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エジプトへ!マックス・スレーフォクトとパウル・クレーの旅


エジプトへ!マックス・スレーフォクトとパウル・クレーの旅ドイツ印象派を代表する画家マックス・スレーフォクト、
詩情豊かな独自の絵画世界を極めたパウル・クレー。

全く作風の異なる画家の「2人展」が、エジプトというテーマの下、ドレスデン国立美術館とデュッセルドルフK20の共同プロジェクトとして初めて実現した。

通常はほとんどドレスデンの館外へ出ることのないスレーフォクト作品にも触れられる貴重な展覧会だ。同展で、20世紀初頭の近代絵画の軌跡をじっくりとたどってみよう。


2014年9月6日(土)~2015年1月4日(日)
火~金 10:00~18:00 土日祝日 11:00~18:00
毎月第1水曜 10:00~22:00(18:00以降入場無料)
月曜休館
入場料:大人12ユーロ、割引9.50ユーロ、団体(10人以上)1人9ユーロ
Kunstsammlung NRW K20 Grabbeplatz
Grabbeplatz 5 40213 Düsseldorf
Tel: 0211-8381 204 www.kunstsammlung.de
Kunstsammlung NRW K20 Grabbeplatz

アフリカ大陸は19世紀後半から20世紀前半に掛けて、欧州知識人たちの“巡礼の地”だった。この地で見聞を広め、教養と知見を高める。それは偉大な古代文明とエキゾチックな風土に触れ、欧州文明のルーツを確認すると同時に客観化するための試みだった。こうした時代背景の下、近代絵画の先駆者たちは創作上の新しいインスピレーションを得るためにチュニジア、アルジェリア、そしてエジプトへと渡った。ルノワール、カンディンスキー、マティス、ココシュカ……。マックス・スレーフォクトとパウル・クレーの旅も、この伝統を継承するものだった。

スレーフォクトは1914年春にエジプトへ向けて出発した。当時のエジプトは大英帝国の保護国。ドイツもまだ帝政が敷かれていた時代だ。スレーフォクトは元来、異文化やエキゾチシズムに傾倒しており、ドイツのアトリエでも『アリババと40人の盗賊』などの出版物に細密な挿絵を描く中東ファンだった。それでも現地の印象は、想像をはるかに超えるものだったようだ。「これこそ真正のオリエント」「何もかもが異なっている」と家族への手紙に興奮を伝えている。

Max Slevogt

エジプトでスレーフォクトは、屋外での制作に専念した。強い太陽の下で輝く白いターバンを巻いた男たちや、深くうねるターコイズブルーの海を、夢中で描き続けた。その手法は写実的で自然主義的。バザール、モスクでの祈り、半裸の子どもたち、砂漠や小さな漁村など、絵のモチーフはどの作品にも明確に見て取ることができる。同時に筆触を強調し、コントラストの強い色の組み合わせを採用した点では印象主義的だ。

彼は挿絵のドローイングで培った高い技術をカンバス上で自在に展開し、非常に素早く、かつ正確に対象を描写した。「自分は対象を見て消化し、再現する機械のようだ」と語っている通り、驚異的なスピードで39日間の滞在中に21枚の絵を完成させた。2時間で1枚を仕上げた日もある。エジプトの太陽と風土が、彼自身もそれまで意識していなかった創作エネルギーを呼び覚ましたのだろう。こうして生まれた作品群は、作家が現地で受けた印象を鮮烈に伝え、スレーフォクト自身の代表作となると同時に、後にドイツ印象派絵画の頂点に位置付けられた。

一方、クレーは14年後の28年末にエジプトを訪れ、17日間滞在した。クレーの姿勢がスレーフォクトと決定的に異なる点は、現地ではほとんど制作をせず、帰国後にアトリエで初めて筆を取ったことだ。エジプトで得たインスピレーションを自分の中で熟成させ、様々な技法を試しながら表現し、時間を掛けて描き直す作業を通して、ようやく作品へと昇華させたのだった。

スレーフォクトと同様、クレーも名所や遺跡を訪ねているが、強く魅かれたのはむしろ、ナイル河畔の肥沃な灌漑(かんがい)農地の風景。「(河の)流れは動脈だ。野菜や果樹の緑が実に豊かだ」と書き残している。帰国した1929年には、「積み重ね絵画(Lagenbilder)」と呼ばれる作品が80枚余り誕生した。大きさの異なる横長の長方形を水平に積み重ねたこの構成は、旅の前から採用していたものだが、ナイル河畔の整然と区画割りされた農地の印象がこのスタイルを決定的にしたと言われる。代表作は『測量後の畑』『本道と脇道』などだ。

Paul Klee

特に『本道と脇道』では、 幾十もの不規則な間隔の水平線と、画面中央上に向かって斜めに引かれた何本もの垂直線によって遠近法の効果が生まれ、天上まで続く石段のような荘厳な構成が生まれている。これをピラミッドに重ね合わせることも可能だろう。また、細かい傷状に仕上げた表面は遺跡のそれを思わせる。くすんだ青緑と淡いオレンジなどを組み合わせた色使いも素晴らしく、クレーには珍しい大型作品であるため、この展覧会のハイライトの1つとなっている。

また、『エジプトからの眺め』『ナイルの伝説』などの作品ではタイトルから、また象形文字めいた記号を用いていることから、エジプトとの関連がうかがわれる。しかし、作品全体としてはイスラム世界のエキゾチシズムでなく、あくまでもクレー独特の謎めいたポエジーが前面に出ており、エジプトでの体験もまた、1つの文化や宗教に傾倒しないクレーの普遍的世界観に取り込まれたことを物語っている。

(K20非常勤スタッフ 田中聖香)

 
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