思ってしまいました。

前菜サイズのラプスカウスにはウズラの卵の目玉焼き!前菜サイズのラプスカウスにはウズラの卵の目玉焼き!

「ラプスカウス」は、もともとハンブルクをはじめとする北ドイツや、スカンジナビアの船員の貧しい食事でした。諸説あるようですが、19世紀ごろ、船では長い航海の際に新鮮な食材を手に入れられないため、長期保存のきく瓶や缶詰の食材で料理しなくてはなりませんでした。そのためジャガイモを茹でて、缶詰の肉と酢漬けのビーツを混ぜてマッシュし、あればニシンの酢漬けや目玉焼きを添えるという「ラプスカウス」が誕生したのです。今でこそ、古き時代を偲ぶ風潮か、ハンブルクや近郊のドイツ料理レストランでお目にかかれますが、以前は「おばあちゃんちのお昼ごはん」みたいな素朴な家庭料理でした。

ロ-ルモップスというニシンの酢漬け付きのラプスカウスロ-ルモップスというニシンの酢漬け付きのラプスカウス

さて、今回久しぶりに、そしてレストランでは初めて「ラプスカウス」に挑戦することに! 本誌1191号でもご紹介したミカエル教会の近くの、17世紀の寡婦住宅界隈にあるレストラン「Krameramtsstuben」で注文してみました。見た目は相変わらずですが、味は結構おいしかったです。昔、過酷な状況で働いていた船員たちが、故郷の食事を夢みながら頬張ったこの「ラプスカウス」。なんだかちょっと、海の香りがしました。

17世紀の面影が残るレストラン「Krameramtsstuben」17世紀の面影が残るレストラン「Krameramtsstuben」

岡本 黄子(おかもと きこ)
ハンブルグ郊外のヴェーデル市在住。ドイツ在住38年。現地幼稚園で保育士として働いている。好きなことは、カリグラフィー、お散歩、ケーキ作り、映画鑑賞。定年に向けて、第二の人生を模索中。

 
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