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過去を反省する警察

過去を反省する警察ドイツの連邦刑事局(BKA)が、今年9月に「終戦直後、西ドイツの警察幹部の中にはナチスの関係者が多く含まれていた」とする調査結果を自ら発表した。ナチス時代の過去と批判的に対決する、ドイツ社会の執念を示す出来事だ。

ヨルク・ツィールケ長官の発表によると、ナチス政権の下で警察官だった者は、戦後の警察組織で簡単に再就職することができた。BKAは1951年に創設されたが、50年代の末には、BKA幹部の大半が、悪名高いSS(親衛隊)の幹部で占められていた。中には、戦争中にユダヤ人虐殺を企画、実行した帝国保安主務局(RSHA)の関係者まで混ざっていた。

ドイツの警察は39年に、SSとともにRSHAの傘下に置かれた。そして戦争中には多くの警察官が、ユダヤ人虐殺を専門に行った特務部隊(アインザッツ・グルッペ)に加わり、人道に反する犯罪に関与したのである。

例えばヴィルヘルム・ヴァグナーという警官は、戦争中に憲兵だった。彼は42年8月に、親衛隊が8000人のユダヤ人をポーランドのクラクフ近郊からベルゼック強制収容所へ移送した際に、警戒任務にあたっていたが、その際に29人のユダヤ人を射殺した。彼は戦後、故郷のバイエルン州に復員してから再び警察官になり、56年に警視に昇進した。だが後に殺人の罪に問われて、88年に終身刑の判決を受けている。虐殺の片棒を担いでいた人物が、警察幹部になっていたとは驚きである。西ドイツでも、50年代には過去との対決が今日ほど積極的に行われていなかったことを示している。

ナチス党員が多かったことは、戦後のBKAの捜査方針にも影響を及ぼした。親衛隊員は、強い人種差別の傾向を持っていたため、BKAは一部の少数民族に対して「潜在的な犯罪者」という偏見を持ち、80年代まで彼らに関するブラックリストを持っていた。また、警察の内部文書でも、この少数民族を頭から犯罪的分子と決めつける文章が目立った。これは、ナチス時代の警察とあまり変わらない姿勢である。

ツィールケ長官は言う。「第二次大戦から60年以上経ったが、それはまだ過去の出来事ではない。今日の警察官も、過去に警察が犯した残虐行為を忘れるべきではない。あのような惨事が起きたことの原因、そして人々の当時の振る舞いについて、われわれは問い続けなくてはならない」

2007年になってようやくこのような調査結果が発表されるとは、いささか遅すぎる。それでも、警察のように保守的な組織が、前の世代が犯した過ちを水に流さず、歴史の恥の部分を「摘発」する姿勢は評価したい。対外諜報機関であるBND(連邦情報局)も、歴史家に依頼してナチスの高官が要職に就いていた実態について調査し、発表する予定である。ドイツ人にとってナチス時代の過去は、容易には過ぎ去らないのだ。

23 November 2007 Nr. 690

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
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