ジャパンダイジェスト

気になる口臭の基礎知識

寝起きにパートナーから口臭を指摘され、ショックを受けています。最近は飲み会が続いているため胃の調子が悪いことも関係しているような気がしますが、ほかにどのような原因が考えられるでしょうか?

Point

  • 病的口臭の原因の大半は口腔内
  • 舌苔と歯垢への対応と予防が大切
  • 口の乾燥とストレスで生理的口臭が増します
  • 飲水、食事は生理的口臭を軽減
  • 全身疾患で生じる口臭にも注意

口臭(呼気臭)の原因

口臭(呼気臭)の原因

誰にでもある口臭
● 一般的なもの 起床時、空腹時、緊張、加齢
● ホルモン変化 妊娠時、月経時
● 食物、嗜好物、薬 ニンニク、アルコール、ビタミン薬
病気による口臭
● 舌・歯の病気 舌苔、歯周炎、歯垢
● 鼻・のどの病気 副鼻腔炎、扁桃腺炎
● 全身の病気 糖尿病、肝臓病、腎臓病、消化不良
心因性の口臭症 不安神経症、妄想

● 誰にでもみられる現象

口の臭い(ドイツ語でMundgeruch、Halitosis)が全くない人はいません(生理的口臭)。朝目覚めた直後、ひどい空腹時、口の中が乾いた状態のとき、過度の緊張やストレスを感じているときに口臭が強まります。

● 食事・嗜好品・治療薬による口臭

ニンニクやネギを食べた後、アルコールを飲んだ翌日には、何を食べたか周囲も気づく口臭が。喫煙家独特のヤニ口臭などもあります。服薬中の治療薬により、特徴のある呼気臭を感じることも。

● 口中に原因がある口臭、全身の病気と関係する口臭

歯周病、歯垢(しこう)、舌苔(ぜったい)など、口臭の90%以上は口の中(Mundhöhle)に原因があると言われています。のどや鼻の病気にも口臭がみられます。また、糖尿病による高血糖状態、飢餓時、肝臓や腎臓の不全状態、胃腸が悪く体内で異常発酵をしている際にも、それぞれ特徴的な口臭が発生することがあります。

● 自分だけが気になる口臭

生理口臭程度にもかかわらず、他人の素振りから自分の口は臭いのではないかと悩む「心理的口臭症」です。

口の中の病気

● 大半は口腔内が原因

口臭のほとんどは、舌苔、歯垢、歯周炎など口腔内の病気が原因となっています。

● 臭い成分「硫黄化合物」

前記の病変からは腐ったような臭いがする揮発性硫黄化合物(硫化水素、メチルメルカプタン、ジメチルサルファイド)を発生します。

● 舌苔 Zungenbelag

舌の表面に白く付着したように見える舌苔。細菌と口内粘膜のかす、食物中のタンパク質からできています。

● 歯垢 Zahnbelag、Plaque

食べかすの中で細菌が増殖してできる粘着性の黄白色物質で、ガスを発生します。次第に歯石(Zahnstein)となり、歯周病(Parodontitis)を引き起こします(本誌 Nr. 1014号「ドイツ歯科事情」を参照)。

● むし歯(う歯) Zahnkaries

歯の傷に細菌と食べ物かすが入り込むとガスを発します。歯根部まで侵されると強い悪臭を発生します。

耳鼻科の病気

● 副鼻腔炎(蓄膿症) Sinusitis

鼻腔は口腔と中で繋がっていて、嫌な匂いの膿を含む鼻汁が口腔内に流れ落ち、口臭を引き起します。

● 扁桃腺炎 Tonsillitis

扁桃腺の表面にある穴に、細菌の死骸や食べかすなどが溜まったのが「におい玉」(膿栓:Tonsillenstein、Tonsillolith)です。生臭い下水のような臭いがします。

口の乾燥と口臭

● 唾液(Speichel)の役割

口の中が乾燥(Mundtrockenheit、Xerostomie)すると、唾液の洗浄作用、抗菌作用、組織の修復作用の働きが弱まり「生理的口臭」が増加。口を開けて眠ったり、水分を長く摂っていないときも口臭が強くなります。

● 口臭と食事の関係

口臭は寝起きが最も強く、昼食や夕食の前の空腹時にも増加。食事をすることで口臭は減ります。

口臭の強さの日内変動

口臭の強さの日内変動

● 高齢者の唾液減少

唾液の分泌量は1日に0.5〜1.5ℓです。唾液量は30代をピークに40歳以降は減少し、高齢者になると 0.5ℓ程度まで少なくなります。

● ストレスによる唾液減少

長期のストレス下では唾液量が3割近く減少。また、過度な緊張状態のときにも唾液分泌が減少します。

● 治療薬による唾液減少

唾液量を減らしドライマウスの原因になる治療薬もあります。よく使われているのは、抗ヒスタミン薬(花粉症)、抗コリン薬(腹痛)、抗うつ薬などです。

女性ホルモン変化と口臭

● 月経期間、妊娠中の口臭

月経期間中と排卵日の前後で口臭が増すことがあります。生理中は唾液量が減ることが関係するといわれています。月経サイクルに伴う口腔の揮発性硫黄化合物の量については、必ずしも一定の見解がないようです(1979年の医学専門誌のJ Inter Med Res、2018年のInt J Clin Prev Dent)。また、妊娠中の口臭が増すのは、唾液の分泌が変化したり、歯肉の炎症が起こりやすくなるためと推測されています。

臭いから疑われる病気

● 甘酸っぱい呼気

飢餓の状態、高血糖で糖代謝がうまく回転しないとき、極端なダイエット時には体の脂肪がエネルギー源として使われケトン体という物質を生成するため、甘酸っぱいアセトン臭の口臭(呼気臭)がみられます。

● カビ臭い口臭

肝機能が低下すると、肝臓で分解されるはずの物質を代謝しきれずにカビのような口臭が現れることも。

● 卵が腐った臭い

胃潰瘍、十二指腸潰瘍などに伴う消化不良で、消化されない食物が胃腸の中で腐敗し臭いが血流を介して肺から呼気に排出されることがあります。

● 腐った卵とニンニクが混ざった臭い

肝機能が衰えた、肝不全末期でみられる臭いです。

● アンモニア臭、尿臭

腎機能が低下して尿毒症の状態のときにみられます。

口臭の予防と対策

口臭予防のポイント

• 朝起きがけに水一杯
• デンタルフロスで歯垢、歯石予防の手入れを
• 少量でも朝食を
• 快眠、快便が基本
• 過緊張の状態を減らす
• アルコールは程々に
• 口臭を気にするなら禁煙
• ニンニクを使った料理は、翌日の予定を考え要検討

● 口腔ケア

歯垢、歯石予防の日常の手入れにはデンタルフロス(Dental floss、Zahnseide)が有用(本誌 Nr. 1096号「ドイツ歯科事情」)、舌苔の除去にはガーゼの利用が便利だと言われています。年1回の歯科クリーニングも大切です。

● 水分と軽食

朝のうがい、飲水、日中でも水を時々飲み、口の中が乾燥しないようにします。朝食や日中の軽食も唾液の分泌を促し生理的口臭を改善します。

● 十分な睡眠

十分な睡眠はストレスへの対応力を増します。定期的なスポーツは気分転換によるストレス解消にも有用です。

 
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馬場恒春 内科医師、医学博士、元福島医大助教授。 ザビーネ夫人がノイゲバウア馬場内科クリニックを開設 (Oststraße 51, Tel. 0211-383756)、著者は同分院 (Prinzenallee 19) で診療。

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