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演劇作家・岡田利規さんインタビューホームオフィスから見つめ直す価値観

日本を代表する演劇作家・岡田利規さんの新作「Homeoffice」が、デュッセルドルフ・シャウシュピールハウス(D’haus)で上演中だ。コロナ禍を経て「ホームオフィス」(在宅勤務)は国を問わず多くの人が経験したが、そんな私たちに同作は面白おかしくもさまざまな疑問を投げかけてくる。作品の背景や制作過程について、岡田さんにお話を伺った。(文:ドイツニュースダイジェスト編集部)

ホームオフィスから見つめ直す価値観

岡田利規さん

Toshiki Okada岡田 利規さん

1973年横浜生まれ、熊本在住。演劇作家、小説家、演劇ユニット「チェルフィッチュ」を主宰する。従来の演劇の概念を覆す活動は国内外で注目され、数々の賞を受賞。2026年に東京芸術劇場の芸術監督(舞台芸術部門)に就任予定。
https://chelfitsch.net

「ホームオフィス」は本当にいいものか?

とある企業のリモート会議。舞台上では、自宅やホテルなどそれぞれの場所から会議に参加する様子を7人の役者が演じる。会議中に途切れる回線、上半身だけスーツを着用……など、ホームオフィスを経験したことがある人なら誰しも覚えがある光景かもしれない。そんな「あるある」がちりばめられた作品「Homeoffice」の背景にあるのは、やはり2020年のコロナ・パンデミックだ。

「パンデミックの時、ホームオフィスをせざるを得ない状況でしたよね。ホームオフィスについて『とりあえず面白いし、いいんじゃない?』って、われわれは思おうとしていたと思うんですよ。通勤しないでいいし、終わったらもうここが家だしさ、みたいに。でも本当にそうなのか。自分はホームオフィスをどう思っているのか、もしかしたらよく分かっていないかもしれない。さらに、働くとはどういうことか、自分の仕事は何なのかをあらためて突きつけられた側面もある。そういうテーマを扱ってみたいと思ったんですね。しかもそれをオンライン上の演劇ではなく、『オンラインだけでつながっているという設定』を舞台上でやることが面白いんじゃないかと」

岡田さんは作品の出発点についてそう語る。舞台上に役者全員が常に見える状況は、同じ画面に全員が映るリモート会議とどこか似ているところもあるが、演劇では特殊なこと。俳優たちは自分のセリフがない場面でも常に演技し続ける必要があり、「役者さんは大変だったと思います」と岡田さん。

Homeoffice

また役者がPCに向かって話すという設定は、今までの演劇にはない新しい試みだったという。「オンライン上で話すとき、PC越しに誰かがいるからしゃべっているんだけど、実際はその空間には一人しかいない。それって独り言を言っているのと同じですよね。それでお客さんは気付くんです、『これは自分だ』って。舞台が鏡のような働きを持つのは演劇の面白い点の一つだと思っているのですが、その鏡の要素が大きい作品になったと思います」。「Homeoffice」には、そうした今では当たり前となってしまった習慣や感覚について、観る人にあらためて考えさせる場面が多々登場する。

デュッセルドルフならではの作品づくり

D’hausのレパートリー作品として、ドイツ語で制作された本作。すでにドイツで何作品も上演を重ねてきた岡田さんだが、作品を制作する上で特別にドイツを意識するわけではないと話す。「日本でもドイツでも自分の目標は変わらなくて、それは『僕がやりたいこと』を実現すること。でもそれを自分自身がやるわけではない。主には俳優ですけど、その人たちに『僕がやりたいこと』を分かってもらうことが重要で、それができるとうまくいくんですね」。

一方で、デュッセルドルフに住む日本人に劇場に来てもらいたいというD’hausの希望から、日本語字幕付き上演が実現した。さらに劇中、一人の役者が突然日本語で話し始めるシーンも。「モトジロウ役のトーマス・ハウザーはもともと日本語を勉強していて、本人から日本語のセリフを入れてほしいと言われて。そのリクエストがなかったら、そんなふうにはならなかった。僕は事前にこうするって何も考えていなくて、全部その場のノリで決めますね」と岡田さん。ちなみにハウザーさんは、過去にも岡田さんの作品に出演している。今回のキャスティングでは、すでに岡田さんを知っている役者がいるといいだろうという理由もあって、ハウザーさんの出演が決まったという。こうして「Homeoffice」は、日本にゆかりのあるデュッセルドルフならではの作品に仕上がった。

4月20日に行われた初演は大盛況で、直近では5月28日(火)と6月10日(月)に上演される予定だ。最後に「ドイツは演劇のプレゼンスが高いと感じる」と岡田さん。日本では観劇は敷居が高いと思われがちだが、ここドイツでは劇場が市民に開かれていて、演劇を身近に感じることが少なくない。演劇ファンはもちろん、家族や友人と初めての観劇に「Homeoffice」を観に行ってみてはいかがだろうか?

INFO

Homeoffice ホームオフィス

とある企業に務めるモトジロウは、自宅の台所でホームオフィスをしていた。同僚たちへのフラストレーションが溜まっていた彼は、一つの物語を執筆することで復讐劇を企てる。

作・演出:岡田利規
ドラマトゥルギー:マティアス・リリエンタール、山口真樹子、ローベルト・コアル
出演:ソニヤ・バイスヴェンガー、トーマス・ハウザーほか
www.dhaus.de/programm/a-z/homeoffice

 
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