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ウイルスとワクチンを知る

ウイルスと細菌は何が違うのでしょうか? また、新型コロナウイルスは何度も変異していると聞きました。話題のmRNAワクチンについても詳しく知りたいです。

Point

  • •ウイルスは感染力を持った粒子
  • •ウイルス粒子の中は遺伝子情報
  • •ほかの生物の細胞を利用して増殖
  • •遺伝子の変異が多く、速い
  • •抗ウイルス薬はウイルス複製を抑える
  • •COVID-19のワクチンに期待

ウイルスって?

● 名前の由来

ウイルス(ドイツ語でViren)は19世紀末に発見され、その呼び名はラテン語で「毒」を意味する「Venenum」 、 「Virus」が由来とされます。

● ウイルスの大きさ

ウイルスは、細菌と真菌(カビ)と比べても1番小さく(巨大ウイルスを除く)、例えば新型コロナウイルス(約0.1μm、1mmの1万分の1)は大腸菌(長径が約3.0μm)の約30分の1の大きさです。

ウイルスの大きさ

● 感染力を持った粒子

ウイルスは、殻(カプシド)の中に1本鎖(RNA)あるいは2本鎖(DNA)の遺伝子情報(核酸)を含んでいます。また、カプシドの外側が膜(エンベロープ)に包まれているタイプのウイルス種も。ウイルス粒子は動きも増えもしませんが、生物の細胞の中では見違えるように活発になります。

● 細胞外での生存期間

細胞の外に排出されたウイルスは、通常は短期間で増殖できなくなり、死んでしまいます。太陽の紫外線、熱、さらにエンベロープを持つウイルスのようにアルコール、洗剤で簡単に不活化するものもあれば、ノロウイルスやポリオウイルスのように外界で長期間にわたり感染力を保つものも。エアゾル化した新型コロナウイルスは空中で3時間以上、物体に付着した場合は3日間以上にわたり感染力が継続します(3月17日のNEJM誌)。

● 変異し続ける

複製による増殖が著しいため、遺伝子のコピーミスによる変異ウイルスも時々生じます。変異ウイルスのウイルス集団が大部分を占めると、新種の変異ウイルスとして拡がります(山内一也著『ウイルスの意味論』みすず書房、2018年より)。

人の体に存在するウイルス

● 健常人にも多くのウイルス

ウイルスは人の皮ふ(2015年のmBio誌)をはじめ、体の至るところに不顕性感染しています(東京大学医科学研究所、今年6月のBMC Bilogy誌)。また、私たちの体の免疫状態や健康状態に何かしら関与している可能性があると推測されています。

● ウイルスの遷せんえん延感染

水痘・帯状疱疹ウイルスや口唇ヘルペスを生じる単純ヘルペスウイルス1型は、症状が消えた後も神経節に潜在します。前者は体の免疫が弱った時に帯状疱疹(Herpes Zoster)として現れ、後者は風邪をひいた後などに再発を繰り返すことに。さらに、子宮頚がん(Zervixkarzinom)はヒトパピローマウイルスの長期感染が原因とされています。

● 動物のウイルスが人へ

新型コロナウイルスはコウモリ由来のウイルスとする見方が強いです。麻疹ウイルスも、もともとは牛のウイルス(牛疫ウイルス)が人に拡がったと推測されています(2010年のVirol J誌、2020年のScience誌)。なお、ヘルペスウイルスは哺乳類、鳥、魚から軟体動物に広く感染がみられます。

ウイルス感染症の治療

● 抗体によるウイルス排除

ウイルスに感染すると体内からウイルスを排除する抗体(Antikörper)がつくられます。麻疹は1回の感染で終生免疫が得られます。しかし新型コロナウイルスでは、抗体(IgG)のできない人や(6月5日のリューベック保健所の報告)、抗体が数カ月で消失してしまう例が報告されています(7月のNEJM誌)。

● 中和抗体による治療

ウイルス感染の回復者の血液からウイルスの感染を抑える抗体(中和抗体)を取り出し、人為的に大量生産して治療薬にするものです。感染初期に投与して発症や重症化を減らすことが期待されています。新型コロナウイルスに対しては、ウイルスの表面の突起を認識し感染を抑える中和抗体が開発されました(米国のイーライ・リリー社など)。

● 抗ウイルス薬

エボラウイルス治療薬のレムデシビルやインフルエンザ治療薬のアビガン®は、ウイルスの複製に関与するRNAポリメラーゼという酵素を阻害します。口唇ヘルペスや帯状疱疹には、薬が細胞内のウイルスDNAに取り込まれて増殖を抑えるアシクロビルが用いられます。一方、タミフル®は、インフルエンザウイルスがほかの細胞に感染を拡げる時に必要な酵素を阻害。しかし、多くのウイルスに対して特異的に効く抗ウイルス薬はありません。

● 対症療法

発熱は解熱鎮痛薬、咳に対し咳止め、脱水に対し輸液、血中酸素低下には酸素吸入や人工呼吸器といった対症療法が行われます。

これまでのワクチン(Impfstoff)

● 生ワクチン(Lebendimpfstoff)

毒性を弱めたり病原性を低下させたウイルスを用いるワクチンで、 弱毒化ワクチンともいわれます。麻疹、風疹、水痘、おたふく風邪などに対するワクチンです。

● 従来の不活化ワクチン(Totimpfstoff)

薬剤処理をして感染や発症する能力を失わせたウイルスを投与する方法。インフルエンザワクチン(注射製剤)など多くのワクチンが不活化ワクチンです。生ワクチンに比べて副反応が少ない半面、免疫の続く期間が短いとされます。

● ウイルス様粒子(VLP)ワクチン

ウイルスの遺伝子情報を含まない外殻(カプシド)のみを投与するワクチンです。B型肝炎ワクチンや子宮頸がんワクチンがあります。

新しいタイプのワクチン

● mRNAワクチン

ウイルス遺伝子情報の一部を含むメッセンジャーRNA(mRNA)を投与、体内で抗原となるタンパクをつくらせ、免疫系が反応して抗体を産生させるというものです。新型コロナウイルスに対してつくられたモデルナ社、およびファイザー社とビオンテック社のワクチンはこのタイプに属します。

● ベクターワクチン

アデノウイルスの中にウイルス遺伝子の一部を組み込み、体内で抗原となるタンパクをつくり、抗体を産生します。新型コロナウイルスに関しては、ウイルスの突起(スパイク)に対する抗体をつくらせるワクチンの開発が進められています。

● DNAワクチン

ウイルスのDNAの一部を細菌がつくる環状のプラスミドDNAに入れて投与、体内で抗原となるウイルスの一部分を作らせて自然免疫を誘導します。新型コロナウイルスでは日本のアンジェス社が開発中です。

● 新しいワクチンの留意点

ワクチン効果の持続期間、副反応(Nebenwirkung)の有無、また傷みやすいRNAを用いるmRNAワクチンでは製剤の安定性も大切です。

新しいタイプのワクチン

新しいタイプのワクチン

 
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馬場恒春 内科医師、医学博士、元福島医大助教授。 ザビーネ夫人がノイゲバウア馬場内科クリニックを開設 (Oststraße 51, Tel. 0211-383756)、著者は同分院 (Prinzenallee 19) で診療。

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