Hanacell

景気刺激策は十分か?

米国の不動産バブルの崩壊、そしてリーマン・ブラザースの破たんは100年に1度と言われるグローバル金融危機を引き起こし、ドイツだけでなく欧州全体の銀行業界、実体経済に深刻な影響を与えている。現在多くの企業が発表しつつある2008年度の業績は、惨憺(さんたん)たるものだ。

ドイツ銀行界の重鎮ドイチェ・バンクですら、39億ユーロ(約4680億円)という当初の予想を大幅に上回る損失を出した。同行は投資銀行部門を重視し、グローバル化を進めることによって一時は高い収益性を誇ったが、その経営方針が今や裏目に出た。

コメルツバンクは、アリアンツ保険からドレスナー銀行を買収した後になってから、ドレスナーの損失が当初の推計よりも多いことに気づき、政府に対して100億ユーロの公的資金の注入を要請。部分的に国有化されることになった。コメルツ銀の頭取は1月8日の記者会見で「8週間前にはこんなことになるとは夢にも思わなかった」と述べ、見通しが甘かったことを認めている。不動産融資銀行ヒポ・レアル・エステート(HRE)に至っては、サブプライム関連の損失によって自己資本が著しく不足しているため、政府が株式の半分以上を保有する大株主になる見通しが強まっている。

国有化とは、銀行を市民の税金によって救うことだ。銀行の役員たちは、景気が良かった時には高収入を得て我が世の春を謳歌し、経営状態が悪化すると「金融システム全体が危うくなる」と政府に泣きついて、倒産を免れる。しかし中堅企業を中心として、「融資を受けるのは相変わらず難しく、銀行は貸し渋りを続けている」という批判の声は根強い。

自動車産業も苦戦している。今年の新車販売台数は2年前に比べて10%減り、290万台になる見通しだ。各社とも生産を減らし、労働時間の短縮を行っている。自動車産業は、国内勤労者の7人に1人が依存する基幹産業だ。このため政府は、古い車を廃車にして有害物質の排出量が少ない新車を購入すれば、2500ユーロの「環境ボーナス」を支給する方針を打ち出した。自動車メーカーの銀行子会社も政府の援助を申請し始めている。

市民の間からは、「銀行と自動車産業は政府によって助けてもらえるが、他の業種は見捨てられる」という不満の声が聞かれる。大手半導体メーカーだったキモンダの破綻は、そのことを如実に示している。今後倒産が増えるにつれて、批判の声が高まるだろう。

メルケル首相は先月「ドイツの歴史で最大の景気刺激策」を発表した。確かに政府が500億ユーロ(約6兆円)もの規模で公共投資や減税を行うのは異例だ。だが今年の国内総生産は前年に比べて2.25%も減ると予想されている。1949年の西ドイツ建国以来、これほど激しいマイナス成長は1度もなかった。銀行業界の業績悪化もまだ底を打っておらず、政府、つまり納税者が最終的にどれほどの額を保証したり注入したりしなくてはならないのかはわかっていない。不況の暗雲が我々の頭上から去るのはいつのことか。

6 Februar 2009 Nr. 751

 
  • このエントリーをはてなブックマークに追加


熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
www.facebook.com/toru.kumagai.92
Nippon Express ドイツ・デュッセルドルフのオートジャパン 車のことなら任せて安心 習い事&スクールガイド バナー

デザイン制作
ウェブ制作