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新しい気持ちで新年へ 〜ドイツと日本の願い事比べ〜

サンドラ・ヘフェリン イラスト: ©Maki Shimizu
プロフィール
ミュンヘン出身の日独ハーフ。日本在住歴16年。『ハーフとバイリンガル問題』『ハーフはナニジン?』『ハーフといじめ問題』など、ハーフを中心とした執筆・講演活動を行っている。著書に『浪費が止まるドイツ節約生活の楽しみ』(光文社)ほか、『ハーフが美人なんて妄想ですから!!』(中公新書ラクレ)、『ニッポン在住ハーフな私の切実で笑える100のモンダイ』(メディアファクトリー)など。 http://half-sandra.com

ドイツではクリスマスを家族と過ごし、日本ではお正月を家族と過ごす。日本とドイツのクリスマス、お正月の過ごし方にはそんな違いがありますが、年始には1つ、共通点もあります。それは、日本人もドイツ人も「新年の抱負」を掲げるのが好きだということ。ドイツ語で新年の抱負は「Gute Vorsätze für das neue Jahr」と言います。この新年の抱負には、日本とドイツで違いがあるのでしょうか。早速、いろいろな資料を調べてみたところ、どうやらその内容に、両国の差はあまりなさそうでした。

では実際に、新年の抱負にはどのようなものがあるか、見てみましょう。ドイツでは、「健康的な食事をする」「もっと健康に気を配る」「ストレスをなくす」「もっと運動する」「理想の体重になる」「テレビを観る時間を減らす」「禁煙」「禁酒」などが多いようです。このほかに、「家族や友達のためにもっと時間を作ること」というのもありました。ドイツでは有給休暇が年間約30日あり、日本の会社よりも残業時間がかなり少ないので、これを“目標”とするドイツ人は、もしかしたらワーカホリックなのかも? また一部には、「もっと水を飲むこと」「自転車で通勤すること」なんていう抱負もあります。これは、やはり健康、そして環境保護を考えてのことでしょうか。

さて、すでにご覧いただいたように、全体的にドイツ人の新年の抱負には身体に関係したものが多く見受けられます。それぞれ使っている言葉にこそ違いはあれ、健康な食事をする、運動する、理想の体重になる、禁酒する、というのはどれも、つまるところ“痩せる”ということですよね(笑)。ドイツには肥満体型の方が多いので、太っていることを気にして「今年こそは!」とダイエットに気合いが入るのかもしれません。

一方、日本人には比較的痩せている方が多いので、ダイエット絡みの新年の抱負はあまりないかというと、そんなことはありません。ダイエットも運動も、日本人がよく掲げる抱負です。ドイツ人からすると、太っている日本人は多くないのに……と、ちょっと不思議な感じもします。その他、ドイツ人と同様、「仕事とプライベートのバランスを取る」や「家族との時間を増やす」「もっと趣味のための時間を作る」なども見受けられます。こうして見ると、もしかしたら学校が忙しかったり、残業の多い仕事、または有給休暇があまり取れない会社で働いていたりするのかなと、余計な心配をしてしまいます。

イラスト: ©Maki Shimizu
イラスト: ©Maki Shimizu

ところで、私はお正月の初詣で売られている絵馬が好きです。絵馬は、新年の願い事と共に自分の名前を書いて奉納しますよね。これは、ドイツ人的な感覚からすると、実に潔い! と思います。なぜなら、自分の今年の目標や願い事、つまり自分の心の内に実名を添えたものが他人の目に触れるのですから。しかし考えてみれば、そのように堂々と願い事をした方が身も引き締まり、実現に向けて頑張れるのかもしれません。

絵馬に書かれている願い事の内容は、自分や家族の健康を願うものや「子宝に恵まれますように」「皆で仲良く暮らせますように」といったもの、さらには受験生の合格祈願が多いようです。合格祈願は、受験制度が存在しないドイツでは聞かれない願い事です。このほかによく目にするのが、「結婚できますように」という内容。これはドイツ人からすると、大変面白い願い事です。というのも、男性とお付き合いをする中で「この人と結婚したい!」と考える女性はいますが、漠然と「結婚したい」と考えるドイツ人女性は、あまりいないからです。したがって、新年の抱負や願い事に「結婚する」または「結婚したい」と掲げることは、ドイツではほとんどありません。こういった結婚願望というのは、ひょっとすると日本特有のものなのかもしれません。

ドイツの新年の抱負を調べる中で、「Nicht mehr bei Rot über die Straße gehen, wenn Mütter mit kleinen Kindern in der Nähe sind.(赤信号の時、近くに小さな子どもを連れた母親がいる場合は信号無視をしない)」という珍しいものを見付けました。歩行者としての過去の過ちを省みる内容で、来年は“善い人”になるという誓いが込められています。この抱負には、ちょっとした「懺悔(ざんげ)」の気持ちが表れていて、キリスト教の信仰心がうかがえます。私自身、小学生の頃、ドイツの学校で、宗教の授業の一環として教会で懺悔をした際、神父さんに「信号が赤だったのに、無視して渡ってしまいました」と話した記憶があります。

日本では、願い事を書く機会は絵馬だけでなく、七夕の短冊もあります。短冊には、ときに面白い願い事が書かれています。「天ぷらを上手く揚げられますように」「お父さんの髪が増えますように」「レディー・ガガに会えますように」「テストで平均点を取れますように」という願い事を見たときには、思わず笑みがこぼれました。絵馬にも「九九ができるようになりたい」「逆上がりができますように」といった、子どものかわいい願い事がある一方で、神社という場がそうさせるのか、七夕の短冊よりも真面目な願い事が書かれていることが多い印象を受けます。中には「離婚した夫(実名入り)が養育費を毎月支払ってくれますように」という切実な内容も。養育費がきちんと支払われることを願うばかりです。

話は変わりますが、今回日独の新年の抱負を調べる中で、ドイツの面白い地域別調査を見付けました。新年の抱負を実行できている住民の割合を比較した州別ランキング* です。それによると、新年の抱負を実行に移している人が多い州のベスト3は、1位ブランデンブルク州(全人口の60%)、2位シュレスヴィヒ=ホルシュタイン州(同59%)、3位ラインラント=プファルツ州、テューリンゲン州、メクレンブルク=フォアポンメルンの3州(同57%)です。そして、国内で最も新年の抱負を達成できない州はというと……なんと私の出身地、バイエルン州(同45%)! 異論はございません。というのも、南ドイツの、特に年配の男性には口達者な人が多く、「Nächstes Jahr wird alles anders! Da wird nix mehr getrunken.(来年はがらっと変わる! もうお酒は一切飲まない)」などと言いながら、ビールで乾杯するんですもの。なんだか“やるやる詐欺”が非常に多い気がいたします(笑)。

というわけで、2014年が皆様にとって素敵な1年になりますように。
Ein gutes Neues Jahr!

*出典:公的保険会社DAK「健康バロメーター 2011」

参考資料&URL
● エーシーニールセン・コーポレーション株式会社 http://jp.nielsen.com
ニュース・リリース「新年の豊富に対する日本人の関心は薄い」(27.12.2006)
http://de.statista.com „Gute Vorsätze für 2013“ (30.12.2012)
www.workingoffice.de „Gute Vorsätze für 2011“ (12.2010)

 
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