「定職につくか、フリーランスを続けるか、どうしようかな」「奨学金がそろそろ切れそう、レジデンスに応募しなくちゃ」。美術大学を卒業した仲間に会うと、こういった話題が尽きません。ドイツでも「好き」を仕事にすることは容易ではなく、それぞれ悩みながら道を模索していく姿は冒険的です。かくいう僕自身も3年前にブラウンシュバイク美術大学を卒業し、最初はフリーランスで活動をしていたのですが、なかなか収入面が安定しないため、今は定職につきながら制作活動を続けています。今回は美術で生きていこうと模索している仲間の一人を紹介します。
長谷川さんの個展「Im Sommergrün der Erinnerung」
先日、ハノーファーとヴォルフスブルクの間に位置するマイナーゼンで開催されていた、美術展のクロージングイベントに行ってきました。マイナーゼンには、歴史のある「芸術家の家」があります。2階建てのピンク色の木骨造りの建物は、1745年に役場の最高責任者の公邸として建てられました。その後、農業学校、警察署、幼稚園として使用された後に、1989年からは芸術家の家に。当初は6室、現在は9室のアトリエ付きアパートメントが整備されています。ここでは、国内外の才能ある若手芸術家が、田園地帯の静寂の中で芸術活動を行うことができます。
ヴァイオリン奏者のGianni Jiosuè Wiedeさん
さて、今回紹介する長谷川望さんは、ここで3カ月間の滞在制作プログラムの締めくくりとして個展を催しました。「Im Sommergrün der Erinnerung」(夏の緑の思い出)というタイトルの展覧会では、マイナーゼンとその周辺の風景、拾ったもの、情景からインスピレーションを得て制作された、印象的な大判の絵画シリーズが展示されていました。彼女の作品は、デジタルスキャナーで切り取ったようなイメージを、自分の知覚や記憶と融合させながら、自分で制作したキャンパスの上に展開していきます。大きな絵の前に立った時に、描かれた断片の集合体に自分の想像力が刺激され、普段何気なく見ているものを再度見つめ直すような体験ができるのです。
www.nozomihasegawa.com" />長谷川さんの作品はこちらからご覧になれます www.nozomihasegawa.com
クロージングパーティーでは、音楽家のジャンニさんがヴァイオリンを演奏しました。一つのヴァイオリンから繰り出されているとは信じられない音の重なり、遊び心溢れた実験的な奏法、長谷川さんの色彩にも調和する多彩な音階を楽しむことができ、大満足でした。実は長谷川さんとは最近、ブラウンシュヴァイクで制作現場を共同使用することになりました。着実に自分の道を進む彼女から刺激を受けながら、今年はさらに自分の制作活動を進めていこうとあらためて思うことができた展覧会でした。
国本 隆史(くにもと・たかし)
神戸のコミュニティメディアで働いた後、2012年ドイツへ移住。現在ブラウンシュバイクで、ドキュメンタリーを中心に映像制作。作品に「ヒバクシャとボクの旅」「なぜ僕がドイツ語を学ぶのか」など。三児の父。
takashikunimoto.net