今年から、難民としてドイツに滞在する青少年たちと一緒に写真やビデオを作るプロジェクト「SaveArt Space」を始めました。トラウマを抱える難民の人々をカウンセリングなどを通して支援する組織Netzwerk für traumatisierte Flüchtlinge inNiedersachsen e.V.の活動の一環として、現場の運営は僕と写真家の同僚と二人で行っています。もちろん参加費用はかかりません。これまでに写真・映像ワークショップや美術展訪問などを行い、アフガニスタン、イラン、イラク、シリア、コロンビア、ロシアなどから来た12人が参加してくれました。
「裸足で歩く」シーン
ドイツに来る前、僕は神戸のNPOで似たようなコンセプトの活動に携わっていました。多文化な背景を持つ子どもたちによる表現活動「Re:C」というプロジェクトで、ベトナムや中国、韓国、南米などにルーツを持つ若者たちの溜まり場であり、彼らとラジオ番組やニュースレター、ビデオを一緒に作っていました。
僕の仕事は、若者が日常生活の中で楽しかったこと、モヤモヤしたことを、彼らの言葉で伝えられるようにサポートすることでした。そのなかで印象に残っている作品の一つが、MC NAMという青年が作ったミュージックビデオ「オレの歌」です。ボートピープルとしてベトナムから逃れてきた祖父母への想い、難民3世として日本で生きていく覚悟をつづった言葉に、神戸の風景を重ねました。先日、日本に帰ったときに、彼らと10年ぶりくらいに再会。当時みんなが、「しんどいことを、何でわざわざ表現しないといけないのか」って言っていたことを思い出しました。そんな彼らは、就職、結婚、出産とさまざまに人生を歩んでいます。
「SaveArt Space」のチラシ
ブラウンシュバイクでのワークショップには、ドイツ語が話せない人も来ます。可能であれば通訳に入ってもらいますが、毎回というわけにはいきません。スマートフォンの通訳機能や身振り手振りを駆使していますが、もっと言葉が話せたらなあとつくづく感じます。
先日、「ふるさと」という言葉から連想される風景について話していた時のこと。家族の集まりで出される食べ物、祖父母の家、山や川、夕方の路上の雰囲気など、いろいろな光景が出てくるなか、アフガニスタンから来た女性が「裸足で歩くこと」と言いました。その言葉からみんなでイメージを膨らませ、近くの公園で撮影を行って短いミュージックビデオを作ることに。即興的に表現をまとめ上げていくのはスリリングですが楽しく、出来上がったものをみんなで見るときは盛り上がりました。
ワークショップの一つの目標として、来年のブラウンシュバイク国際映画祭に作品を応募することを掲げています。それまでにどんなものを作り出せるのかワクワクしています。
神戸のコミュニティメディアで働いた後、2012年ドイツへ移住。現在ブラウンシュバイクで、ドキュメンタリーを中心に映像制作。作品に「ヒバクシャとボクの旅」「なぜ僕がドイツ語を学ぶのか」など。三児の父。
takashikunimoto.net