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保養地を光と音で彩る アートイベント「Lichtsicht」

暗闇の泉にオーロラが舞い降りたような幻想的な光景。小さな池の噴水には映像が投影され、水しぶきが色とりどりに輝いています。これはLydia Hoskeによる「ESSENZ」というビデオアート作品です。池の隣にそびえ立つ巨大な建造物の壁面には、さまざまなビデオが投影されています。近づくと水しぶきが顔にかかり、少し塩辛い。よく見ると壁面は細い枝に覆われています。

ESSENZ / Lydia HoskeESSENZ / Lydia Hoske

ここは、バート・ローテンフェルデ保養公園。2007年からこの地で開催されている「Lichtsicht」は、公園内の歴史的建造物を活用したアートビエンナーレです。7回目を迎える今回は4カ月で10万人を超える来場者を集めました。「Lichtsicht」の期間中、日没後にはこの建物の壁が世界最大級のスクリーンとなり、25人の芸術家の作品が上映されます。今回、僕もその一人として参加しました。

僕がドイツに来て驚いたことの一つに、「Kur」(保養)という概念があります。日本では、心身の健康を整えるために長期的な休暇を取ることとは、特殊な事情と考えられています。一方ドイツでは、定期的に予防のための保養休暇を取ることが奨励されています。各地に保養を目的とした施設があり、オスナブリュック近郊にあるバート・ローテンフェルデもその一つです。ここの魅力は、地下塩水を活かした温泉施設。1700年代に塩泉が発見されて以来、製塩業、そして温泉・保養地として発展してきました。

保養公園の中には、横412メートル、高さ10メートルほどの巨大な建築物があります。これは、かつてあった製塩所を再建したもの。その当時、塩は「白い黄金」と呼ばれたほど貴重なものでした。この建築物には、日照時間の少ない土地で塩を採集する先人の知恵が詰まっています。例えば壁面に群生する樹木は、したたり落ちる塩水の蒸発を促進する役割。流れ落ちる塩水には空気をきれいにする効果もあるといわれ、散策する人々に喜ばれていました。

My father / Takashi KunimotoMy father / Takashi Kunimoto

アートイベントの数々の作品の中で印象深かったのは、Simon Weckertによる「Eternal Dream」。壁の前に立った来場者の身体がスキャンされ、ジャンプすると壁に投影されたイメージが空まで飛び上がります。手をつないだ親子のイメージが壁を登っていく姿に、童話『ちいちゃんのかげおくり』(あかね書房)のことが頭をよぎりました。この街に流れる歴史を感じながら、塩水の癒しの力と芸術の力を満喫し、心と体が元気になるイベントでした。

国本隆史(くにもと・たかし)
神戸のコミュニティメディアで働いた後、2012年ドイツへ移住。現在ブラウンシュバイクで、ドキュメンタリーを中心に映像制作。作品に「ヒバクシャとボクの旅」「なぜ僕がドイツ語を学ぶのか」など。三児の父。
takashikunimoto.net
 
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