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シャガール展に思う

ハンブルクの美術館で特別展がある時は、電車の駅などに大きな宣伝ポスターが貼り出されます。昨年秋、「マルク・シャガール 人生の軌跡」というタイトルのポスターが登場しました。以前より、シャガールが聖書を題材にした絵を多数遺したことを聞いていた私は、同展に行ってみることにしました。

展覧会の会場はハンブルク美術館(Hamburger Kunsthalle)だと勝手に思っていたら、実はブツェリウス芸術フォーラム(Bucerius Kunst Forum)という美術館。「えっ、それってどこ?」と知人に尋ねると、「市庁舎の隣」という回答が返ってきました。「市庁舎の隣に美術館なんてあったかしら?」と思いましたが、ちゃんとあるんですね。普段その前をよく通っているのに、全く気付きませんでした。ブツェリウス芸術フォーラムには常設展示がなく、年4回くらいの割合で特別展のみ開催しているそうです。今回のシャガール展は、昨年10月8日から今年1月16日まで行われました。

ハンブルク
会場内にある美術館ショップ

シャガールは帝政ロシア領ヴィテブスク(現ベラルーシのヴィツェブスク)という、住民の大半をユダヤ人が占める街で生まれたユダヤ人です。同展は、「人生の軌跡」をテーマに、彼の生まれ故郷の風景や愛妻ベラをモチーフにした絵が多く展示されていました。中でも興味深かったのが、ユダヤの祭りを描いたスケッチです。旧約聖書に書かれていて、現代でも伝統的ユダヤ人が忠実に守り続けている「過越しの祭り」「仮庵の祭り」「ヨム・キプル(贖罪の日)」などの祭りの風景を、日本人の私たちが目にする機会はほとんどありません。ユダヤ人であるシャガールが、これらの祭り1つ1つを詳細に描いたスケッチからは、彼がユダヤ人としてのアイデンティティをしっかりと持っていたことが伺えます。

シャガールと言えば、複数のモチーフを1つの絵画に織り込んだ、イメージをそのまま絵に描いたような構成と大胆な色彩が特徴だと思っていましたが、初期の作品だからなのか、かなり写実的な描写の白黒のスケッチというのも、ほかの作品と一線を画していました。

ユダヤ教徒として育ったシャガールですが、後に委嘱により旧新約聖書全体の挿絵を描いています。新約聖書のモチーフであるキリストの十字架刑が旧約聖書の挿絵に描かれていることから、彼自身が旧約聖書とキリストとのつながりに注目していたことがわかります。ユダヤ人として、彼がキリストをどのように捉えていたのか、シャガールという人物についてもっと知りたいと思わされた展覧会でした。

ハンブルク
市庁舎の右隣にあるブツェリウス芸術フォーラム

井野さん井野 葉由美(いの はゆみ)
ハンブルグ日本語福音キリスト教会牧師。イエス・キリスト命。ほかに好きなものはオペラ、ダンス、少女漫画。ギャップが激しいかしら?
 
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