Hanacell

広島と福島を伝える2人のドイツ人

8月1日から15日まで、広島の被ばく者についての写真展『ブラックレイン被ばく者-黒い雨の子どもたち(Black Rain Hibakusha - Kinder des schwarzen Regens)』が市内のマルクト教会で開かれました。初日の開幕式で写真家のトーマス・ダムさんがあいさつし、作品について解説。展示された写真27点のうち14点はポートレートで、何かを訴えるような表情に各人の歴史がにじみ出ています。

被ばく者の写真の前に立つトーマス・ダムさん
被ばく者の写真の前に立つトーマス・ダムさん

ダムさんは2013年に交換留学生として広島に滞在したのを皮切りに、これまで3回広島を訪れました。被写体となってくれたのは、原爆の影響を受けているにもかかわらず、政府が被ばく者として認定していない人たち。認定を求めて長く闘ってきた人もいます。

撮影の際、皆当時の様子を熱心に語ってくれたと語るダムさん。 話しながら涙する人もおり、ダムさんは「自宅に招待してくれたり、歓迎してくれた。外国から写真を撮りにきたというだけで、彼らにとって特別なことなのだと感じた」と言います。そして「これだけ長い時間が経っても、被ばくの事実は風化しない。被ばく者として体験を聞いてもらう、誰かに認めてもらうというのが、当人にとっていかに重要なことなのか実感した」とも語りました。このような人たちがいるのだということを多くの人に知ってもらいたい、と願いながら撮影したのだそうです。

続いて、アンドレアス・ジングラーさんが、日本の原子力発電の歴史について講演しました。ジングラーさんは日本に造詣が深く、日本の反原発運動について『さよなら原子力—「フクシマ」後の日本のプロテスト(ドイツ語名:Sayonara Atomkraft — Protest in Japan nach „Fukushima“)』を今年出版しました。講演では原爆を落とされた日本が、なぜ核の平和利用と称して原発を導入するに至ったかを説明し、民主主義について問いかけました。日本人は従順だといわれるけれど、福島原発事故後に反原発デモが起こり、これまでの日本人のイメージを覆したと言います。

著書『さよなら原子力』を手にするアンドレアス・ジングラーさん
著書『さよなら原子力』を手にするアンドレアス・ジングラーさん

高齢化が進み、何十年も苦しんできたのに未だ被ばく者として認められていない人がいる一方で、日本で原発の再稼働が進められています。同じ悲劇を繰り返さないためには、何が起こったかを忘れないことが第一歩。写真展は、ドイツで広島や長崎の原爆投下や日本の原子力発電に興味を持っている人がいる、忘れまいとする人がいると教えてくれました。また講演の合間に、ハノーファー在住の歌手・池城ヒルシュフェルト淑子さんによる「荒城の月」「千の風になって」が披露され、参加者たちの胸にしっとり沁みました。

「ブラックレイン被ばく者」についてダムさんのサイト:
www.thomasdamm.com/hibakusha

『さよなら原子力 -「フクシマ」後の日本のプロテスト:
www.ebv-berlin.de/Sayonara-Atomkraft-Protestein-Japan-nach-Fukushima

田口理穂(たぐち・りほ)
日本で新聞記者を経て1996年よりハノーファー在住。社会学修士。ジャーナリスト、裁判所認定ドイツ語通訳・翻訳士。著書に『市民がつくった電力会社: ドイツ・シェーナウの草の根エネルギー革命』(大月書店)、共著に「お手本の国」のウソ(新潮新書) など。
 
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