instagram Facebookツイッター
ロンドンのゲストハウス
Mi. 20. Nov. 2019

極右テロ・警察の大失態

旧東ドイツのネオナチ・グループ「国家社会主義地下組織」(NSU)が、10年以上にわたり全国でトルコ人やギリシャ人など10人を射殺し、爆弾テロや銀行強盗を繰り返していた事件は、ドイツの捜査機関にとって戦後最大のスキャンダルだ。

特に憤慨させられるのは、警察が「トルコ人の親族間の抗争ではないか」とか、「被害者は犯罪組織の一員で、もめごとに巻き込まれたのではないか」という先入観を持っていたことだ。10件の犯罪が、同じネオナチ組織による連続射殺事件だと考えた捜査員は、1人もいなかった。マスコミも、「トルコ人の間の内輪もめ」という警察の見方を鵜呑みにして、偏見に満ちた報道を行った。

しかも今回の犯人たちは、90年代に入ってから何度も軽犯罪を繰り返しており、1998年には警察の家宅捜索を受けている。この時にイエナのアジトからパイプ爆弾やTNT火薬、宣伝ビラなどが見付かったため、警察は逮捕状を取った。しかし、3人は検挙される前に姿をくらまし、その後13年間にわたって地下活動を続けながら、犯行を繰り返していた。

テロを準備していたことを示す物品が押収されたのに、容疑者がやすやすと逃げられたというのは不可解である。もしもこの時に、捜査当局が3人を逮捕していたら、10人の犠牲者は命を落とさずに済んだかもしれない。そう考えると、警察の責任は大きい。連邦政府が、被害者の遺族に1万ユーロの賠償金の支払いを検討しているのは、当然のことだ。

さらに唖然とさせられるのは、国内のテロ組織やスパイなどを監視する諜報機関、連邦憲法擁護庁(Bundesamt für Verfassungsschutz)が、この事件についての情報を全くキャッチできなかったことだ。憲法擁護庁は、テロ組織などにスパイを送り込むことを許されている。たとえばNSUのメンバーたちが以前属していた「テューリンゲン祖国防衛隊」のティノ・ブラント代表は、憲法擁護庁から金をもらって、同庁に情報を提供していた。彼が受け取った報酬は10万ユーロ(約1000万円)に達する。憲法擁護庁は、こうした情報源を持っていたにもかかわらず、13年間に全国で行われてきた殺人、爆弾テロ、銀行強盗がNSUのメンバーによるものだということを掴むことができなかった。これでは、何のためにネオナチに多額の報酬を与えて情報源として雇っているのかわからない。しかもこの報酬は、国民の税金から支払われている。ネオナチの情報提供者は、この報酬を極右団体の活動に使うことを許されている。我々の血税がネオナチの活動を間接的に助けているというのは、正に噴飯物ではないか。

3人の男女が、本名の健康保険や免許証も使わずに13年間も地下生活を送るには、友人たちによる支援が不可欠だ。今回の事件の背景には、極右思想に対する旧東ドイツ社会の寛容さもあるように思われる。

憲法擁護庁が極右による連続テロをキャッチできなかった原因の1つは、2001年の同時多発テロ以降、同庁がイスラム系テロ組織の監視に多数の人員を割かざるを得なくなり、極右への監視が手薄になったことだ。また、憲法擁護庁は諜報機関であるために組織が縦割りになっており、各州の間で横の連絡がなかったことも災いした。NSUは、そうした組織の弱点を知っているかのように、バイエルン州からハンブルクまで、州の境を越えて広域的に犯罪を繰り返していた。連邦政府は警察と憲法擁護庁の組織を改革して事態の再発を防がなければ、犠牲者たちが浮かばれない。

2. Dezember 2011 Nr. 896

 
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

熊谷徹
1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題を中心に取材、執筆を続けている。著書に「ドイツの憂鬱」、「新生ドイツの挑戦」(丸善ライブラリー)、「ドイツ病に学べ」、「住まなきゃわからないドイツ」、「びっくり先進国ドイツ」(新潮社)など。
http://www.tkumagai.de
Japan Airlines
ドイツからのお引越しはグローバス・リロケーション ドイツ・デュッセルドルフのオートジャパン 車のことなら任せて安心 日本メディカルセンター" 習い事&スクールガイド バナー バナー

ロンドンのゲストハウス