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石の響きとともに平和を願う

広島市立大学講師の藤江竜太郎さんが8月6日、ハノーファーのエギディエン教会で「石のワークショップ」を実施しました。このワークショップは、2019年に亡くなったハノーファー専科大学教授の藤原信さんが長年開催していたもの。今回は藤江さんが世界平和と藤原さんへの追悼の意を込めて行いました。

広島市とハノーファー市は姉妹都市で、来年は姉妹提携40周年を迎えます。ハノーファー専科大学と広島市立大学も24年前から交換留学を実施しており、これまで日独200名以上の学生が参加。藤江さんも20年前にハノーファーに留学していました。

石と向き合うワークショップ石と向き合うワークショップ

ワークショップでは10個の石が用意され、四つは広島の原爆を体験した石、残りはハノーファーの石です。参加者たちは、一人一つの石と向き合います。まず、のみと 金槌 かなづち でゆっくり石を叩きます。力を抜いて上から金槌を落とす感じにすると、自然と心拍に近いリズムになるそうです。慣れてきたところで、今度は深く息を吸い込み、全部吐いてから石を打ちます。

藤江さんは「石の声を聞く、石と対話するように叩く」と説明します。徐々に呼吸をゆっくりにし、石の音に耳を澄ませます。各人が自分のペースで呼吸しているので、屋根の抜けたエギディエン教会には途切れ途切れに金槌、のみ、石の音だけが響き、天につながっているような不思議な空間となりました。なぜ息を吐いてから打つのか。それは、息を吸い込んでから打つと攻撃的になるからです。確かに物を投げたり、武道で技をかけたりするときは息を吐きながら、または「えいっ」とかけ声をかけるながらすることが多いです。

石を前にした藤江さん石を前にした藤江さん

参加者に感想を聞いたところ、「皆とこうして石を打っていると、リズムがそろって調和してきた」、「息を吐いてから石を打つと、世界とつながっている気がした」という人がいました。また広島の石を打った人たちからは、「この石は人間の痛みをたくさん見てきたのだろうなと思った。いろいろな体験をした石をまた叩くのは心が痛んだけれど、息を吐いた後に叩くと心がだんだん開いてくるように感じた」、「瞑想しているみたいに無心になる。息を吐き切ることで静かな瞬間が訪れ、体もその準備ができてきた」といった声も寄せられました。

今は亡き藤原さんは、石彫家として長年ハノーファーで学生たちを指導してきました。藤江さんは「藤原先生は素材の声を聞くことを教えてくれました。社会の声、人の声、自然の声は、耳を澄まさないと聞こえません。主張することが争いにつながる。まずは小さな声に耳を傾けることが大事なのではないか。その姿勢を藤原先生から学びました」とします。石を叩くという行為はとてもシンプルであり、だからこそ奥が深い。呼吸と音に集中することで、自分の内側、また同時に周囲の自然の音に意識がいき、物事への向き合い方一つで別の世界が開けるのだと感じました。

田口理穂(たぐち・りほ)
日本で新聞記者を経て1996年よりハノーファー在住。ジャーナリスト、法廷通訳・翻訳士。著書に『なぜドイツではエネルギーシフトが進むのか』『市民がつくった電力会社: ドイツ・シェーナウの草の根エネルギー革命』、共著に『お手本の国」のウソ』(新潮新書)、『コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿』(光文社新書)など。
 
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