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エコノミークラス症候群

質問: 最近、ドイツから米国や南米への出張、日本での打ち合わせなど、長距離フライトでの旅が増えています。よく耳にするエコノミークラス症候群とは、具体的にどのような病気なのでしょうか?

Point

  • 長時間動けない状態で生じる静脈血栓症です。
  • ビジネスクラス利用者にもみられます。
  • 大災害時の車中泊でもリスクが高まります。
  • 足の血栓が肺に飛ぶと、肺血栓塞栓症を引き起こすこともあります。
  • 機内では水分を補給し、足を動かすように。
  • 旅行中に異変を感じたら、医療機関の受診を。

エコノミークラス(Economy Class Syndrome)症候群とは?

● 長距離旅行者にみられる血栓症
10時間を超えるような長距離フライトの旅行中、下肢の静脈に血栓ができたり、それが肺に流れ飛んで、急な胸の痛みや呼吸困難に陥ったりする循環器の病気です。時には命を落とすこともあります。「旅行者症候群」「ロングフライト血栓症」とも呼ばれます。

エコノミークラス症候群

● 原因は静脈内にできる血の塊
乾燥した機内で長時間、狭い座席にて同じ姿勢を保っていると、下肢(ふくらはぎや大腿部)や下腹部の静脈の血液の流れが悪くなり、静脈の中に血の塊(血栓、Thrombus)ができることがあります。これが「深部静脈血栓症(静脈血栓症、Tiefe Venenthrombose)」です。

● 血栓が血流に乗って肺へ
足の静脈にできた血栓が、歩き出しなどの動作をきっかけに血流に乗って流れ出し、肺の血管に詰まって発症するのが「急性肺血栓塞栓症(肺血栓塞栓症、 Lungenthromboembolie)」です。

● 飛行距離との関係
1993~2000年に行われたシャルル・ド・ゴール空港(フランス)での調査によると、飛行距離1万km以上では100万人当たり約5人に肺血栓塞栓症の発症がみられたのに対し、飛行距離5000km未満ではわずか0.1人でした(『NEJM』誌(2001年)発表)。日本における調査では、エコノミークラス症候群の患者44人のうち7割がエコノミークラスの座席を利用しており、窓側の座席に座っていた発症者の割合は通路側の約2倍でした(参考:航空医学研究センター)。

乗客100万人当たりの肺血栓塞栓症の件数

発症はエコノミークラスに限らない

● ビジネスクラスでも
エコノミークラスの狭い座席が問題かと思いきや、実際にはビジネスクラスの利用客も発症しています。ドイツのブンデスリーガでも大活躍した元サッカー日本代表の高原直泰選手は、2002年にビジネスクラスで移動中に、エコノミークラス症候群を発症しました。

● 長距離バスや車での移動
一昼夜ほとんど足を動かさないで座った状態が続く長距離バスや、自家用車での長距離ドライブでも発症します。また、船旅でも起こり得ます。

● 病院のベッドでの寝たきり生活
静脈血栓症が多くみられるのは、手術後などで病院のベッドに寝たままの状態が続いたときです。身体を動かさないため、足の静脈の流れが悪くなり、血栓ができやすい状態になっているのです。

● 大災害が発生したときの避難生活
2004年の新潟県中越地震、2011年の東日本大震災では、多くの被災者が水分や食料が不足したまま、自家用車などの狭い空間で座ったまま長時間を過ごし、エコノミークラス症候群を発症しました。福島県内の避難者については、下肢の静脈血栓症のリスクが認められた人が42.6%、血栓が認められたのが9.5%と、かなり高い割合でした(福島県立医科大学、心臓血管外科の報告より)。

福島県内の被災地の静脈血栓発生率

深部静脈血栓症の症状

● 深部静脈はどこにある?
皮ふ表面に見られる表在静脈とは異なり、体の深くに位置する静脈です。特に、足や骨盤内の静脈が深部静脈血栓のできやすい部位として問題になります。

● 急性期の症状
静脈の血流が悪くなるため、足の痛み、むくみ、皮膚が赤くなるなどの症状がみられます。症状の有無や重症度は、血栓の範囲と広がり方によって変わります。無症状のまま、気付かない場合もあります。

肺血栓塞栓症の症状

● 肺に詰まると
血栓の大きさや、その人の体の状態によって、引き起こされる症状は異なります。小さい血栓なら、無症状で経過することもあります。しかし、大きな血栓が血管を詰まらせるような場合は、突然の胸痛、息切れ、呼吸困難がみられ、さらに広範囲にわたって血管が詰まると、血圧低下や意識障害が現れ、生命が危険な状態に陥ることもあります。

● 発症後の経過
大部分の小さな血栓は、治療をせずとも自然に溶けて小さくなります。一方、溶けずに固く器質化した血栓は、慢性肺血栓塞栓症として肺高血圧や右心不全などを引き起こし、生命を左右することにもなりかねません。

エコノミークラス症候群になりやすい状態

● 静脈血栓を引き起こす3大因子
「血液が固まりやすい」「静脈の血流が良くない」「静脈の血管に傷がある」。この3つが静脈血栓を起こしやすくする原因です。水分を十分に補給せず、乾燥した機内で長時間過ごすと当然、体は水分不足に陥ります。さらに、同じ姿勢で座り続けていると、筋肉の収縮・弛緩を繰り返すことで送り出されるべき静脈内の血液の流れが滞りがちになるのです。

静脈血栓のリスク要因

● その他の因子
静脈内に血栓ができやすい状態を作り出すと考えられている、高齢者、妊娠中や出産直後といった生理的な因子、受動喫煙を含む喫煙習慣、肥満などの生活習慣に関わる因子も無視できません。疾病と関係する因子としては、足の静脈瘤、足・骨盤・股関節の損傷、がん、一部の血液疾患、心不全などがあります。

エコノミークラス症候群の予防

飛行機やバス、車など、狭い座席に長時間座っているときは、ときどき足や足の指を動かすようにしましょう。足首の上下運動や、飛行機の中なら座席から立ち上がったり、通路を歩くことも効果があります。機内は乾燥していますので、定期的に水分補給を行いましょう。下肢の静脈血栓塞栓症のリスクの高い人は、弾性ストッキング(Kompressionsstrümpfe)の着用が有用であることが、新潟県中越地震や東日本大震災での経験から認められています。

主な発症場所

 
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馬場恒春 内科医師、医学博士、元福島医大助教授。 ザビーネ夫人がノイゲバウア馬場内科クリニックを開設 (Oststraße 51, Tel. 0211-383756)、著者は同分院 (Prinzenallee 19) で診療。

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