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ドイツの造り手が指標とするブルゴーニュのワイン

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番外編 フランスワインドイツの赤ワインの造り手には、ブルゴーニュ地方の赤ワイン造りから学ぼうとしている人が多い。それは、ドイツとブルゴーニュで同じ赤ワイン品種、ピノ・ノワール(シュペートブルグンダー)が栽培されているからでもある。世界的名声を有するブルゴーニュの赤、厳密に言うとコート・ド・ニュイ地域の赤、それはドイツの造り手に限らず、世界各地のピノ・ノワールの造り手にとっての指標となっている。

コート・ド・ニュイは、ドイツのワイン産地と似た大陸性気候。ローヌ川の西に広がる中央高地にある程度守られ、年間降水量は比較的少ないものの、収穫期の天候が不安定だったり、晩霜や雹(ひょう)の被害があるなど、ワイン造りには様々な困難が伴う。このように自然に翻弄されながら、ブレンドを行わず、単一品種からなるワインを生産しているという共通点があるため、ドイツの造り手はますますブルゴーニュに注目するのだろう。

ブルゴーニュにおけるワイン造りは、ローマ帝国の支配下、現地のケルト族によって始められたとされる。その後、ワイン造りは主に修道院の事業となる。13世紀頃までブルゴーニュワインは白ワインが主流で、現在も北のシャブリ地域のほか、コート・ド・ボーヌ地域からマコネ地域にかけては主に白ワイン(シャルドネ種)が生産されている。ピノ・ノワールが登場したのは4世紀頃という説があるが、文献に初めて登場するのは1370年。ドイツのラインガウ 地方では、13世紀にシュペートブルグンダーが栽培され始めたという記録がある。

ブルゴーニュ地方のぶどう栽培面積は、ボジョレーを除いて約26.000ヘクタールで、ドイツのラインヘッセン地方の栽培面積に相当する。大雑把に分けると、ピノ・ノワールの栽培に向いている石灰岩と泥灰岩(マール)の混在土壌と、シャルドネに適したチョーク質土壌を含む粘土質土壌の2つのタイプがある。

ブルゴーニュの赤ワインの醸造には、今日なお伝統製法が活きている。厳選されたぶどうを除梗(じょこう)して果皮と接触させながら発酵を行って、圧搾したのち、フレンチオーク樽で熟成させるという一連のプロセスにおいて、多くの造り手が手作業を惜しまない。工程の機械化も手作業の延長線上にある。ワインはすべて辛口仕立てで、品質の違いは主に畑と収穫量の違いである。最高品質を誇るグラン・クリュ(特級)やプルミエクリュ(1級)の畑は、標高約250 ~ 300メートル辺りの斜面に広がっている。この程度の標高になると、土壌に占める岩石の割合が高く、水はけが良くなるため、肥沃な低地のようにぶどうの根が甘やかされることがない。

ドイツ人は、ピノ・ノワールのことを「赤いリースリング」と言う。ピノ・ノワールという品種はリースリングと似て、テロワール(土壌)ごとに異なる表情を見せ、その表情は無限だ。だからこそ、この品種は造り手の挑戦欲を駆り立てるのかもしれない。リースリングとの共通点は、まだほかにもある。それは、いずれもエレガントさや軽やかさを持ち、飲み手に活力を与えてくれるワインということだ。

※ブルゴーニュワインに関する詳しい情報は、以下のオフィスに問い合わせるか、ウェブサイトをご参照ください。
Bureau Interprofessionnel des Vins de Bourgogne
12 boulevard Bretonnière BP 150
21204 Beaune Cedex, France
このメールアドレスは、スパムロボットから保護されています。アドレスを確認するにはJavaScriptを有効にしてください
www.bourgogne-wines.jp(日本語)

Domaine Georges Mugneret-Gibourg (ジョルジ・ミュネレ=ジブール醸造所)

ワイン ミシェルさんとロレットさん夫婦
左がマリ・アンドレさん、右が姉のマリ・クリスティンさん

世界中のワイン愛好家の巡礼地、ヴォーヌ=ロマネ村にあるロマネ・コンティの畑の程近くに、ドメーヌ・ジョルジ・ミュネレ=ジブールがある。ここでワイン造りに取り組んでいるのは、マリ・アンドレ(Marie-Andrée)とマリ・クリスティン(Marie-Christine)の姉妹。2人は1980年代後半に若くして亡くなった父親の後を継ぎ、醸造家となった。マリ・クリスティンは薬学を専攻したが、彼女の研究テーマはワインを医薬品として分析するというもの。マリ・アンドレはディジョンで醸造学を修めた。

所有畑はブルゴーニュのあちこちの村に分散している。グラン・クリュはルショット・シャンベルタン、クロ・ヴージョ、エシェゾーに、プルミエ・クリュはシャンボール・ミュジニーの「レ・フスロット」、ニュイ・サン・ジョルジュの「ル・シェニョ」、「ル・ヴィニェ・ロンド」にある。

ブルゴーニュでも、女性が醸造家として活躍するようになったのは最近のこと。その先駆者に、マダム・ルロワ(ラルー・ビーズ・ルロワ)とアンヌ・グロがいる。「ブルゴーニュは男社会だったけれど、今ではエチケットに夫婦の名前が並記されるようになった。でも、女性は体力的には男性に適わない。醸造工程が機械化されていない昔だったら、絶対に無理だったわ。その点、私たちの時代はとても恵まれている」とマリ・アンドレ。 しかし、女性は家事を避けて通れない。マリ・アンドレは、6時には仕事を終えて母親になる。それが可能なのは、メタイアージュ(分役耕作)というシステムのおかげだと言う。メタイアージュとは、例えば畑仕事をほかの醸造所に依頼し、収穫の半分を報酬として分与するという制度だ。

祖父や父から多くを学んだというマリ・アンドレ。「特に父からはテロワールを大切にすること、きちんと働くこと、そしてワインが人間関係の潤滑油でなければならないということを教えてもらった」と言う。彼女たちが造るワインには、飲み手の心を和ませる誠実な味わいがある。

ワイン ミシェルさんとロレットさん夫婦
彼女たちのワインセラー

Domaine Georges Mugneret-Gibourg
5, rue des communes
21700 Vosne-Romanée
Tel. +33-(0)3-80610157
www.mugneret-gibourg.com

 
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岩本順子(いわもとじゅんこ) 翻訳者、ライター。ハンブルク在住。ドイツとブラジルを往復しながら、主に両国の食生活、ワイン造り、生活習慣などを取材中。著書に「おいしいワインが出来た!」(講談社文庫)、「ドイツワイン、偉大なる造り手たちの肖像」(新宿書房)他。www.junkoiwamoto.com
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