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KfWの大失態

開いた口がふさがらないというのは、このような事件のことを言うのだろうか。米国の大手投資銀行リーマン・ブラザースが破綻の瀬戸際に追い詰められたというニュースが世界中に流れた9月15日、国営金融機関であるドイツ復興金融公庫(KfW)が、3億5000万ユーロ(約525億円)もの大金をリーマンに送金していたことが明らかになったのである。

この送金はKfWがリーマンと行っていた外貨スワップ取引に関する支払いだった。取引先が倒産する疑いが強くなったら、とりあえず全ての支払いを凍結するのは常識である。KfWの幹部らは、3日前の12日にはリーマンの経営が悪化していたことを把握しており、同行と新しい取引を始めないことを決定した。

しかし、それまでの取引によって予定されていた支払いについては、凍結することを怠ったのである。このため、15日の早朝に525億円の金がリーマンの口座に振り込まれた。リーマンはこの日に破綻したので、525億円のうち少なくとも半分は失われると見られている。大金をドブに捨てたようなものである。

シュタインブリュック財務大臣は、「まったくひどい事件だ。KfWでリスク管理が機能していないことが、これではっきりした」と批判した。KfWの管理評議会は、取締役2人と担当部長を更迭するとともに、独立の監査法人にこの送金の経緯について調査させることを決めた。

KfWは多くのドイツ国民に住宅ローンを供給している。政府が所有する銀行なので、倒産する危険がない。KfWのお目付け役である管理評議会の議長は、グロス経済大臣である。

このように公共性が強い銀行は、本来資金の取り扱いについて慎重を期するべきである。倒産まで秒読みといわれ、つぶれることがわかっている銀行に「追い銭」を送るとは、民間企業では考えられない失態である。KfW幹部は、リーマンが倒産しても金を全額返してくれるとでも思ったのだろうか。

KfWのリスク管理が不十分であることは、KfWの子会社であるドイツ産業銀行(IKB)が、サブプライム関連投資で巨額の損失を出して破綻寸前になったことにも現われている。IKBの倒産を防ぐために、KfWと連邦政府は92億ユーロもの公的資金を注ぎ込んだ。日本円で1兆3800億円という莫大な金額である。

IKBは「格付けが高いから大丈夫だろう」と考えて、リスクが高いポートフォリオの中身を十分に審査せずにサブプライム債権が証券化された商品に投資したために、あわや倒産という事態になったのだ。中小企業の支援という公的な任務を持った金融機関にしては、リスク管理が余りにもずさんである。

政府は、すぐにでも公的金融機関のリスク管理体制を根本的に見直す必要があるのではないだろうか。

3 Oktober 2008 Nr. 734

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
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